スコープ3排出量推定ツール:非営利組織向け | ciferi

日本の公益法人や認定NPO法人の多くは、主要事業では法人税が免除されます。しかし関連する事業体や子会社が課税対象活動を行っている場合、その間の排出量を把握する必要があります。また、海外拠点での事業拡大に伴い、現地でのスコープ3カテゴリー1(購入商品・サービス)やカテゴリー4(上流輸送・配送)の排出量が増...

非営利組織のスコープ3排出量:何が対象か

日本の公益法人や認定NPO法人の多くは、主要事業では法人税が免除されます。しかし関連する事業体や子会社が課税対象活動を行っている場合、その間の排出量を把握する必要があります。また、海外拠点での事業拡大に伴い、現地でのスコープ3カテゴリー1(購入商品・サービス)やカテゴリー4(上流輸送・配送)の排出量が増加します。
特に留意すべき点は、助成金や寄付金に関連する排出量の帰属です。例えば、環境保全プロジェクトに資金提供する場合、そのプロジェクト自体の排出削減効果を報告したいという誘引が生まれます。しかし監基報330では、意図しない誤謬(unintentional error)と意図的な誤謬(intentional misstatement)の区別が重要です。非営利組織のスコープ3報告でも、助成事業の排出削減を過度に計上することは、スコープ3カテゴリー11(販売製品の使用段階)やカテゴリー15(投資関連排出量)の過大計上につながります。

非営利組織でスコープ3報告が必要な場合

以下の条件に当てはまる場合、スコープ3排出量の推定と報告が必要です。
日本の非営利組織が持つ課税事業。認定NPO法人が運営する保育所、特定住宅改修事業、収益事業として登録された事業がある場合、その事業の排出量を把握します。国際財務報告基準(IFRS)を採用する場合、IAS37「引当金、偶発債務及び偶発資産」に準じて、関連する排出量を一体で報告することが期待されます。
関連事業体の排出量。子会社や関連団体が課税対象事業を行っている場合、スコープ3カテゴリー14(フランチャイズ)またはカテゴリー15(投資関連排出量)として計上します。金融庁の指導では、関連事業体の排出量を除外する場合、その根拠を明確に説明することが求められます。
海外拠点での排出量。国境を超えた事業展開がある非営利組織は、各国の規制環境に応じたスコープ3報告が必要です。例えば、欧州での子会社がある場合、ESRS E1に準じたスコープ3報告義務が生じます。

計算方法:支出ベースアプローチ

非営利組織のスコープ3推定では、支出ベースアプローチ(spend-based approach)が実用的です。排出源の詳細データが得られない場合、支出額に業界別排出係数を乗じてスコープ3排出量を推定します。
カテゴリー1(購入商品・サービス)の支出データを集計します。例えば、研究機関が購入する試薬、設備、消耗品の年間支出総額から出発します。平均的な業界排出係数は1ユーロあたり0.42 kg CO2eです(EXIOBASE平均)。支出額が420万円の場合、スコープ3排出量は約1,764 kg CO2eになります。ただし、特定の業界(例えば医療機器製造)では係数が大きく異なる可能性があるため、より詳細な分析が推奨されます。
カテゴリー3(燃料・エネルギー関連活動)では、購入電力量のデータが必要です。日本の電力グリッド排出係数は約0.468 kg CO2e/kWh(2023年、ロケーション基準)です。1年間に100万kWh購入した場合、アップストリーム排出量(燃料採取から発電所までの上流排出)は約25,000 kg CO2eになります。
カテゴリー4(上流輸送・配送)では、供給者から受け取る商品の輸送手段と距離を推定します。海上輸送の場合、1トン・キロあたり0.016 kg CO2e。例えば、100トンの医療用品を1,000 km海上輸送すると、1,600 kg CO2eの排出が生じます。

