Scope 3排出量推定ツール:不動産 | ciferi
不動産企業にとって、Scope 3排出量は企業全体の温室効果ガス排出の中核を占めている。オフィスビル、商業施設、住宅の運営から生じる排出量は、多くの場合、Scope 1およびScope 2を上回る。建物の用途段階での電力消費、テナントの日常的な活動、建設資材の上流排出: :...
日本における不動産セクターのScope 3排出量
不動産企業にとって、Scope 3排出量は企業全体の温室効果ガス排出の中核を占めている。オフィスビル、商業施設、住宅の運営から生じる排出量は、多くの場合、Scope 1およびScope 2を上回る。建物の用途段階での電力消費、テナントの日常的な活動、建設資材の上流排出: : これらが金融庁やGHPプロトコルが要求する排出量インベントリに不可欠な要素である。
本推定ツールは、日本の不動産事業者向けに設計された。ESRS E1および国際GHPプロトコルに準拠する数字を生成し、そのまま監査証拠として機能する。
日本における規制環境
金融庁による要件
金融庁は、上場企業のサステナビリティ開示に対して段階的に要件を強化している。「コーポレートガバナンス・コード」の改訂により、取締役会はクライメートリスク情報の開示を求められる。不動産セクターの上場企業は、特にScope 3排出量の測定と報告を重視すべきである。金融庁が2024年に発表した監視結果では、不動産セクターのScope 3排出量報告が、他の産業セクターと比べて精度が低いことが指摘された。
グリーンビルディング基準との連携
日本は「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)により、一定規模以上の建築物に対してエネルギー消費量の報告を義務づけている。不動産企業はこの報告データをScope 3排出量計算の基礎として活用できる。
日本の電力グリッド排出係数
2024年時点で、日本の電力グリッド排出係数は地域によって異なる。一般的に、0.45~0.55 kg CO2e/kWh(ロケーションベース)である。これは欧州諸国と比べてやや高く、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い低下傾向にある。不動産企業が多くのテナント建物を所有する場合、地域ごとの電力係数を適用することが求められる。
不動産セクターにおけるScope 3カテゴリー別排出源
カテゴリー1:購入した商品・サービス
建設資材、修繕用材料、建築設備の製造段階排出。日本の不動産企業にとって重要なカテゴリーである。例えば、オフィス改装時のセメント、鋼材、配線、設備機器の調達排出を含む。
カテゴリー3:燃料・エネルギー関連活動
購入電力の上流排出(発電過程での排出)およびT&D損失。これはカテゴリー11(使用段階)と異なり、発電所から配電網への過程での排出を指す。
カテゴリー6:出張
従業員が不動産視察、テナント訪問、営業活動のために移動する際の排出。国内フライト、新幹線、自動車が主要な移動手段である。
カテゴリー7:従業員通勤
社員が自宅から本社、営業所へ通勤する際の排出。日本の都市部では公共交通利用率が高いため、欧米よりも排出係数が低い傾向にある。
カテゴリー9:販売後の物流
テナント向けに賃貸物件を提供する際の運搬排出。これは不動産サービス自体には直結しないが、設備や家具の配送時には該当する。
カテゴリー11:販売製品の使用段階
テナントが占有する建物内での電力消費。これは不動産企業が管理・提供する建物について、テナントの日常運営から生じる排出である。Scope 3で最大の排出源になることが多い。
カテゴリー13:下流リース資産
不動産企業が所有し第三者に賃貸している物件の運営排出。建物の冷暖房、照明、給湯、その他の施設維持に伴う排出。
不動産企業にとりての排出量推定プロセス
ステップ1:ポートフォリオの確認
最初に、企業が保有・管理するすべての不動産物件をリストアップする。各物件について、以下の情報を収集する必要がある。
ステップ2:エネルギーデータの収集
