仕組み

移転価格は、グループ企業が内部取引を行う際にどのような価格を使うかを決める枠組みである。監基報550.A23は、関連当事者取引の評価において、当事者がその取引の性質、条件、価格が適切であることを、十分かつ信頼できる根拠に基づいて説明できるかどうかを検査することを求めている。
実務では、移転価格は原価加算法、再販売価格法、利益分割法といった複数の手法を用いて設定される。グループがどの手法を選択するかは、事業の性質(製造か流通か)、グループ内での付加価値の所在地、そして税務上の要件に左右される。監査人は、その選択が妥当かどうか、そして一貫性が保たれているかどうかを評価する必要がある。
移転価格の文書化は、通常、グループ本社が一元的に作成する。しかし実行部門(営業、製造、購買)は、その価格で実際に販売・仕入を行う。この二者の間に乖離が生じることは珍しくない。監査人は、方針と実行が一致しているか、特に期末に異なる価格で取引していないか、を検証する必要がある。

実務例:Industrias de Precisión Ibérica S.L.

クライアント概要: スペインの精密部品製造会社。親会社はドイツ、子会社はポーランドとフランス。2024年度売上€28M、IFRSで連結報告。
ステップ1:移転価格方針の入手と評価
グループが2023年に作成した移転価格文書を入手した。原価加算法を採用し、製造原価に15%のマークアップを乗せてドイツ親会社に販売することが定められていた。
文書化のメモ:税務申告書と会計記録を照合し、実際に15%の一定なマークアップが適用されているか確認
ステップ2:期間中の取引サンプリング
2024年1月から12月の毎月末の販売送票を対象に、10サンプルを無作為抽出した。各取引について、請求額と原価(材料費+直接労務費+配賦間接費)を計算し、マークアップ率を算出した。
文書化のメモ:「移転価格テスト」ワークシートに各月の平均マークアップ率を記載。9月は17.2%(異常値)と判明
ステップ3:異常値の原因追跡
9月の異常値について、営業部長に確認した。親会社が「緊急発注」のため納期を短縮させたことが原因であり、超過勤務費用が実費として乗せられていたことが判明した。これは移転価格方針には記載されていない例外扱いだった。
文書化のメモ:親会社からのメール、超過勤務費用計算書、および例外承認フォームを監査ファイルに添付
結論: 移転価格方針は全体として適切に適用されていた。ただし、例外的な状況への対応が文書化されていないため、方針の改訂時に「特別注文時の追加費用処理」を明記することを勧告した。

監査人と経営者が誤解しやすい点

  • 移転価格は自動的にアームズレングスではない 監基報550.12は、関連当事者取引の価格が「市場価格と同等であること」の証拠が必要だと述べている。グループが内部ルールとして「15%のマークアップ」と決めたからといって、それが実際の市場条件を反映しているかどうかは別問題である。独立した第三者間でも、その価格で同じ取引が成立するか、という検証が不足しがちである。
  • 移転価格文書の更新が後手になりやすい 実務では、事業環境の変化(新製品、新市場、新規部品の外注化)によって、実際の価格設定が文書化方針から乖離することが多い。特に組織の再編やプロセス変更の際に、移転価格ルールの改訂が遅れることが監査において頻繁に指摘される。文書化を年1回見直す仕組みが不十分な事務所が多い。
  • 内部取引の一貫性を見落とす グループが複数の子会社に同じ製品を販売する場合、異なるマークアップ率が適用されているケースがある。理由があれば(流通経路が違う、ボリュームディスカウントなど)正当化できるが、その根拠の文書化が不十分だと、会計上の恣意性が疑われる。監査人は、同一製品が異なる価格で販売されているケースをデータ分析で特定し、その理由を経営者に確認する必要がある。
  • 移転価格の税務リスクと財務諸表への影響の未反映 IAS 12.15は、税務当局との見解の相違が生じる可能性がある場合、不確実な税務ポジションとして評価するよう求めている。移転価格の設定方法が税務当局に否認されるリスクがある場合、追徴税額や加算税の見積りをIFRIC 23に基づき財務諸表に反映する必要があるが、この引当が省略されている事例が多い。

関連用語

  • アームズレングス原則: 関連当事者取引が独立した第三者間の価格で行われるべきという原則。移転価格はこの原則を実装するための具体的な方法
  • 関連当事者取引: グループ企業間、またはグループと支配的な個人との間で行われる取引の総称
  • 連結調整: グループ内取引を相殺し、外部との取引のみを反映させるプロセス。移転価格の妥当性が調整額に直結する
  • 原価加算法: 製造原価にマークアップを乗せて販売価格を設定する方法。最も一般的な移転価格手法
  • 再販売価格法: 市場で販売可能な価格から利幅を差し引いて移転価格を算定する方法
  • 利益分割法: グループ全体の利益を、各社の貢献度に応じて配分する方法

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