認定NPO法人の場合:寄付金と排出量の関係

認定NPO法人が寄付者から受け取る寄付金は、その使途に応じたスコープ3排出量を持ちます。この点が非営利組織のスコープ3報告を複雑にします。
例えば、「植林事業に資金提供する」という寄付を受けた場合、その寄付金で植えられた樹木の成長に伴う炭素吸収を「スコープ3削減」として計上したいという誘引が生まれます。しかし、監基報320「重要性」に基づくと、この削減効果を直接計上することは問題があります。理由は、樹木が実際に炭素を吸収するのは複数年にわたるためです。寄付を受けた年に全ての削減効果を計上することは、タイミング差異を無視することになります。
代わりに、推奨されるアプローチは次の通りです。寄付金の支出額をスコープ3カテゴリー15(投資関連排出量)として計上します。寄付金の使途に応じた排出係数を適用することで、寄付が実際の排出削減につながるか否かを分離して評価できます。植林事業への寄付であれば、その事業自体の排出削減見込みを別途シナリオ分析として開示し、寄付金支出のスコープ3排出量とは区別します。

実例:社会福祉法人による計算

社会福祉法人「関西福祉サービス」を例に取ります。本体事業は介護施設運営で法人税は免除されていますが、子会社の「関西エネルギー合同会社」が太陽光発電事業(課税対象)を運営しています。
関西福祉サービスの2024年度スコープ3排出量を推定するステップは以下の通りです。
ステップ1:排出源の特定。 本体事業と子会社の境界を確認します。本体事業(介護施設)の排出はスコープ1(燃料)とスコープ2(電力)に該当します。スコープ3に該当する活動は、(a) 介護用品・医療品の購入(カテゴリー1)、(b) 施設の電力供給に関連した上流排出(カテゴリー3)、(c) 子会社の太陽光発電事業に関連した投資排出量(カテゴリー15)です。
ステップ2:支出データの収集。 過去12か月間の請求書から、介護用品・医療品の支出総額を集計します。2023年度合計:約8,400万円。 このうち、医療機器(35%)、衛生用品(40%)、医薬品(25%)に分類します。医療機器の平均排出係数は1円あたり0.00052 kg CO2e(業界平均から換算)です。8,400万円に0.00052を乗じると、約43,680 kg CO2eになります。イタリック内は計算根拠。
ステップ3:排出係数の選択。 カテゴリー15(投資関連排出量)では、子会社の資本金に対する排出係数を適用します。子会社への出資額が1,000万円で、太陽光発電事業からの削減排出量が年500トン CO2eである場合、関西福祉サービスの帰属排出量は計算方法によって異なります。PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)ガイドラインでは、出資比率(例えば60%)に削減排出量を乗じるため、300トン CO2eの削減効果をオフセットとして計上できます。ただし、この削減効果は別途開示し、総スコープ3排出量からは区別する必要があります。
ステップ4:タイミング差異の処理。 寄付金の受領と使途の時間差がある場合、寄付を受けた会計年度でカテゴリー15として計上し、寄付の支出が実際に行われる年度で改めて調整します。例えば、2024年3月に2,000万円の「環境保全基金」寄付を受け、2025年度に支出する予定の場合、2024年度のスコープ3に2,000万円分の排出量を計上しておき、2025年度に実際の支出に基づいて修正します。この調整により、重要性の基準に基づくタイミングのずれを最小化できます。
ステップ5:開示。 以下の内容を監査報告書またはサステナビリティ報告書に記載します。スコープ3排出量:43,680 kg CO2e(購入商品・サービス)、および関連企業の投資排出量。推定方法:支出ベース。データギャップ:医療機器の一部(約8%)はベンダー報告がなく、業界平均係数を使用。前年度比較:2023年度は35,200 kg CO2e。増加原因は購入商品の品目拡大と単価上昇。