建築物省エネ法に基づく報告書、または各地域の電力会社・ガス会社からの請求書をもとに、年間エネルギー消費量を整理する。可能な限り実測値を用いる。
例)株式会社東京不動産開発の場合:東京都内で管理する3棟のオフィスビル、総床面積45,000平方メートル、年間電力消費量3,600万kWh。この数字を本ツールのカテゴリー11入力欄に入力する。
ステップ3:排出係数の選択
地域別、用途別の排出係数を適用する。日本国内の物件については、金融庁およびGHPプロトコル推奨の排出係数を使用する。本ツール内で提供される係数は、日本の電力グリッド最新データに基づいている。
ステップ4:計算と文書化
ツール内で各カテゴリーの排出量を計算したら、その結果を監査調書に保存する必要がある。各計算ステップ、使用した排出係数、そのソースを明記すること。(使用した排出係数の出典:金融庁2024年版ガイダンス、GHPプロトコル日本語版)
ステップ5:エクスポートと報告
ツールから監査作業用ペーパーをエクスポートし、企業の経営陣、外部監査人、また必要に応じて金融庁への報告に用いる。
- 物件の床面積(平方メートル)
- 用途(オフィス、商業施設、住宅、その他)
- 所有形態(完全所有、共有、リース)
- 年間エネルギー消費量(kWh、ガス使用量など)
- テナント数、従業員数
日本の不動産セクターにおける一般的な誤り
誤り1:Scope 3の範囲を過度に狭くする
多くの不動産企業は、カテゴリー1と13のみを計算対象とし、カテゴリー3、6、7、11を除外する傾向がある。金融庁のモニタリング結果では、2023年度の監視対象企業の約35%がこの誤りを犯していた。(出典:金融庁2024年度モニタリングレポート) カテゴリー11(テナント建物の使用段階排出)は、多くの不動産企業にとって全排出量の60~80%を占める。この項目を除外すると、報告数字は大幅に過小評価されることになる。
誤り2:電力グリッド排出係数の更新忘れ
日本の電力グリッド排出係数は、再生可能エネルギー導入の拡大に伴い毎年低下している。2022年の係数を2024年度の報告に使い続けている企業が散見される。これは過去2年間のエネルギー消費量が一定であっても、排出量の減少傾向を説明できず、監査人からの質疑を招く。必ず当該会計年度対応の係数を適用すること。
誤り3:テナント対応部分の二重計上
不動産企業がテナント部分の電力消費を含めて報告する一方で、テナント企業自身もScope 1またはScope 2として計上する場合、結果として排出量が二重計上される。Scope 3の定義上、テナント企業自身の占有部分の排出は、その企業のScope 2(購入電力)に該当する。不動産企業は、自社が管理・提供する建物内の共有部分(廊下、受付、駐車場など)のみをカテゴリー13として報告すべき。その旨を監査調書に文書化すること。(当該建物は延床面積25,000平方メートルで、そのうち共有部分4,500平方メートルの電力消費を報告対象とした。テナント専有部分20,500平方メートルはテナント企業のScope 2計算対象外である)
誤り4:建設・改装時の排出除外
オフィス改装やビル大規模修繕時に発生するカテゴリー1(建設資材の製造排出)を、単発の事象として除外する。実際には、不動産企業は継続的に修繕・改装を実施する。複数年の平均値として組み込むべき。
誤り5:排出係数ソースの混同
複数の排出係数データベース(GHPプロトコル、DEFRA、ICBISS等)から異なるカテゴリーの係数を混在させると、後年の監査で一貫性の質疑が生じる。一つのデータソースを選定し、全カテゴリーで統一したうえで、その選定理由を明記しておくこと。
監査人が検査するポイント
日本公認会計士協会(JICPA)およびその傘下の監査事務所がScope 3排出量報告を検証する際、以下の点に注目する。
- 排出係数の時点性:報告年度に対応した最新の排出係数が使用されているか
- カテゴリーの完全性:15カテゴリーすべてが検討され、除外されたカテゴリーについて根拠が記載されているか
