スコープ3排出量推定ツール: カナダ | ciferi
カナダのスコープ3排出量報告要件は、複数の層からなる。連邦レベルでは、 環境・気候変動省(Environment and Climate Change Canada, ECCC) が温室効果ガス排出量の報告を管理する。2023年から、環境保護法(Canadian Environmental...
カナダの規制枠組み
カナダのスコープ3排出量報告要件は、複数の層からなる。連邦レベルでは、環境・気候変動省(Environment and Climate Change Canada, ECCC) が温室効果ガス排出量の報告を管理する。2023年から、環境保護法(Canadian Environmental Protection Act, CEPA)の下で、年間排出量が50,000トンCO2eを超える一部の企業に対し、直接的なスコープ1・スコープ2の報告が義務化されたが、スコープ3の報告は現在のところ任意である。
しかし、カナダ証券取引所委員会(Canadian Securities Administrators, CSA)は、2023年11月に気候変動開示基準の提案を公開した。この提案では、国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)の基準に基づいて、スコープ3排出量の報告が実質的にマテリアルな企業には開示を求める見通しである。施行予定は2025年から2026年の間である。
カナダ銀行(Bank of Canada) と 金融機関監督局(Office of the Superintendent of Financial Institutions, OSFI) は、大規模な金融機関に対し、気候変動関連の金融リスク評価を求めており、これには融資先企業のスコープ3排出量の理解が含まれる。保険業界では、カナダ保険局(Insurance Bureau of Canada)が気候リスク評価を推奨している。
排出係数の源泉
カナダの排出係数は、3つの主要な源泉から取得される。
Environment and Climate Change Canada(ECCC) は、カナダ国立温室効果ガス排出量インベントリ(National Inventory Report)の作成に使用される係数を公開しており、燃料の燃焼、電力、輸送、廃棄物に関する基準的な排出係数を提供している。2024年版のECCC係数は、地域別の電力グリッド排出係数を含む。例えば、オンタリオ州の電力グリッド排出係数は約0.030 kg CO2e/kWh(2024年、立地ベース)である。これは、オンタリオの電力網がカナダで最も低炭素(主に原子力)であるためである。一方、アルバータ州は約0.480 kg CO2e/kWh(立地ベース)で、石炭火力発電への依存が高い。
カナダ環境持続可能発展基金(Environment and Sustainable Development Foundation) と カナダ標準協会(Canadian Standards Association, CSA) は、GHGプロトコル準拠の排出係数データセットを提供している。CSAグループのWaste & Resources Action Programme(WRAP)連携データは、カナダの廃棄物処分パターンに固有の係数を含む。
Quantis International および カナダの大学研究機関(トロント大学工業生態学研究室など)は、カナダ固有のライフサイクル評価(LCA)データを公開している。これらは、カナダで製造または調達される特定の材料や製品に対する排出係数を提供する。
実務上の推定方法
スコープ3カテゴリ1: 購入した商品およびサービス
日本の監査法人がカナダのクライアント企業と協働する際、スコープ3カテゴリ1の推定では支出ベースのアプローチを初期段階で適用する場合が多い。推奨される支出係数は、GHGプロトコルとEXIOBASEのデータに基づき、産業全体で平均0.42 kg CO2e/ユーロである。ただし、カナダの企業が使用する通貨はカナダドル(CAD)であるため、換算が必要である。
カナダドルからユーロへの換算レート(2024年平均)は約1 EUR = 1.47 CADである。したがって、0.42 kg CO2e/EURは、約0.285 kg CO2e/CADに相当する。しかし、この汎用係数よりも精密な推定を目指す場合は、カナダの産業分類(North American Industry Classification System, NAICS)コード別の支出係数を適用する。
例:某日本系電機メーカーの子会社、カナダ・オンタリオ州トロント所在
株式会社東日本エレクトロニクス・カナダ子会社(所在地:トロント、従業員数:250名、年間売上:180百万CAD)は、上流サプライチェーンのスコープ3排出量を推定する。購入された商品およびサービスの総支出は98百万CADであり、その内訳は次の通り:
電子部品(NAICS 3344)については、EXIOBASE由来の係数0.38 kg CO2e/CADを適用する。これは、電子機器製造が相対的に低炭素の産業であるため。製造委託加工(NAICS 3366)には0.45 kg CO2e/CADを適用(カナダの委託加工施設の多くが水力発電を利用するオンタリオ州に立地)。一般消耗品(NAICS 4239)には汎用係数0.42 kg CO2e/CADを適用。
