スコープ3排出量推計ツール:技術セクター向け | ciferi
技術セクターのスコープ3排出量は、サプライチェーン全体に分散しています。製造拠点が限定的である一方で、部品調達(カテゴリ1)と販売製品の使用段階(カテゴリ11)で大きな排出が発生します。日本の技術企業が直面する課題は、グローバルサプライチェーンの透明性確保と、製品ライフサイクル全体の排出量データ取得にあ...
はじめに
技術セクターのスコープ3排出量は、サプライチェーン全体に分散しています。製造拠点が限定的である一方で、部品調達(カテゴリ1)と販売製品の使用段階(カテゴリ11)で大きな排出が発生します。日本の技術企業が直面する課題は、グローバルサプライチェーンの透明性確保と、製品ライフサイクル全体の排出量データ取得にあります。
本ツールは、技術セクター固有の推計方法論を適用して、スコープ3カテゴリ別の排出量を算出します。金融庁のサステナビリティ情報開示に関する指針、および国際財務報告基準(IFRS)に基づく要求事項に対応した結果を出力できます。
スコープ3の範囲
技術セクターにおけるスコープ3は、以下のカテゴリで最も重要です:
- カテゴリ1(購入した商品・サービス): 半導体、電子部品、プラスチック樹脂、金属の調達。支出ベースの推計から活動量ベースの推計への移行が進んでいます。
- カテゴリ3(燃料・エネルギー関連活動): 購入した電力の上流排出(採掘から送配電ロス)。日本の電力網の排出係数は0.454 kg CO2e/kWh(2023年度、全国平均)です。
- カテゴリ4(上流の輸送・流通): 海外サプライヤーからの部品輸送。海運(0.016 kg CO2e/トン・km)が大宗を占めます。
- カテゴリ6(ビジネストラベル): 国際会議、顧客訪問、技術サポート出張。長距離国際線が多く、放射強制力指数(RFI)の適用が必要です。
- カテゴリ11(販売した製品の使用): 電子機器の消費電力に基づく排出。製品ライフサイクル評価(LCA)データの使用が一般的です。
- カテゴリ14(フランチャイズ): 技術サービス提供企業のフランチャイズ展開。各フランチャイジー拠点の排出量を適切に集計する必要があります。
日本における規制要件
金融庁の要求事項
金融庁のサステナビリティ情報開示に関する指針では、一定規模以上の上場企業に対し、スコープ1、スコープ2に加えてスコープ3の開示を推奨しています。技術セクターのプライム市場上場企業は、スコープ3の開示が投資家判断に与える影響の大きさから、事実上の必須項目となっています。
2024年3月に金融庁が発表した「企業のサステナビリティ情報開示に関する実務指針」では、企業が開示対象とするスコープ3カテゴリについて、経営層の判断根拠を記載することを求めています。単に「スコープ3は任意」という理由で全カテゴリの開示を回避することはできません。
国際財務報告基準(IFRS)S2との関連
IFRS S2「気候関連開示」は、企業にスコープ1、スコープ2、および重要性のあるスコープ3カテゴリの開示を求めています。日本の上場企業の多くがIFRS適用企業または国際会計基準への収れんを目指しており、実質的にIFRS S2の要求に準拠する必要があります。
有限責任監査法人への監査要件
スコープ3排出量の限定的保証(limited assurance)または合理的保証(reasonable assurance)を実施する監査人は、以下の基準に従います:
保証人は、企業が採用した推計方法論の妥当性、排出係数の出所、データギャップの扱い、年度間の変動要因を検証する必要があります。
- 保証業務基準報告書3410(ISAE 3410に対応)「温室効果ガス排出量の保証業務」
- 監査基準報告書330(監基報330)による実質的な手続の計画・実行
技術セクター固有の推計方法論
カテゴリ1:購入した商品・サービス
技術セクターの部品調達では、支出ベースの推計から段階的に活動量ベースに移行します。
段階1(初期): 業種別の支出ベース排出係数を使用。EXIOBASE由来の平均値は0.42 kg CO2e/ユーロ支出です。日本円ベースでは、同等の係数を使用できます。
段階2(中期): サプライヤーの実排出データ取得。主要サプライヤーに対して排出量の開示を要求し、実績ベースのデータを集計します。
段階3(成熟): 物質・エネルギー単位での推計。「半導体用シリコンウェハ300mm品1000枚あたり3.2トンCO2e」という形で、カテゴリ固有の排出係数を構築します。
