スコープ3排出量推定ツール:日本 | ciferi

日本の排出量報告フレームワークは、国際基準と国内規制の交点にある。企業のスコープ1およびスコープ2排出量報告は確立されているが、スコープ3(サプライチェーン上流・下流の間接排出)の測定と開示は、依然として多くの企業にとって複雑で、データの入手可能性の課題に直面している。...

概要

日本の排出量報告フレームワークは、国際基準と国内規制の交点にある。企業のスコープ1およびスコープ2排出量報告は確立されているが、スコープ3(サプライチェーン上流・下流の間接排出)の測定と開示は、依然として多くの企業にとって複雑で、データの入手可能性の課題に直面している。
金融庁は上場企業に対しTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った開示を期待しており、これにはスコープ3が含まれる(重要性がある場合)。2025年1月1日以降に終了する事業年度から、一定規模以上の企業はプライム市場上場企業として気候変動関連情報の開示が求められる。環境省は企業の温室効果ガス排出量算定・報告マニュアルを毎年改訂し、スコープ3の計算方法を示している。
日本の企業は、グローバルなサプライチェーン内での位置付けを考慮する必要がある。親会社がEU域内にありCSRD(企業サステナビリティ報告指令)の対象企業である場合、日本の子会社はスコープ3を含むESRS(欧州サステナビリティ報告基準)データの提供が必須となる。同時に、日本国内での開示要件も適用される可能性があり、両方のフレームワークの調整が必要。

規制環境

金融庁は2022年の実行計画において、国内での気候関連情報開示ルールの整備を進めることを明示した。企業会計審議会は国際基準(ISSB S1・S2)に基づく日本版サステナビリティ会計基準の開発に関わっている。これらの基準が施行されれば、スコープ3開示が上場企業に事実上求められることになる。
環境省は「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」を公表し、業種別・活動別の排出係数データベース(Japan-GHG Accounting Program)を運営している。このデータベースには、スコープ3カテゴリー1(購買商品・サービス)、カテゴリー4(上流物流)、カテゴリー6(ビジネス出張)、カテゴリー7(従業員通勤)に対応する排出係数が含まれている。
経済産業省は「サプライチェーン排出量算定ガイドライン」を公表し、企業がスコープ3排出量を計算する際の実務的な手順を示している。東京証券取引所は上場企業向けのコーポレートガバナンス・コードの改訂を通じて、気候変動開示への圧力を高めている。
環境省の「グリーン成長戦略」では、カーボンニュートラル実現に向けた産業別ロードマップを提示しており、各企業はこの達成目標を踏まえた排出量管理が期待されている。

実務ガイダンス

日本の企業がスコープ3排出量を推定する際の基本的なアプローチを以下に示す。
カテゴリー1(購買商品・サービス) の推定では、環境省のデータベースを第一次情報源として活用する。支出額ベースの排出係数(kg CO2e/円)が業種別に提供されている。製造業の場合、原材料(鋼材、アルミニウム、化学品等)については、生産段階での排出係数が詳細に記載されている。支出額が判明している場合は排出係数を乗じて推定排出量を算出。より精密な推定を行うには、サプライヤーごとの実績データ(Activity-Based Data)を入手することが望ましい。
カテゴリー4(上流物流) については、調達物資の輸送距離とトン数、輸送モード(船舶・鉄道・トラック・航空)を把握することが重要。国内物流の場合、トン・キロメートル(t-km)当たりの排出係数は、走行距離による燃料消費が主要因。海運は一般にトラック輸送より排出係数が低く、航空は最も高い。
カテゴリー6(ビジネス出張) については、従業員の出張距離と移動手段を記録する。航空機利用の場合、国内便と国際線(近距離・長距離)で排出係数が異なる。国内航空機の排出係数は約0.088 kg CO2e/passenger-km(平均)。鉄道はトラックや航空機より低い値を示すことが一般的。
カテゴリー7(従業員通勤) の推定では、従業員数と平均通勤距離、利用交通手段のモード別割合が必要。日本の場合、都市部では鉄道利用が高く、地方ではマイカー利用が主流。自動車の場合、一般的に乗員数が2名以下であるため、1人当たりの排出量は高くなる傾向。
電気の排出係数については注意が必要。日本の電力網の平均排出係数は、電源構成の変動に伴い変化する。直近の値(2023年度)は約0.467 kg CO2e/kWh(電力中央研究所データに基づく)。太陽光発電や水力発電の利用率が高い電力会社と契約している場合、より低い係数を適用できる可能性がある。

監査上の期待値

保証業務(ISAE 3410または保証業務基準報告書3410に基づく限定的保証)を実施する監査人は、方法論の一貫性、排出係数の根拠、および排出量境界の完全性に注力する。金融庁のモニタリングでは、企業がスコープ3の数字を開示しながら、どのカテゴリーを含めたのか、どの方法論を使用したのか、データギャップにどう対応したのかの説明が不十分なケースが見受けられる。
開示企業は、スコープ3のうち実績値に基づく部分と推定値に基づく部分の割合を明記することが求められる。年度間の変動が生じた場合、それが実際の排出量の減少によるものなのか、計算方法の変更や排出係数の更新によるものなのかを識別し、説明する必要がある。
親会社がEU-CSRDの対象である日本の子会社の場合、ESRS基準に基づく報告値と国内開示値との間に相違が生じることがある。ESRS E1では、スコープ3のうち重要性がある全てのカテゴリーの開示が求められるため、国内基準よりも範囲が広い可能性がある。その場合、相違の理由を説明し、両方の枠組みで報告される数字の紐付けを確保することが必須。

国別固有事項

電力網の脱炭素化: 日本の電力供給は福島第一原発事故後、化石燃料への依存度が高まった。再生可能エネルギーの導入は進みつつあるが、欧州や米国と比べると遅い。このため、日本企業が海外でのカテゴリー3(燃料・エネルギー関連活動)およびカテゴリー11(製品使用段階での排出)を推定する場合、各国の電力網排出係数を適用することが重要。
製造業のスコープ3: 日本は自動車、機械、化学品などの製造業が集中している。これらの企業にとって、カテゴリー1(購買商品)とカテゴリー4(上流物流)の合計がスコープ3全体の60%~80%を占めることが一般的。精密な推定には、サプライチェーンの可視化が不可欠。
地域性: 日本企業の多くは、東アジア(中国、ベトナム、タイ)でのサプライヤー関係を持つ。これらの地域での物流距離は長く、排出係数も国内とは異なる。国別のロジスティクス・クラスター別の排出係数を参照すること。
カーボンニュートラル目標: 日本政府は2050年のカーボンニュートラル達成を掲げている。これに基づき、業界別の中期目標(2030年度、2040年度)が設定されている。企業のスコープ3排出量は、これらのセクター別目標との整合性が問われる可能性がある。