Definition
2024年度の決算監査で、低税率国に子会社を持つグループの繰延税金負債が調書上ゼロだった。経営者の説明は「配当予定がない」。ただし過去5年間、毎年度利益の60%以上を配当している。経験上、こういう案件ほどIIRの計上漏れが出る。
要点
> - IIRは親会社の国で追加課税を発生させる。低税率国での利益計上を放置すれば、繰延税金負債の計上漏れに直結 > - ISA 240.19の租税スキーム評価にIIRを組み込まないと、リスク評価が形骸化する > - 2024年度はハンガリー・ポーランド・チェコの子会社を持つグループで計上漏れが集中 > - 移転価格文書がIIR導入後に改訂されていない企業は、ISA 550.25上の検証不足に該当
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仕組み
IIRはOECD Pillar 2の一部として2021年に合意され、2024年から段階的に導入された。対象は年間売上高7億5,000万ユーロ超の多国籍企業グループ。
構造はシンプルだ。グループ内の各法人が15%未満の実効税率で課税されている場合、IIRに基づき親会社(または中間持株会社)が不足額を追加で納付する。オランダ法人の実効税率が10%で、親会社所在地の法定税率が25%なら、差額15%相当の納付義務が親会社に生じる。
ISA 240.19は「租税スキームのリスク要因を特定し、経営者の設計意図を評価する」ことを監査人に求めている。IIR導入後、経営者が意図的に低税率国での利益計上を維持していないか、節税の仕組みを過度に構造化していないかが検証対象となった。正直、調書でこの検証が抜けている案件は少なくない。
ISA 550.25(関連当事者取引)ではグループ内移転価格の設定過程でIIRが考慮されているか確認する。多くの企業は移転価格ポリシーをまだ改訂していない。確認漏れが検査指摘につながっている。
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実務例:Bakker Industrial B.V.
オランダ製造業、2024年度、売上高€180M、IFRS適用。オランダ親会社と低税率国(アイルランド、ハンガリー)の事業子会社で構成されるグループ。
売上高閾値の確認として、グループの過去3年度売上高合計を集計し、7億5,000万ユーロ超を確認。IIR適用対象グループ。
各子会社の実効税率を計算した結果は以下のとおり。 アイルランド子会社: 課税利益€12M、納税額€1.8M、実効税率15.0% ハンガリー子会社: 課税利益€8M、納税額€0.96M、実効税率12.0% オランダ親会社: 課税利益€30M、納税額€7.5M、実効税率25.0%
低税率国での利益に対し、親会社所在地の法定税率との差額が負債計上対象かどうかを検討。
追加課税額の計算結果。 ハンガリー子会社での不足額: (€8M × 25%) - €0.96M = €1.04M アイルランド子会社での不足額: なし(15%は閾値と同等)
2024年度中にハンガリー子会社からの配当実績はなく、IIR計上条件を満たしていないことを確認。ただし2025年度の見通しとして繰延税金負債の計上要否を検討。
繰延税金負債の評価として、経営者は2025年度のハンガリー子会社からの予定配当に基づき€1.04Mを計上。根拠は移転価格文書と配当政策声明。配当見通しの妥当性を過去5年間の実績と比較した。ハンガリー子会社は毎年度利益の60%超を配当しており、見通しは合理的と判断。
IIRに基づく追加課税リスクは識別され、繰延税金負債として計上されている。移転価格の設定がIIR回避の意図で行われていないことを、グループ内取引価格の文書化により確認。
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監査人とレビュアーが見落とすもの
ISA 240.19との連携が不足している事務所が多い。租税スキームのリスク評価をISA 240の詳細手続から切り離し、IIRをリスク要因(グループ内構造の複雑性、低税率国での過度な利益計上)としてISA 240に組み込んでいない。検査でもこの分離が繰り返し指摘されている。
移転価格文書の更新遅延も目立つ。IIR導入後も移転価格ポリシーを改訂していない企業は多く、監査人はこの遅延の証拠(方針文書の日付、改訂記録の不在)をそのまま受け入れてしまう。ISA 550.25に基づき、グループ内移転価格政策がIIR対応版であることの検証が欠けている。
繁忙期に最も見落としやすいのが繰延税金負債の過少計上。2024年度はハンガリー・ポーランド・チェコなど低税率国子会社を持つグループで計上漏れが集中した。配当見通しが曖昧で「必要に応じて配当する可能性がある」という根拠で計上を回避している例が目立つ。この曖昧さはISA 540の見積り評価基準を満たさない。
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IIRと実効最低税率制度(GloBE)の相違
| 視点 | IIR(インカム・インクルージョン・ルール) | GloBE(グローバル・ミニマム・タックス) |
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| 適用者 | 親会社(群)。子会社の低税率を補正 | 各国政府。グループ全体の最低税率を執行 |
| 課税権 | 親会社所在地 | 各低税率国の税務当局 |
| 計算単位 | 親会社の連結グループ単位 | 各法人単位またはグループ単位 |
| 効果 | 親会社側で追加納税 | 低税率国での追加課税 |
| 監査リスク | 繰延税金負債の計上漏れ | 税務当局の更正リスク評価漏れ |
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決算期末の対応タイミング
ハンガリー製造業グループのケース。2024年度決算期末、監査チームはIIRについて以下の手順で対応した。
親会社の税務責任者に対し、グループ内の法人税率と2025年度の配当見通しをヒアリング。同時に移転価格文書がIIR導入に対応しているか確認し、低税率国子会社からの予定配当に基づく繰延税金負債の計上根拠をまとめさせた。
判断のポイントは配当見通しの実現可能性と過去パターンとの一貫性。配当が「見通し」であっても確度が高ければ負債計上は妥当だろう。見通しなしに「配当しない可能性がある」とだけ記載して計上を回避すれば、過少計上となる。ISA 540の経営者見積り評価基準で配当見通しの蓋然性を検証する。ここが調書の肝になる。
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関連用語
- 移転価格税制(Transfer Pricing): グループ内取引の価格設定ルール。IIRの対象外だが、併行して評価される - OECD Pillar 2: IIRとGloBEを含むOECDの多国籍企業課税改革の枠組み - 実効税率: 実際に納めた税額を課税利益で除した税率。IIR計算の中核 - 繰延税金負債: IIRによる将来の追加納税予定額の会計計上。ISA 540の見積り対象 - グループ内取引(Related Party Transactions): ISA 550のリスク領域
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Ciferiツール
「IIR・実効税率チェックリスト」では、IIR対象企業かどうかの判定から繰延税金負債計上の要否判断まで段階的に検証できる。
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