実務例: 株式会社山梨エレクトロニクス(従業員850名、神奈川県横浜市)の場合。年間購買額28億5,000万円のうち、電子部品・半導体が65%を占めます(約1億8,525万円)。支出ベース排出係数0.42を適用すると、7,781トンCO2e。翌年度に主要10サプライヤー(総購買額の58%)から実排出データを取得した結果、平均排出係数は0.38に修正されました。調書では、当年の推計値と翌年の実績値の乖離について、「サプライヤーの実排出データに基づき排出係数を0.42から0.38に修正。差異2,073トンCO2eについては、係数改善による再計算であることを『附注』欄に記載」します。
カテゴリ3:燃料・エネルギー関連活動
購入した電力の上流排出(Well-to-Tank排出)および送配電ロスを計算します。
日本の電力網排出係数:
電源構成の変動に伴い、年度ごとに係数が変動します。昨年度と当年度で異なる係数を使用した場合、その旨を附注で記載してください。
購入電力量が既知の場合:
購入電力量(kWh) × 電力網排出係数(0.454) = スコープ3カテゴリ3排出量
購入電力量が不明な場合:
支出額(円)÷ 平均電力単価(例:20円/kWh)× 排出係数(0.454) = 推定排出量
カテゴリ4:上流の輸送・流通
サプライヤーから調達した部品の輸送排出。海運が主体の技術セクターでは、以下のモード別係数を適用します:
| 輸送モード | 排出係数 | 用途 |
| --- | --- | --- |
| 海運 | 0.016 kg CO2e/トン・km | 海外サプライヤーからの部品大量輸送 |
| トラック | 0.107 kg CO2e/トン・km | 国内流通 |
| 鉄道 | 0.028 kg CO2e/トン・km | 国内・地域内流通 |
| 航空 | 0.602 kg CO2e/トン・km | 緊急部品調達 |
計算例: 台湾の半導体製造委託企業(TSMC)から月間50トンの部品を輸入。輸送距離2,300 km。海運使用。
排出量 = 50トン × 2,300 km × 0.016 kg CO2e/トン・km = 1,840 kg CO2e/月 = 22,080 kg CO2e/年
年間総調達額の0.3%程度がこのカテゴリに該当する場合、報告に含める必要があります。
カテゴリ6:ビジネストラベル
国際会議参加、顧客技術支援、営業活動に伴う出張排出。
航空便の分類:
放射強制力指数(RFI)の適用:
一部の企業基準では、航空排出に対してRFI乗数(2.0~2.7倍)を適用します。これは、巡航高度での排出が地表での排出より気候影響が大きいという科学的知見に基づいています。
公認会計士の監査では、RFI適用の有無および乗数の根拠をGHPプロトコルの引用により確認します。企業が独自の根拠に基づきRFIを適用した場合、その論拠を確認文書で示す必要があります。
カテゴリ11:販売した製品の使用
技術機器の消費電力に基づく排出。ここで最も重要なのは、製品ライフサイクル評価(LCA)データの妥当性です。
推計ステップ:
計算例: 株式会社関西情報システム(大阪府大阪市、従業員480名)の産業用制御機器。当年度販売台数:15,000台。
調書記載:「製品使用期間中の排出量推計。年間消費電力240 kWh、使用期間8年、電力網排出係数0.454 kg CO2e/kWh。LCA基礎データはメーカー技術部資料『型式別消費電力データベース2024年版』から抽出。」
この数値は、当社のスコープ3総排出量の約65%に相当する場合が多く、最も重要性の高いカテゴリです。
- 2023年度全国平均: 0.454 kg CO2e/kWh(報告・公表制度データ)
- 2022年度全国平均: 0.505 kg CO2e/kWh
- 短距離国際線(往復3,700 km未満、例:日本↔韓国): 0.156 kg CO2e/乗客・km
- 長距離国際線(往復3,700 km以上、例:日本↔ヨーロッパ): 0.195 kg CO2e/乗客・km
- 当年度販売台数を把握する。
- 製品の平均使用年数を決定する(例:ノートパソコンは4年)。
- 年間消費電力(kWh)を決定する。
- 製品の全使用期間排出 = 年間消費電力 × 使用年数 × 電力網排出係数
- 1台あたり年間消費電力:240 kWh
- 平均使用年数:8年
- 日本の電力網排出係数:0.454 kg CO2e/kWh
- 1台あたり全使用期間排出 = 240 × 8 × 0.454 = 869.76 kg CO2e
