Definition

正直、Pillar Twoは「親会社からの試算がまだ届いていない」という回答で監査チームが止まる論点の代表例だ。経験上、繁忙期に税効果の調書を読み直すと、GloBE規則の各国別実効税率の試算ファイルが添付されていない、あるいは添付されていても更新日付が前期のままのケースが少なくない。CPAAOBの2024年度モニタリングでも、グローバル最低税の引当評価における親会社情報依存と、その情報の信頼性検証の薄さは課題として整理されている。

重要なポイント

> - Pillar Twoは2021年にOECD包摂的枠組みで合意され、多国籍企業に対して15%の最低法人税率を適用する。 > - 被監査会社の所属する国によって施行時期は異なり、準備不足のため引当金や税務開示に誤りが生じやすい。 > - 監査人は法人税の計算根拠、GloBE規則の理解度、引当金計上の妥当性を検査する。 > - 親会社からの試算情報を受け取っただけで終わらせず、その情報の信頼性を別途検証する。

仕組み

Pillar Twoは「Global Base Erosion and Anti-Abuse Tax」(GloBE)規則として実装されている。多国籍企業グループの実効税率が15%を下回る場合、その差分に相当する追加の税負担を課す。規則は複雑で、各国の実装方法も異なる。

監基報570は、継続企業の前提に関する経営者の開示が十分かを監査人が検査するよう求める。Pillar Twoの導入に伴い、被監査会社が新しい税務負担に対応できるキャッシュフローを有しているかの評価がここに加わった。IAS 12は、繰延税金資産と税引当金の測定にあたり、適用すべき税率の特定を要求する。Pillar Twoの施行により適用税率が変動する場合、その影響額を正確に計算する。

多くの被監査会社は、Pillar Twoの詳細な要件をまだ完全には理解していない。「不参加テスト」(Pillar Twoの適用外となる条件)や「導入支援ルール」(施行初期の緩和措置)の適用可否について、誤った判断をしているケースが見られる。経営者が必要な法的助言を得ているか、相談内容が調書に十分に反映されているかを確認する。

計算例:ターゲーム・インベストメント・グループ

クライアント:日本の製造・販売会社、親会社はドイツで上場、2024年度売上は18億8000万円。

ステップ1:適用範囲の確認

グループ全体の売上が7億5000万ユーロを超えているため、Pillar Twoが適用される。日本国内での売上比率が小さいため、グループ全体の有効税率によっては追加の税務負担が発生する可能性がある。経営者に確認したところ、ドイツの親会社から税務影響の試算は届いていない。

調書ノート:「Pillar Two適用確認シート」を確保。親会社からの通知の有無、試算資料の受け取り状況を記録。

ステップ2:グループの有効税率の確認

ドイツの親会社全体の有効税率は16.2%となっており、15%を上回っている。ベルギーの子会社(売上850万ユーロ)の有効税率が12.8%であることが判明。グループ全体ベースで再計算すると、有効税率は15.1%となり、わずかに15%を超える。

調書ノート:「有効税率計算表」に、各国別の税負担額、売上構成比を記載。

ステップ3:引当金の必要性判断

現在のところ追加的な税務負担(Pillar Twoの支払額)は発生しない見込みである。ただし翌年度の事業計画では新たな事業投資が予定されており、グループの有効税率が低下する可能性がある。経営者に確認したところ、翌年度の税務影響についての試算は実施していない。

調書ノート:「Pillar Two翌期見通し」を作成し、翌年度で引当金の必要性が生じる可能性がある旨を注記。

ステップ4:開示の確認

被監査会社は、個別財務諸表の脚注において「OECD Pillar Twoの施行により、グループ全体で追加的な法人税負担が生じる可能性がある」と開示している。具体的な試算額は示されていない。

調書ノート:「税務開示チェックリスト」に、IAS 12.88の要件(税務上の不確定性)に基づき、引当金の必要性を評価した旨を記録。

結論:被監査会社のグループは現在のところPillar Twoに基づく追加税務負担の対象外であるが、翌年度の計画により引当金の必要性が生じる可能性がある。今期は十分な開示がなされており、継続企業の前提に対する影響は限定的と判断する。

監査人が見落としやすい点

実は、Pillar Twoの調書を見ると「親会社からの情報をそのまま転記」したまま終わっているケースが目立つ。経験上、この一文を読み返すたびに、調書の薄さに気が重くなる。情報の信頼性検証の痕跡がないと、検査では即座に拾われる。

- 国際的な検査事例: 国際会計基準解釈委員会(IFRIC)は、Pillar Twoに関連する税務上の不確定性の会計処理について、IAS 37の引当金認識要件との関係を明確にする指針を公表していない。各国の規制当局は、Pillar Two施行の遅延や実装方法の相違を踏まえ、企業が十分な税務引当金を積んでいないケースを指摘している。 - 基準要件と実務上の誤り: IAS 12.88は、税務当局との争点がある場合、その不確定性に基づいて引当金を計上するよう要求する。多くの被監査会社は、Pillar Twoの詳細な施行規則が各国で確定していない現段階で、「施行が確定するまで引当金を計上する必要がない」と判断している。しかしIAS 12は、施行の確実性よりも、経営者が認識している法令要件(Pillar Twoの最低税率15%)に基づいた評価を求める。 - 実務の記録ギャップ: 税理士への相談記録は残っていても、その相談内容の範囲(GloBE規則の詳細な計算方法、各国における施行時期の確認)が調書に十分に反映されていない。親会社からグループ全体の税務影響に関する情報提供を受けていても、その情報の信頼性を検証していないケースが見られる。

Pillar One との関係

Pillar Oneは、デジタル経済に関連する企業に対する課税権の再配分を定めるルールで、Pillar Twoとは別物だ。Pillar Oneは売上基準による課税権の移転を目指しており、一部の大規模テクノロジー企業や消費財企業に影響する。一方Pillar Twoは法人税最低税率に基づくため、ほぼ全ての多国籍企業に関わってくる。監査人は、被監査会社がどちらのルールの対象か(あるいは両方か)を計画段階で切り分けておく。

関連用語

- グローバル・ベース・エロージョン・アンド・アンチ・アビューズ・タックス(GloBE)規則: Pillar Twoの実装メカニズム。多国籍企業グループの有効税率を計算し、15%を下回る場合に追加税を課す。 - 繰延税金資産(Deferred Tax Asset): 将来の税負担軽減額を見積もったもの。Pillar Twoにより適用税率が変動する場合、その再評価が必要。 - 法人税引当金(Income Tax Provision): 被監査会社が負担すべき税額の見積もり。施行時期の不確定性を理由に過少計上されやすい。 - IAS 12: 法人所得税の会計処理を定める国際会計基準。引当金の認識要件とPillar Twoの関係を理解する上で必須。 - 継続企業の前提(Going Concern): Pillar Twoの新たな税務負担がキャッシュフローに与える影響を評価する際の重要な検討項目。 - 租税回避行為(Tax Avoidance): Pillar Twoが対象とする行為。法的には適法だが、経済的実質がない取引に対する課税。

Pillar Two計算ツール

Ciferiの「Pillar Two税務負担試算ツール」を使えば、グループの有効税率を自動計算し、追加的な税務負担額の概算を導出できる。多国籍企業グループの構成国、売上構成比、各国の法人税率を入力すると、数分で試算が完了する。

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