監査上の検討事項

監基報330「監査人の対応」では、非営利組織のスコープ3報告に対する監査人の対応も明記されています。特に以下の領域で重要性が高いです。
境界の決定。 非営利組織の場合、どの事業体をグループに含め、どの事業体を除外するかの判断が曖昧になりやすいです。関連NPO、友好団体、海外協力団体との関係が複雑であれば、スコープ3カテゴリー15の計上漏れリスクが高まります。監査人は、経営層に対して、全ての関連事業体の一覧表を提出させ、各事業体のスコープ3排出量計上の根拠を確認します。
排出係数の妥当性。 支出ベースアプローチで使用する排出係数が適切であるか、定期的に検証します。業界や商品カテゴリーが大きく変わった場合、係数の見直しが必要になります。例えば、医療機器のサプライヤーが東南アジアから日本国内に変わった場合、輸送距離が短くなり、上流排出量が減少します。
寄付金とタイミング。 寄付金の受領と支出のタイミングが異なる場合、スコープ3排出量の計上時期も異なります。監基報324「関連当事者」では、寄付者との関係性も検討する必要があります。寄付金に条件が付いていないか、将来の特定の事業に充当する約束がないか、を確認することで、過度なオフセット計上を防ぎます。
前年度比較。 スコープ3排出量の年度別推移を開示する場合、計算方法の変更を明確に開示します。例えば、「2023年度は業界平均係数を使用。2024年度からはベンダー報告データに切り替えた」という説明があれば、比較可能性が高まります。

よくある誤り

誤り1:子会社の排出量を全額計上。 出資比率50%の子会社のスコープ3排出量を100%計上するケース。正しいアプローチは、出資比率に基づいて按分計上することです。または、親法人の影響力の程度に基づいて、部分的な計上に限定します。
誤り2:削減見込みを支出額から直接控除。 カテゴリー15(投資関連排出量)で、太陽光発電事業への投資から期待される削減排出量を、投資金額から差し引く方法。これは誤りです。投資金額に基づく排出量を計上し、削減効果は別途シナリオ分析として開示します。
誤り3:海外寄付先の排出量をスコープ1に誤分類。 日本国内の非営利組織が海外の協力団体に資金提供した場合、その協力団体での排出量はスコープ3カテゴリー15(投資関連排出量)です。海外での直接的な排出でもスコープ1でもありません。
誤り4:助成事業の排出削減効果を全額オフセット。 NPO法人が環境保全プロジェクトに資金提供し、その期待される削減排出量で、本体事業のスコープ3排出量を相殺する例。これは誤りです。削減効果はあくまでシナリオ分析であり、本体事業の排出量は別に開示されるべきです。

スコープ3推定ツールの使い方

本ツールは、非営利組織の以下の活動に基づくスコープ3排出量を推定します。
カテゴリー1:購入商品・サービス。 年間支出額を円単位で入力します。業界を選択するか、カスタム排出係数を入力します。デフォルトでは1円あたり0.00052 kg CO2eを使用します。
カテゴリー3:燃料・エネルギー関連活動。 購入電力量(kWh)を入力します。デフォルトでは日本の電力グリッド排出係数0.025 kg CO2e/kWhを使用します(上流排出とT&D損失を含む)。
カテゴリー4:上流輸送・配送。 トンキロ(tonne-km)単位で輸送量を入力するか、トン数と平均輸送距離を別々に入力します。輸送手段(海上、陸上、航空)を選択します。
カテゴリー14:フランチャイズ関連排出量。 関連団体への支援金や寄付金の年間総額を入力します。1円あたり0.00042 kg CO2eを使用します。
カテゴリー15:投資関連排出量。 子会社や関連事業体への出資額を入力します。PCAF方式で計上する場合は、出資比率と当該事業体のスコープ3排出量を別途入力します。
全ての入力が完了した後、「計算」ボタンをクリックします。ツールは各カテゴリーの排出量を計算し、合計値と前年度比を表示します。結果はCSV形式またはExcel形式でエクスポートできます。

