目次

監査義務化の基準値

ドイツのGmbHの監査義務は会社規模によって決定される。HGB第316条は明確な数値基準を設けている。

HGB第316条の3つの基準


中規模以上の資本会社(Kapitalgesellschaft)は法定監査が必要。判定基準は次の3つ:
これらの基準のうち2つを連続する2事業年度で超過した場合、翌事業年度から監査義務が発生する。

小規模会社の例外規定


HGB第267条第1項の小規模会社は監査が免除される。小規模会社の基準:
3つすべてを満たす場合のみ監査免除。1つでも超過すれば中規模または大規模会社として分類される。

初回監査義務化のタイミング


会社設立後の監査義務化には特別な判定ルールがある:
この段階的な適用により、急成長企業も事前に監査体制を整備できる。

  • 売上高2,000万ユーロ(Umsatzerlöse)
  • 総資産1,000万ユーロ(Bilanzsumme)
  • 従業員250名(Arbeitnehmer im Jahresdurchschnitt)
  • 売上高600万ユーロ未満
  • 総資産300万ユーロ未満
  • 従業員50名未満
  • 設立年度:基準適用なし
  • 第2事業年度:期末で2つの基準を超過した場合、第4事業年度から監査義務
  • 第3事業年度以降:連続する2事業年度で2つの基準を超過した場合、翌事業年度から監査義務

適用される監査基準

ドイツの法定監査は国際監査基準をベースに、固有の要件を上乗せしている。

国際監査基準(ISA)の採用


ドイツは2021年からISAを全面採用した。Wirtschaftsprüferkammer(WPK)発行のハンドブック2021年版に基づく。重要性の設定はISA 320.12の要件に従う。
監査計画段階で設定した重要性の基準値は、監査完了段階で再評価が必要。期末の実際の財務数値との乖離があれば調整する。

ドイツ固有の追加要件


ISAに加えて、ドイツ監査基準書(Deutsche Prüfungsstandards)が補完的な要件を定める:
PS 201リスク評価手続において、ドイツの税法および商法に特有のリスクを識別する要件。特に税務・商法の評価差異に関連するリスク。
PS 450:軽微な虚偽表示の集計と報告において、HGB固有の開示要件への影響を評価する手続。
PS 720:法定代理人(Gesetzliche Vertreter)への報告書において、内部統制システムの評価を含める要件。

監査報告書の記載要件


ドイツの監査報告書(Bestätigungsvermerk)には、ISAの標準的な要素に加えて次の記載が必要:

  • 年次報告書(Jahresabschluss)と状況報告書(Lagebericht)の監査意見を分離して表示
  • 経営者の責任に関する記述でHGB第325条の公告義務に言及
  • 継続企業の前提に関する記述でドイツ商法の規定を引用
  • ISA 701に基づく監査上の主要な検討事項(KAM)の記載(PIE該当企業の場合、例えば収益認識の期末カットオフに関する重要な判断の内容とそれに対する監査手続の概要)

財務報告書監査の範囲

ドイツのGmbH監査は年次報告書と状況報告書の両方をカバーする。

年次報告書(Jahresabschluss)の監査


HGB第242条以降に従って作成された以下の書類:
中規模以上の会社では資本変動計算書(Eigenkapitalspiegel)も含む。ISA 700に基づく監査意見の表明が必要。

状況報告書(Lagebericht)の監査


状況報告書の監査はISA 720の適用範囲。以下の要素を検証:
業績の分析:売上高、収益性、財政状態の記述が年次報告書の数値と整合しているか。
リスクの開示:将来の事業展開に影響する重要なリスクが適切に識別・開示されているか。
見通しの合理性:翌事業年度以降の業績見通しが利用可能な情報と矛盾していないか。

内部統制システムの評価


GmbHの監査では内部統制システムの評価も必要。ただし、これはISA 315の範囲内で実施する。
評価対象は財務報告に関連する統制に限定される。HGB第289条第4項の記述要件(中規模以上の会社)との整合性も確認する。

  • 貸借対照表(Bilanz)
  • 損益計算書(Gewinn- und Verlustrechnung)
  • 注記(Anhang)
  • キャッシュフロー計算書(Kapitalflussrechnung)(HGB第297条第1項に基づき、大規模会社の連結財務諸表で作成義務あり)

実務例:Müller製造GmbH

> Müller製造GmbH
本社:デュッセルドルフ
事業内容:自動車部品製造
設立:2020年1月
売上高:2,200万ユーロ(2023年度)
総資産:1,100万ユーロ(2023年度)
従業員:280名(2023年度平均)

ステップ1:監査義務の判定


2023年度の基準値確認:
文書化:HGB第316条の3基準すべてを超過。前年度の数値も確認が必要。

ステップ2:前年度との比較


2022年度の数値:
文書化:2022年度は従業員基準のみ超過。連続する2事業年度で2基準超過の条件を満たさない。

ステップ3:監査義務化の時期


2024年度の予測数値を経営者に確認:
文書化:2024年度も3基準すべてを超過する見込み。2023年度と2024年度で連続して2基準超過となるため、2025年度から監査義務。

ステップ4:監査範囲の確定


2025年度監査(初回監査)で必要な手続:
年次報告書監査:HGB準拠の貸借対照表、損益計算書、注記を対象。ISA 700に基づく監査意見。
状況報告書監査:ISA 720の手続により、記載内容の整合性と合理性を検証。
比較情報:2024年度数値に対してISA 710の手続を適用。初回監査のため限定的な手続。
結論:Müller製造GmbHは2025年度から監査義務化。初回監査のため、2024年度の期首残高に対する十分かつ適切な監査証拠の入手がカギとなる。

  • 売上高2,200万ユーロ > 2,000万ユーロ ✓
  • 総資産1,100万ユーロ > 1,000万ユーロ ✓
  • 従業員280名 > 250名 ✓
  • 売上高1,850万ユーロ > 2,000万ユーロ ✗
  • 総資産980万ユーロ < 1,000万ユーロ ✗
  • 従業員265名 > 250名 ✓
  • 売上高見込み:2,400万ユーロ
  • 総資産見込み:1,250万ユーロ
  • 従業員見込み:300名

実践チェックリスト

  • HGB第316条の基準判定:3つの数値基準(売上高2,000万ユーロ、総資産1,000万ユーロ、従業員250名)のうち2つを連続する2事業年度で超過しているか確認する。
  • 小規模会社例外の検証:HGB第267条第1項の基準(売上高600万ユーロ、総資産300万ユーロ、従業員50名)をすべて下回る場合は監査免除。
  • 監査基準の適用:ISAを基本とし、ドイツ固有の追加要件(PS 201、PS 450、PS 720)を併せて適用する。
  • 監査範囲の確定:年次報告書(貸借対照表、損益計算書、注記)と状況報告書の両方を監査範囲に含める。
  • 報告書の記載:監査報告書にHGB固有の要件(法定代理人の責任、公告義務への言及)を盛り込む。
  • 最も重要な点:監査義務化は基準超過の翌年度からではなく、連続する2事業年度での基準超過が確定した翌年度から。タイミングを間違えると法令違反となる。

よくある間違い

  • 基準の単年度判定:1事業年度のみで基準を超過しても監査義務は発生しない。連続する2事業年度での判定が必要。
  • ISAのみの適用:ドイツではISAに加えてPS(Prüfungsstandards)の適用も必要。内部統制評価やリスク識別においてドイツ固有の要件がある。

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