- 当年販売分の使用段階排出 = 15,000台 × 869.76 kg CO2e = 13,046,400 kg CO2e ≈ 13,046トンCO2e
スコープ3排出量の監査上の留意点
1. 推計方法論の一貫性確認
年度間で異なる推計方法を使用した場合、その変更の理由と影響を詳細に記録します。
例: 前年度は支出ベース(係数0.42)でカテゴリ1を推計。当年度はサプライヤー実排出データ(係数0.38)に変更。
監査人による確認事項:
2. 排出係数の出所確認
使用した全排出係数について、公開文献またはサプライヤー実績データからの引用元を記載します。
許容される出所:
問題になりやすい出所:
3. データギャップの記載
全サプライヤーの実排出データが入手できない場合、推定の範囲を明記します。
例:「カテゴリ1について、主要サプライヤー60社(購買額全体の78%)から実排出データを取得。その他サプライヤー284社(購買額22%)については、業種別平均排出係数0.42を適用。」
この開示により、監査人および財務諸表利用者は、報告数値の信頼性レベルを判断できます。
4. 年度間変動の説明
前年比で排出量が増減した場合、その原因を分類します。
原因の分類:
金融庁の指針では、単なる「削減」ではなく、各要因への分解(quantitative reconciliation)を求めています。
5. グローバルサプライチェーン特有の課題
日本の技術企業は、台湾、ベトナム、インドネシアなど複数国のサプライヤーを有しています。以下の点に留意します:
- 経営層の承認を得た方法論変更か
- 遡及的な再計算を実施したか(複数年比較の場合)
- 変更理由が合理的で文書化されているか
- 環境省の「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」
- GHPプロトコル公式ガイダンス
- 産業別LCAデータベース(例:IDEA、CarboWorks)
- サプライヤー実排出データ(検証済みの場合)
- 外部コンサルタント独自推定(根拠不明)
- 10年以上前の学術論文(技術進歩を反映していない)
- 市場平均値の無根拠適用(企業固有性の無視)
- 活動量の増減: 販売台数、購買額、従業員数の増減
- 排出係数の変更: 電力網排出係数の低下、推計方法の改善
- ビジネスの構造変化: 事業部門の新設・廃止、子会社の買収・売却
- 通貨換算: 支出ベース推計の場合、外国サプライヤーへの支払額を円換算し、その円ベース支出額に排出係数を適用します。異なる国の排出係数を適用する場合、その根拠を記載します。
- 現地排出係数の入手: 台湾の電力網排出係数(0.510 kg CO2e/kWh、2023年度)、ベトナム(0.530)をベトナムの調達比率分適用する企業もあります。
- 自社工場 vs. 受託製造: 自社製造拠点はスコープ1に含め、受託製造(EMS企業への委託)はスコープ3カテゴリ1に含めることを一貫して適用します。
よくある誤りと監査指摘事例
誤り1:カテゴリ11のLCAデータの恣意的選定
事例: ノートパソコンメーカーが、複数の独立したLCAデータソース(A社:1,200 kg CO2e/台、B社:950 kg CO2e/台)から、最も低い値(950 kg CO2e/台)を選定。根拠なし。
監査人の指摘: 複数のデータソースが存在する場合、①最も信頼性の高いデータを選定するか、②複数データの加重平均を使用するか、③選定理由を明記する必要があります。
改善: 自社製品の実使用データ(顧客からのサポート情報、テスト室での計測)を優先し、公開LCAデータを補完的に使用。
誤り2:カテゴリ4の選別的計上
事例: 海外サプライヤーからの輸入(スコープ3カテゴリ4)は計上し、国内サプライヤーからの車両輸送は「マテリアリティが低い」として除外。
監査人の指摘: マテリアリティを個別カテゴリの判断根拠とする場合、定量的な閾値(例:スコープ3総排出量の1%以上)を設定し、その閾値を一貫して適用する必要があります。
改善: 国内・海外の輸送をすべて計上し、その合計に対する各輸送モードの構成比を開示。
誤り3:買収企業の排出量の段階的統合失敗
事例: 7月に子会社買収後、スコープ3排出量には1月~12月通期の買収企業分を計上。スコープ1・2には7月~12月の6ヶ月分のみ計上。
監査人の指摘: スコープ1と2で採用した統合範囲(持分割合・時期)と一貫してスコープ3も適用する必要があります。
改善: 買収企業の全12ヶ月排出量から、6ヶ月分(1月~6月)に按分。
