スコープ3排出量推定ツール: ロジスティクス | ciferi
日本のロジスティクス企業は、国内の物流ネットワークと国際的な海上輸送・航空輸送の組み合わせにより、複数のスコープ3カテゴリにまたがる排出を発生させています。特に重要なのは以下の3つです。 カテゴリ4:上流の輸送・流通...
スコープ3排出量とロジスティクス事業の関係
日本のロジスティクス企業は、国内の物流ネットワークと国際的な海上輸送・航空輸送の組み合わせにより、複数のスコープ3カテゴリにまたがる排出を発生させています。特に重要なのは以下の3つです。
カテゴリ4:上流の輸送・流通
サプライヤーから購入した商品の輸送に伴う排出。トラック、鉄道、海運、空輸の各モードで異なる排出係数を使用します。日本国内では小口から大口まで幅広い輸送案件があり、積載率や輸送距離の詳細データが必要です。
カテゴリ9:下流の輸送・流通
ロジスティクス企業が顧客に納品する商品の輸送に伴う排出。自社の配送網を使用する場合の排出原単位は、トラック走行距離(tkm)当たりのCO2換算排出量で計算します。
カテゴリ1:購買した商品・サービス
梱包材、潤滑油、予備部品など、ロジスティクス事業に直接投入される物財の生産に伴う排出。支出ベースの排出係数が有効です。
これらの計算に用いる排出係数は、国連GHGプロトコルの推奨値に基づきますが、日本特有の輸送効率、エネルギーミックス、廃棄物処理方法を反映させることが重要です。
日本におけるスコープ3報告の規制環境
サステナビリティ開示に関する法整備
現在のところ、日本の上場企業に対するスコープ3排出量の開示義務は直接的には存在しません。ただし国際的な動きとして、IFRS S2(気候関連の開示基準)の国内適用が検討されており、機関投資家からのスコープ3開示要求は増加しています。
金融庁の期待値
金融庁は、サステナビリティ関連の情報開示について、国際基準への整合性を重視しています。上場企業向けの「プリンシプルベースの企業統治」ガイダンスでは、気候変動リスク評価にスコープ3を含めることが推奨されています。
企業会計審議会の動向
現在、企業会計審議会ではサステナビリティ情報と財務報告の接続について検討が進められており、今後の基準整備によってはスコープ3開示が実務上の必須項目となる可能性があります。
ロジスティクス企業が直面する排出量推定の課題
ロジスティクス企業の排出量報告には特有の困難があります。
輸送モード別の排出係数の適用
単一企業であっても、国内トラック輸送、海上輸送、国際航空輸送、鉄道輸送など複数のモードを操作またはアウトソースします。各モードの排出係数(kg CO2e / tonne-km)は大きく異なり、誤った係数を適用すると総排出量が30%~50%変動します。
積載率データの不足
多くのロジスティクス企業では、実際の輸送案件ごとの積載率を正確に把握していません。走行距離のデータは存在しても、実際に積載された トン数 が不明な場合、排出量計算は空走行(バラスト走行)を考慮できず、大幅に過小評価されます。
サプライヤーデータの限定性
カテゴリ1(購買した商品・サービス)を計算する際、個別のサプライヤーが実際の排出量を開示することは稀です。支出ベースの排出係数(€当たりのCO2e)を使用する場合、業種別の平均係数を適用することになり、個別企業の実態を反映しません。
国際輸送における基準の違い
海上輸送と航空輸送に関しては、国際海事機関(IMO)や国際民間航空機関(ICAO)が異なる排出係数を定めています。日本企業が国際的な環境報告書を作成する場合、国内基準と国際基準の統一が求められます。
計算ツールの機能と使用方法
本ツールは、日本のロジスティクス企業がスコープ3排出量をGHGプロトコル準拠で計算するために設計されました。以下の5つの入力方式をサポートしています。
支出ベース計算(カテゴリ1、2、14)
購買額を排出係数で乗算する方法。€当たりのCO2e排出係数を用いて、商品・サービス購買額から直接排出量を推定します。詳細なサプライヤーデータが入手できない場合のデフォルト方式です。
輸送量ベース計算(カテゴリ4、9)
トン・キロメートル(tonne-km)単位の輸送量に排出係数を乗算します。トラック、鉄道、海運、航空の各モード別に異なる係数を設定できます。実際の輸送記録がある場合、最も正確な計算方式です。
エネルギーベース計算(カテゴリ3)
購入電力、燃料の上流排出とT&D損失を計算します。kWh単位のエネルギー消費量に排出係数を乗算。日本の電力グリッド排出係数(2024年推定値)を用いて、スコープ2と連動した計算が可能です。
廃棄物ベース計算(カテゴリ5、12)
廃棄物の処分・処理方法(埋立、焼却、リサイクル、堆肥化)ごとに異なる排出係数を適用。トン数を入力することで、廃棄段階の排出量を推定します。
従業員数ベース計算(カテゴリ7)
従業員の通勤排出を、従業員数と平均通勤距離から推定。日本国内の公共交通とマイカー通勤の混合率を考慮した係数を提供します。
排出係数の選択と出典
本ツールで使用する排出係数は、次の優先順位に基づいて選定されています。
第1優先:日本の実測データ
日本の電力会社が公表するグリッド排出係数、日本の環境省が提供する統計データが存在する場合、それを用います。例えば、日本の電力グリッド排出係数は2024年で約0.468 kg CO2e / kWh(速報値)です。
第2優先:国際的な業界標準
GHGプロトコル、Ecoinventなどの国際的なLCA(ライフサイクル評価)データベースが提供する排出係数。特に輸送モード別の係数はこれらが信頼性が高いです。