国際基準との調和

非営利組織のスコープ3報告が国際基準の要件を満たすことは重要です。
ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)E1ではスコープ3の全15カテゴリーの報告が求められます。日本の非営利組織が欧州での活動を行う場合、ESRS準拠が必須です。特に、カテゴリー1の詳細な開示(商品・サービス種別ごとの排出量)がESRS E1.61で要求されます。
GHG Protocol(温室効果ガス議定書)では、企業・NGO・政府機関向けの統一的な算定方法が提供されています。本ツールで使用する排出係数とカテゴリー分類は、GHG Protocol Corporate Accounting and Reporting Standardに準拠しています。
IFRS S2(気候関連開示)では、スコープ3排出量のうち「重要な」カテゴリーについて詳細な開示が求められます。非営利組織の場合、その主要事業に応じた重要カテゴリーを特定し、優先的に報告することが推奨されます。

エクスポートと監査ファイルへの統合

ツールで計算した結果は、監査調書ファイルに直接統合できます。推奨される手順は以下の通りです。
Excel形式でエクスポートした計算ワークシートを、監査ファイルの「X1.3 スコープ3排出量推定」シートに貼り付けます。各計算式の根拠(排出係数の出典、支出データの抽出元)をイタリックの注釈として記入します。年度比較表を追加し、排出量の増減要因を分析します。
監査上の文書化。 監基報330では、監査人による分析的手続の結果を記載することが求められます。スコープ3推定額が前年度から大きく変動した場合、その原因(活動量の変化、係数の変更、境界変更等)を詳細に記録します。
経営層への説明。 ツールの計算結果を基に、経営層と協議し、開示内容を確定します。特に、タイミング差異がある場合(寄付金の受領と支出のずれ等)、その処理方法を事前に合意します。
---

UI ラベル

  • categoryLabel: カテゴリー
  • purchasedGoodsServices: 購入商品・サービス
  • capitalGoods: 資本財
  • fuelEnergyRelated: 燃料・エネルギー関連活動
  • upstreamTransportation: 上流輸送・配送
  • wasteGenerated: 操業で発生した廃棄物
  • businessTravel: 出張
  • employeeCommuting: 従業員通勤
  • upstreamLeasedAssets: リース資産(上流)
  • downstreamTransportation: 下流輸送・配送
  • processingOfProducts: 販売製品の処理
  • useOfProducts: 販売製品の使用段階
  • endOfLifeTreatment: 販売製品の廃棄処理
  • downstreamLeasedAssets: リース資産(下流)
  • franchises: フランチャイズ関連
  • investments: 投資関連排出量
  • inputMethod: 入力方法
  • spendBased: 支出ベース
  • activityBased: 活動ベース
  • unit: 単位
  • currency: 通貨(円)
  • kWh: キロワット時
  • tonneKm: トンキロ
  • tonnes: トン
  • kilometers: キロメートル
  • employees: 従業員数
  • squareMeters: 平方メートル
  • emissionFactor: 排出係数
  • defaultEmissionFactor: デフォルト排出係数
  • customEmissionFactor: カスタム排出係数
  • quantity: 数量
  • total: 合計
  • calculateButton: 計算する
  • exportButton: エクスポート
  • resetButton: リセット
  • countrySelector: 国を選択
  • industrySelector: 業種を選択
  • emissionFactorSource: 排出係数の出典
  • previousYear: 前年度
  • yearOnYearChange: 前年度比
  • percentage: パーセンテージ
  • transportMode: 輸送手段
  • roadFreight: 陸上運送
  • railFreight: 鉄道運送
  • seaFreight: 海上運送
  • airFreight: 航空運送
  • wasteDisposal: 廃棄物処分方法
  • landfill: 埋立処分
  • incineration: 焼却処分
  • recycling: リサイクル
  • composting: コンポスト化
  • travelMode: 旅行手段
  • shortHaulFlight: 短距離フライト
  • longHaulFlight: 長距離フライト
  • rail: 鉄道
  • car: 自動車
  • estimatedTotal: 推定合計排出量
  • dataQuality: データ品質
  • actualData: 実績データ
  • estimatedData: 推定データ
  • downloadCsvButton: CSVダウンロード
  • downloadExcelButton: Excelダウンロード
  • shareLink: リンク共有
  • helpText: ヘルプテキスト