Definition

IIRは多国籍企業の過度な租税計画を制限し、親会社の国で追加課税する仕組みである

重要なポイント

IIRは多国籍企業の過度な租税計画を制限し、親会社の国で追加課税する仕組みである
監査人はISA 240.19の枠組みで、IIRの適用可能性と潜在的な租税リスクを評価する必要がある
IIR該当企業の財務報告では、繰延税金資産・負債の記載漏れが検査指摘の多くを占める

仕組み

IIRはOECD二柱子制度(「Pillar 2」)の一部として2021年に合意され、2024年から段階的に導入されている。対象は年間売上高7億5,000万ユーロ超の多国籍企業グループである。
基本的な枠組みはこうだ。グループ内の各法人が15%未満の実効税率で課税されている場合、IIRに基づき親会社(または中間持株会社)が不足額を追加で納付する。たとえば、オランダ法人の実効税率が10%で、親会社の所在地の法定税率が25%なら、差額の15%相当を親会社が納付することになる。
ISA 240.19は、監査人に対し「租税スキームのリスク要因を特定し、経営者の設計意図を評価する」ことを求めている。IIR導入後、経営者が意図的に低税率国での利益計上を継続していないか、または節税スキームを過度に構造化していないかを検証する対象になった。
ISA 550.25(関連当事者取引)では、グループ内移転価格の設定過程でIIRが考慮されているか確認する。多くの企業はまだ移転価格ポリシーを改訂していないため、この確認漏れが検査指摘につながっている。

実務例:Bakker Industrial B.V.

クライアント: オランダ製造業、2024年度、売上高€180M、IFRS報告者。オランダ子会社と低税率国(アイルランド、ハンガリー)の事業子会社により構成されるグループ。
ステップ1:売上高閾値の確認
監査調書ノート: グループの過去3年度売上高合計を集計し、7億5,000万ユーロを超えていることを確認した。IIR適用対象グループであることが明確になった。
ステップ2:各子会社の実効税率を計算
アイルランド子会社: 課税利益€12M、納税額€1.8M、実効税率15.0%
ハンガリー子会社: 課税利益€8M、納税額€0.96M、実効税率12.0%
オランダ親会社: 課税利益€30M、納税額€7.5M、実効税率25.0%
監査調書ノート: 低税率国での利益に対して、親会社の国の法定税率との差額が負債計上対象になるかどうかを検討した。
ステップ3:追加課税額の計算
ハンガリー子会社での不足額: (€8M × 25%) - €0.96M = €1.04M
アイルランド子会社での不足額: なし(15%は閾値に等しい)
監査調書ノート: 2024年度中にハンガリー子会社からの配当がなく、親会社での IIR計上の条件が満たされていないことを確認。ただし2025年度の見通しとして繰延税金負債計上の検討が必要。
ステップ4:繰延税金負債の評価
経営者は2025年度のハンガリー子会社からの予定配当に基づき、繰延税金負債€1.04Mを計上した。計上根拠は移転価格文書と経営者の配当政策声明。
監査調書ノート: 配当見通しの妥当性を確認し、過去5年間の配当実績と比較。ハンガリー子会社は毎年度利益の60%超を配当しており、経営者の見通しは適切と判断。
結論: IIRに基づく追加課税リスクは識別され、適切に繰延税金負債として計上されている。移転価格の設定がIIRを回避する意図で行われていないことが、グループ内取引価格の文書化により確認できた。

監査人とレビュアーが見落とすもの

  • ISA 240.19との連携不足: 租税スキームのリスク評価をISA 240の詳細手続から切り離す事務所が多い。IIRはリスク要因(グループ内構造の複雑性、低税率国での過度な利益計上)として ISA 240に組み込まれるべきだが、実行されていないことが指摘されている。
  • 移転価格文書の更新遅延: 多くの企業はIIR導入後も移転価格ポリシーを改訂していない。監査人はこの遅延の監査証拠(方針文書の日付、改訂記録)をそのまま受け入れている。ISA 550.25に基づき、グループ内移転価格政策がIIR対応版であることの検証が欠けている。
  • 繰延税金負債の過少計上: 2024年度はハンガリー・ポーランド・チェコなど低税率国子会社を持つグループで、繰延税金負債の計上漏れが多く見られている。配当見通しが具体的でなく、「必要に応じて配当する可能性がある」という曖昧な根拠で計上を回避している例が目立つ。
  • IAS 12.39とIIR計算の整合性不足: IAS 12.39は、子会社の未分配利益に係る繰延税金負債を、親会社が配当の時期をコントロールでき、かつ予見可能な将来に配当が見込まれない場合に限り免除を認めている。IIR導入後、この免除要件の充足が困難になっているにもかかわらず、従来どおりIAS 12.39の免除を適用し続けている企業がある。監査人はIIRの追加課税義務がIAS 12.39の「予見可能な将来に配当が見込まれない」という要件を実質的に無効化していないか検証する必要がある。

IIRと実効最低税率制度(GloBE)の相違

| 視点 | IIR(インカム・インクルージョン・ルール) | GloBE(グローバル・ミニマム・タックス) |
|------|-------|-------|
| 適用者 | 親会社(群)。子会社の低税率を補正 | 各国政府。グループ全体の最低税率を執行 |
| 課税権 | 親会社所在地 | 各低税率国の税務当局 |
| 計算単位 | 親会社の連結グループ単位 | 各法人単位またはグループ単位 |
| 効果 | 親会社側で追加納税 | 低税率国での追加課税 |
| 監査リスク | 繰延税金負債の計上漏れ | 税務当局の更正リスク評価漏れ |

監査上の実務的な対応が重要になる時期

ハンガリー製造業グループのケース。2024年度決算期末、監査チームはIIRについて次のように対応した。
親会社の税務責任者に対し、グループ内の現在の法人税率と2025年度の配当見通しについてヒアリングを実施。同時に、移転価格文書がIIR導入に対応しているか確認した。低税率国子会社からの予定配当に基づき、繰延税金負債の計上根拠をまとめさせた。
評価の判断ポイントは、配当見通しが実現可能で、過去のパターンと一貫していることだった。配当が「見通し」であっても、確度が高ければ負債計上が適切。見通しなしに「配当しない可能性がある」という理由で計上回避をすれば、過少計上となる。ISA 540の経営者見積りの評価基準を適用し、配当見通しの蓋然性を検証することが必須。

関連用語

  • 移転価格税制(Transfer Pricing): グループ内取引の価格設定ルール。IIRはこの対象外だが、併行して評価される
  • OECD二柱子制度: IIRとGloBEを含むOECDの多国籍企業課税改革フレームワーク
  • 実効税率: 実際に納めた税額を課税利益で除した税率。IIRの計算の中核
  • 繰延税金負債: IIRによる将来の追加納税予定額の会計計上。ISA 540の見積り対象
  • グループ内取引(Related Party Transactions): ISA 550の重要なリスク領域

Ciferiツール

本ツール「IIR・実効税率チェックリスト」を使用すれば、IIR対象企業かどうかの判定から、繰延税金負債計上の要否判断まで、段階的に検証できます。

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