仕組み

監査人の報告書は、被監査会社の財務諸表利用者に対して、監査人がどのような手続を実施し、その結果何を結論付けたかを伝える唯一の手段。監基報700号および監基報701号が、この報告書に盛り込むべき情報構成を定めている。

報告書の最初の要素は監査意見。無限定適正意見、限定適正意見、不適正意見、意見を表明しない旨の4つの形式のいずれかをとる。監基報700.35は、無限定適正意見を表明するための条件を定めており、監査人が合理的な根拠に基づいて、財務諸表が全ての重要な点において適正に表示していると結論付けることが必要とされる。

報告書は監査の範囲に関する説明も含める。監基報701号では、どの会計期間の財務諸表か、どのような会計枠組みに基づいているか、監査人がどの程度の確実性を得たかを明記するよう求めている。経営者の責任と監査人の責任の区分を明確に記載する必要もある。経営者は財務諸表の作成と公正な表示に責任を持つ。監査人は、監査証拠に基づいて合理的な保証を得られたかどうかを判断し、報告する責任を持つ。

2023年以降の被監査会社では、KAMの記載が報告書の要件となった。監基報701号.10は、監査人がKAMとして識別した事項をすべて報告するよう求めている。KAMとは、被監査会社の財務諸表の監査において特に重要と判断された事項であり、経営判断の幅が大きい領域やビジネスリスクが高い領域が該当する。

報告書の最後には、監査人の名称、監査を実施した事務所の所在地、監査完了年月日を記載する。監基報700号.49は、監査報告書が監査人により署名されることを要求している。この署名は、報告書が正式なものであることを示す法的効力を持つ。

具体例:テクノロジー製造業での適用

被監査会社:ニシモト電子機器工業株式会社(神奈川県横浜市)、2023年度決算、IFRS導入企業。

監査範囲の確認

監査チームは、2023年4月1日から2024年3月31日までの財務諸表、およびその注記の全体が監査の対象であることを確認した。IFRSに準拠した公正な表示が必要とされていたため、監基報700号.A10に基づき、「国際財務報告基準に準拠した公正な表示の枠組み」として特定した。監査計画ファイルの「報告書ドラフト」セクションに、対象会計期間と会計枠組みを記載。

監査意見の根拠確認

完了段階で、監査チームは以下を確認した。(1) 識別した全ての重要な不備が是正されているか、(2) 経営者による継続企業の前提に関する表示が適切であるか、(3) 監査証拠が合理的な根拠に基づいているか、(4) 未修正の虚偽表示が重要性の基準値を下回っているか。全て肯定的であったため、無限定適正意見の表明が可能と判断した。報告書最終版の「意見」項目に「無限定適正意見を表明する」と記載。

KAM候補の整理

このクライアントの場合、以下の4項目をKAM候補として識別した。(1) 新製品開発プロジェクトに関わる無形資産の認識(IAS 38.57により、開発段階の支出であるかどうかの判定に実質的な会計判断が必要)、(2) 長期請負契約に関わる収益認識(IFRS 15.50により、パフォーマンス義務の識別とその充足時点の判定が経営判断の主観を伴う)、(3) 退職給付債務の再測定(IAS 19.69により、割引率および従業員の給与上昇率の選択に相当な幅がある)、(4) 棚卸資産の評価損(季節性の高い製品ラインにおいて、正味実現可能価額の見積りに判断が入る)。KAM決定メモに、各事項についての監査上の対応と、KAMとして報告すべき理由を記載。

報告書構成の確定

監査人は、監基報701号.17の要件に基づき、報告書に以下を記載することとした。監査意見、監査の対象と会計枠組み、経営者の責任、監査人の責任、監査の形成過程、4つのKAM(各々について、なぜそれが重要であったか、どのような監査手続を実施したか、その結果何を結論付けたかを簡潔に記述)。報告書案を被監査会社に送付する前に、チェックリストで上記要件が全て含まれていることを確認。

経験上、報告書の最終チェックで見落とされやすいのは、KAMの記述と調書の記述の整合性。調書では詳細に書いているのに、報告書のKAM記述が「売上計上基準の判定が複雑であった」程度の一行で終わっている場合、審査で差し戻しになる。

査察機関と実務者の誤解

KAMの識別基準が金額だけに偏っていることが多い。監基報701号.9では、「質的に重要な事項」もKAMの対象であることを明示している。金額は小さくても、経営判断の主観が大きい領域(引当金の見積りの根拠となる仮定など)はKAM候補となる。現場では、金額閾値で機械的にKAM候補を選別し、質的検討をスキップしているチームが少なくない。

調書と報告書のズレも指摘が多い。調書では十分な説明と根拠を記載しているにもかかわらず、報告書のKAM記述が平板で、監査人の思考過程が見えないケースがある。監基報701号.17は、KAMについて「その事項がなぜ重要であったか」を報告するよう求めている。「売上計上基準の判定が複雑であった」と書くだけでは不十分。「売上計上基準の判定には、契約条件の分析とビジネスモデルの理解が必須であり、その過程で複数の解釈が可能な状況を識別した」という程度の説明が期待される。

対象外項目の記載が不十分なケースも目立つ。監基報700号では、報告書に「監査対象外の項目(通常、比較財務データ)がある場合」、その旨を記載するよう求めている。日本の実務では、前年度比較データについて「監査対象外」と明記しないまま報告書を提出するケースがある。利用者が前年度データの信頼性を誤認するリスクにつながる。

関連用語

- 監査意見:監査人が被監査会社の財務諸表について表明する見解。無限定適正意見から不適正意見までの4段階がある。

- KAM:被監査会社の財務諸表の監査において特に重要と判断された事項。監査人の報告書に記載される。

- 継続企業の前提:被監査会社が事業を継続することを前提に財務諸表が作成されていることの表示。監基報570号で規定される。

- 監査証拠:監査人が監査意見の根拠となる情報を収集するプロセス。監基報500号で規定される。

- 経営者の責任:被監査会社の経営者が負う財務諸表作成と公正な表示の責任。監基報700号で区分が明確にされる。

- 監査人の責任:被監査会社の財務諸表が全ての重要な点において適正に表示されているかを判定し、報告する責任。

- 合理的な保証:監査人が監査手続を実施して得る確実性のレベル。高水準だが、絶対的ではない。

関連するツール

Ciferiの監査報告書テンプレート集は、監基報700号および監基報701号に準拠した報告書フォーマットを提供している。このテンプレートを使用することで、報告書に必須の要素が漏れていないことを確認できるとともに、KAM記述の質を向上させるための指針を得ることができる。

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