第3優先:欧米の公開統計
英国のDESNZ(エネルギー安全保障・ネットゼロ省)が毎年公表する排出係数。ドイツのUBA(連邦環境庁)のProBas等。これらは日本で直接的な対応データがない場合の補完として使用します。
各排出係数には出典と測定年を明記し、複数年にわたる報告の場合は年度ごとの係数変更を明確にしてください。
ロジスティクス企業の実例:計算フロー
事例:株式会社東海物流(架空企業、愛知県名古屋市)
東海物流は、自動車部品メーカーの部品を国内および国際輸送する物流事業者です。年間売上約8.5億円、従業員約120人。
入力ステップ1:カテゴリ4上流輸送の積載データ収集
2024年度の輸送記録から以下を抽出:
文書化:各輸送モードの月次走行記録をCSVで整理し、実績トン数と走行距離から正確なtonne-km数値を算出。季節変動を考慮し、月別の積載率が記録されていることを確認。
入力ステップ2:排出係数の割り当て
文書化:各係数の出典(GHGプロトコル、2024版)を監査調書に記録。日本の輸送モード別エネルギー効率が国際水準と大きく異ならないこと、および業界平均積載率との比較を含める。
計算結果
入力ステップ3:カテゴリ9下流輸送
自社配送センターから顧客への最終配送。
注:実務上は走行距離ログと実積載重量を照合し、より正確なtonne-kmを算出。
排出量:7,440万 × 0.107 = 796,080 kg CO2e(約796 tonne CO2e)
入力ステップ4:カテゴリ1購買商品
梱包材、潤滑油、タイヤ、防凍液など直接物財。
文書化:購買額の期首期末残高を確認し、支出額が実積績経費として監査調書に根拠付けられていることを確保。
合計スコープ3排出量(主要カテゴリのみ)
カテゴリ1 + 4 + 9 = 117.6 + 197.6 + 796.0 = 1,111.2 tonne CO2e
カテゴリ5(廃棄物)、カテゴリ6(出張)、カテゴリ7(通勤)を追加すると、総排出量はさらに増加します。
- 国内トラック輸送:145万tonne-km(平均積載率74%)
- 海上輸送(東アジア):89万tonne-km(コンテナ船)
- 国内鉄道輸送:32万tonne-km
- 国際航空輸送:3.2万tonne-km
- トラック(HGV):0.107 kg CO2e / tonne-km
- 海上輸送:0.016 kg CO2e / tonne-km
- 鉄道:0.028 kg CO2e / tonne-km
- 航空:0.602 kg CO2e / tonne-km
- トラック排出量:145万 × 0.107 = 155,150 kg CO2e
- 海上排出量:89万 × 0.016 = 14,240 kg CO2e
- 鉄道排出量:32万 × 0.028 = 8,960 kg CO2e
- 航空排出量:3.2万 × 0.602 = 19,264 kg CO2e
- カテゴリ4合計:197,614 kg CO2e(約197.6 tonne CO2e)
- 月平均配送トン数:約4,200トン
- 月平均配送距離:約62万km(トラック)
- 年間換算:50,400トン、7,440万km
- トン・キロメートル換算:50,400 × (7,440万km / 50,400トン) = 7,440万tonne-km
- 年間購買支出:4,200万円(約280,000ユーロ相当)
- 排出係数:0.42 kg CO2e / ユーロ(EXIOBASE多部門平均)
- 排出量:280,000 × 0.42 = 117,600 kg CO2e(約117.6 tonne CO2e)
排出量報告における監査上の留意点
スコープ3排出量の開示については、現在のところ日本国内で法定監査対象となっていません。しかし限定的保証(ISAE 3410またはISAE 3000(改訂))の対象となる場合、監査人は以下の点に注意を払う必要があります。
境界設定の一貫性
企業がいかなるカテゴリをスコープ3に含め、いかなるカテゴリを除外したか、その理由(重要性の閾値、データ入手可能性等)を書面で確認すること。複数年にわたる報告の場合、年度間での境界変更がある場合には明示的に開示されていることを検証します。
排出係数の出典追跡可能性
使用したすべての排出係数について、公表されたデータベース(GHGプロトコル、Ecoinvent、環境省統計)への参照が明記されていることを確認。企業独自の係数を開発・使用している場合には、その科学的根拠(LCAスタディ、実測データ)が監査証拠として整備されていることを要求します。
データギャップの説明責任
推定値(実測値ではなく、平均係数や業界標準を使用した値)がスコープ3全体の何パーセントを占めるかを把握すること。推定値の割合が高い場合(例えば50%超)には、その理由と、より正確な測定に向けた改善計画の有無を質問します。
年度間の変動の説明
前年度との比較で排出量が大きく変動(増減20%以上)した場合、その原因が事業規模の変化(新規拠点、売上増減)なのか、計算方法の改善に伴うものなのか、あるいは実際の排出削減なのかを明確に説明させること。排出削減を主張する場合には、削減施策(効率改善、モード転換等)の実績を確認します。
サプライヤーデータの検証
支出ベース計算を使用している場合、一般的な業界排出係数が当該企業の実際のサプライヤー構成を反映しているかを検討。例えば、低排出産国からの調達比率が高い企業が全業界平均係数を使用している場合、過大評価の可能性があります。