誤り4:上流排出(WTT)の漏れ
事例: ガソリン・電力・ガスの燃焼排出のみをスコープ1・2に計上し、これらの採掘・精製・輸送に伴う上流排出(WTT:Well-to-Tank)をスコープ3に計上せず。
監査人の指摘: 購入した燃料・電力に対応する上流排出(カテゴリ3)の計上漏れ。
改善: 購入燃料のWTT排出係数を個別に把握。例えば、ガソリン1リットル当たり0.19 kg CO2e(WTT)、電力1 kWh当たり0.025 kg CO2e(WTT)。
スコープ3排出量の利用者への開示
スコープ3排出量を公開する際、以下の情報を附記します:
- 推計方法: 支出ベース、活動量ベース、ハイブリッド、LCA等の区分
- データ網羅性: 何%の排出源について実績データを使用し、何%について推計したか
- 年度間変動の要因分析: 活動量の増減、係数の変更、事業構造の変化に分解
- 外部検証: 限定的保証、合理的保証の有無
- 今後の改善予定: データ精度向上のロードマップ
技術セクター向けツールの使用方法
本ツールは、技術セクター固有のカテゴリ別排出係数を事前搭載しており、以下のステップで推計を実施します。
ステップ1:企業情報の入力
企業名、所在地(日本国内 or 特定の地域)、業種細分類(半導体製造、電子機器製造、情報処理サービス等)を入力。ツールが業種別のデフォルト排出係数を推奨します。
ステップ2:カテゴリ別の活動量入力
各スコープ3カテゴリについて、以下の情報を入力:
ステップ3:結果の出力
カテゴリ別排出量、合計排出量、前年度比を表示。エクスポート機能で監査調書形式のExcelファイルを生成。
ステップ4:監査アンカー機能
各入力データについて、排出係数の出所(参考文献リンク)、計算ロジック、データギャップの注記を自動生成。これらは監査人の検証資料として使用可能。
---
- 支出額(円)、活動量(kWh、トン・km、人日、台数等)
- データの出所(実績 or 推計)
- 使用した排出係数(デフォルト推奨値 or カスタム)
UI ラベル
- calculatorLanguage: 日本語(標準)/ English
- industrySelector: 業種を選択
- industryOptions_semiconductors: 半導体製造
- industryOptions_electronics: 電子機器製造
- industryOptions_itServices: 情報処理・通信サービス
- industryOptions_softwareDevelopment: ソフトウェア開発
- categoryToggle_category1: カテゴリ1:購入した商品・サービス
- categoryToggle_category3: カテゴリ3:燃料・エネルギー関連活動
- categoryToggle_category4: カテゴリ4:上流の輸送・流通
- categoryToggle_category6: カテゴリ6:ビジネストラベル
- categoryToggle_category11: カテゴリ11:販売した製品の使用
- inputMethod_spend: 支出額(円)
- inputMethod_activity: 活動量(kWh、トン・km等)
- emissionFactor: 排出係数
- emissionFactorSource: 排出係数の出所
- emissionFactorSource_default: デフォルト推奨値
- emissionFactorSource_custom: カスタム入力
- dataQuality_actual: 実績データ
- dataQuality_estimated: 推計データ
- calculateButton: 計算する
- exportButton: Excelにエクスポート
- downloadButton: ダウンロード
- resetButton: リセット
- resultsHeading: 推計結果
- resultsSummary: スコープ3総排出量
- resultsDetail_byCategory: カテゴリ別排出量
- resultsDetail_yearOverYearChange: 前年度比
- complianceNote: 規制要件との対応
- auditNote: 監査手続の参考資料
- referenceLink: 参考文献
- supportEmail: サポート:[email protected]