計算結果:
調査資料への記載事項:各支出カテゴリの係数選択根拠、供給業者所在地の地理的分布(カナダ国内 vs 米国 vs 海外)、データギャップの性質(実際のサプライヤー排出データ vs 推定係数の割合)。
スコープ3カテゴリ3: 燃料およびエネルギー関連活動
カナダにおけるスコープ3カテゴリ3は、スコープ2として計上された電力購入の上流排出(採掘、発電所の建設、送電ロスを含む)を対象とする。ECCC公開係数によると、カナダ平均での上流排出係数は約0.025 kg CO2e/kWh。ただし、州別の電力グリッド構成により大幅に変動する。
オンタリオ州:0.002 kg CO2e/kWh(原子力主体)
ケベック州:0.001 kg CO2e/kWh(水力発電主体)
ブリティッシュコロンビア州:0.003 kg CO2e/kWh(水力発電主体)
アルバータ州:0.055 kg CO2e/kWh(石炭火力主体)
マニトバ州:0.002 kg CO2e/kWh(水力発電主体)
複数州で事業を展開する企業の場合、州別の電力購入量に応じて加重平均係数を算出する。
スコープ3カテゴリ4・9: 上流・下流輸送
カナダのサプライチェーン輸送は、広大な地理的領域と限定的な鉄道網を反映したパターンを示す。以下がECCC/GHPプロトコル基準の排出係数。
カナダの企業が米国や太平洋地域の顧客向けに製品を輸出する場合、国際海上輸送がコストおよび排出量の観点から支配的となる。国内向けの場合、トランス・カナダ・ハイウェイに沿った道路輸送が主流である。
スコープ3カテゴリ6: 出張
カナダ国内の航空出張のデータは、統計カナダ(Statistics Canada)の交通部門調査から利用可能である。短距離路線(1,000 km未満、例:トロント~モントリオール)の排出係数は、客室クラス別に以下の通り:
長距離国際線(カナダ~太平洋地域、1,000 km超)の係数:
女性が出張者の比率が高い業界(法律事務所、コンサルティング、医療など)では、統計カナダの性別別出張データを用いて、より精密な推定が可能である。
スコープ3カテゴリ7: 従業員通勤
カナダの従業員通勤パターンは、都市と郊外で大きく異なる。統計カナダの全国交通調査(National Travel Survey)は、地域別の通勤距離と交通手段の混合を提供している。大都市(トロント、バンクーバー、カルガリー)では、公共交通の利用が相対的に高い(20~30%)。小規模都市では、自動車通勤が支配的(80~90%)。
デフォルト係数は、全国平均で1.28 kg CO2e/従業員/就業日(年間230就業日ベース)。
カナダにおける電気自動車の普及は急速である。2023年の新車登録台数のうち、バッテリー電気自動車(BEV)の割合は約9~10%であり、ハイブリッド車(PHEV)を含めると16~17%である。従業員の通勤車両にEVが含まれる場合、その比率に応じて係数を減少させる。例えば、30%の従業員がEVで通勤する場合、排出係数は約0.90 kg CO2e/従業員/就業日に低減される。
- 電子部品・材料:54百万CAD
- 製造委託加工サービス:28百万CAD
- 一般消耗品・IT機器:16百万CAD
- 電子部品:54百万 × 0.38 = 20.5万トンCO2e
- 製造委託加工:28百万 × 0.45 = 12.6万トンCO2e
- 一般消耗品:16百万 × 0.42 = 6.7万トンCO2e
- 合計スコープ3カテゴリ1:39.8万トンCO2e
- 道路輸送(大型トラック):0.107 kg CO2e/トン・km
- 鉄道輸送(鉄道貨物):0.028 kg CO2e/トン・km
- 海上輸送:0.016 kg CO2e/トン・km
- 航空輸送:0.602 kg CO2e/トン・km
- エコノミークラス:0.156 kg CO2e/客・km
- ビジネスクラス:0.312 kg CO2e/客・km(座席当たりの排出許容割合が大きい)
- エコノミークラス:0.195 kg CO2e/客・km
- ビジネスクラス:0.390 kg CO2e/客・km
金融機関監督当局の期待
Office of the Superintendent of Financial Institutions(OSFI) は、2023年6月に気候変動関連の金融リスク管理ガイダンスを改定した。このガイダンスは、大規模銀行および保険会社に対し、自社のスコープ1・2・3排出量、および融資ポートフォリオのスコープ3排出量(融資先企業の排出量)を測定・開示することを期待している。
特に、カナダのビッグ5銀行(Royal Bank of Canada, Toronto-Dominion Bank, Bank of Nova Scotia, Bank of Montreal, Canadian Imperial Bank of Commerce)は、融資先企業からスコープ3排出データを系統的に要求するようになっており、これがカナダの中堅企業にスコープ3測定の実装を促している。
金融庁(該当なし、カナダに統一的な金融規制当局はない。OSFI、各州の証券委員会が分立)の期待は、スコープ3排出量の測定におけるデータ品質に関心がある。すなわち、実績データ(actual data)と推定データ(estimated data)の混在比率の開示、データギャップの説明、および年間の再測定による変動の説明である。