- ソース文書の追跡可能性:電力検針票、ガス検針票、交通費支出記録など、基礎となるデータが保持されているか
- 方法論の一貫性:前年度から方法論を変更した場合、変更の理由と影響額が開示されているか
- 関連当事者との整合性:テナント企業の報告数字との間に矛盾がないか
実務的なガイダンス
データ収集の実務
日本の不動産企業は、以下のデータソースから排出量推定に必要な情報を入手できる。
排出係数の適切な選択
カテゴリー11(テナント建物の使用段階)については、ロケーションベース係数を適用する。2024年の日本の地域別係数は以下の通り。
カテゴリー1(建築資材)については、支出ベースの排出係数を用いるか、または物量ベース(トン数)で計算するかを選択できる。支出ベースの場合、製造セクターの平均値として0.42 kg CO2e/円を使用することが一般的である。
監査調書への記載
各Scope 3カテゴリーについて、以下の項目を監査調書に記載する。
(例)カテゴリー13「下流リース資産」については、当社が東京都内で管理する5棟のオフィスビル(総床面積38,000平方メートル、そのうち共有部分5,200平方メートル)を対象とした。共有部分の年間電力消費量は156万kWhで、これに2024年度の東京電力地域係数0.47 kg CO2e/kWhを乗じて73万3,200kg CO2eを算出した。基礎データは各棟の月別検針記録により確認した。前年度との差異は電力消費量の増加(冷房使用期間の延長)による)
- 建築物エネルギー消費性能届出書:各建物の年間エネルギー消費量(電力、ガス)が記載される
- 地域別電力会社からの請求書:月別の実績電力量を確認できる
- ガス会社からの検針記録:暖房・給湯用ガス消費量の実績値
- 交通費支出記録:従業員の出張移動距離を集計
- 東京電力管内:約0.47 kg CO2e/kWh
- 関西電力管内:約0.50 kg CO2e/kWh
- 中部電力管内:約0.48 kg CO2e/kWh
- その他地域:企業の供給地域に応じて適切な係数を選択
- カテゴリー名と該当性の判定理由
- 使用した排出係数と出典
- 基礎となったエネルギー使用量、支出額、移動距離などのデータソース
- 計算方法と計算結果
- 前年度からの変更点(あれば)
- テナント企業など関連当事者との整合性確認結果
不動産企業のための実装例
事例:株式会社関西不動産グループ
関西物流株式会社の子会社として複数の商業施設を管理する当社の場合を想定する。大阪市内3棟、神戸市内2棟の合計5棟を保有、年間総床面積62,000平方メートル。
Step 1:ポートフォリオの整理
各物件の床面積、用途、テナント数をリストアップ。大阪物件は商業施設(ショップ、飲食店)、神戸物件はオフィスビルという用途別分類。
Step 2:エネルギーデータの抽出
年間電力消費量:4,200万kWh(大阪3棟、神戸2棟の合計)。月別推移から季節変動を確認。冷房シーズン(6月~9月)の消費量が全体の35%を占める。(データ出典:各地域電力会社検針記録)
Step 3:排出係数の適用
大阪3棟(関西電力地域):3,000万kWh × 0.50 kg CO2e/kWh = 1,500万kg CO2e
神戸2棟(関西電力地域):1,200万kWh × 0.50 kg CO2e/kWh = 600万kg CO2e
合計:2,100万kg CO2e
Step 4:テナント対応部分の除外
62,000平方メートルのうち、テナント専有部分48,000平方メートルは各テナント企業のScope 2計上対象。当社が計上すべき共有部分排出は、電力消費量の14%相当(14,000平方メートル ÷ 100,000平方メートル換算)= 294万kg CO2e。(共有部分:廊下、駐車場、受付、エレベータ、外壁照明)
Step 5:監査調書への文書化
計算結果、使用係数、データソース、テナント対応部分の除外根拠をすべて監査ファイルに保管。前年度との比較では、テナント数増加により共有部分床面積が拡大した(前年13,000平方メートル、当年14,000平方メートル)、という変動の説明を記載。