仕組み

監査人は、自分の知識・スキルでは十分に判断できない領域で、専門家の支援を求めることがある。ISA 620.11は、監査人が専門家を利用する場合、その人物または組織の適格性を評価しなければならないと定めている。適格性の判断には、その専門家が必要な資格、認定資格、免許を保有しているか、また関連領域での経験がどの程度あるかが含まれる。
独立性の評価も同様に重要。ISA 620.13は、監査人が専門家の独立性を評価することを求めている。監査人の内部スタッフ(例えば、監査法人内の評価部門の専門家)を利用する場合、ISA 220に基づく監査チーム全体の独立性フレームワークの下で評価される。外部の第三者の専門家を利用する場合、その専門家と被監査企業との関係に潜在的な利益相反がないか確認する必要がある。
一度評価した後でも、ISA 620.14は、専門家の意見または結論が予期しない結果をもたらした場合、その根拠となった仮定や方法をさらに詳しく検証することを求めている。専門家が「企業評価は20百万ユーロ」と述べても、監査人はその前提条件(割引率、成長率、比較対象企業の選定基準)が合理的か、被監査企業の状況に適切に反映されているか確認する責任がある。

具体例:テクラコン・ベルギーN.V.

クライアント:ベルギー製造業、2024年度、売上€52M、IFRS報告。
被監査企業は2025年1月1日から新たな生産設備を導入予定。その設備から得られる予想キャッシュフロー(右使用資産の評価)を見積もる必要があり、監査人は内部のIT専門家が評価を行う場合の信頼性について判断しなければならない。
ステップ1:専門家の適格性を評価する
被監査企業は、独立した外部の評価専門家に評価を依頼した。監査人は、その専門家がどのような資格を保有しているか確認した。認定評価士(IVSC認定の国際評価基準に準拠)、15年の機械設備評価経験、過去3年間は同業他社5社の評価実績があった。
監査調書記載:「外部評価専門家Valuation Partners Ltd.の適格性確認。IVSC認定、同業種経験15年、参考資料A参照。独立性:当該企業との経済的関係なし、過去3年間取引なし。」
ステップ2:専門家の独立性を確認する
評価専門家がクライアント企業と過去に取引のある関連会社や、経営陣と個人的な関係にないか確認した。また、評価専門家の報酬が妥当か、「企業価値が高く出たら手数料が上がる」といった成功報酬体系になっていないか検証した。
監査調書記載:「Valuation Partners Ltd.の独立性確認。企業・経営陣との過去取引なし。報酬体系:固定手数料€8,500、成功報酬条項なし。」
ステップ3:専門家の対象範囲と仮定を検証する
評価レポートを受け取った後、監査人は以下を確認した:
監査調書記載:「評価専門家の仮定検証:対象機械仕様一致確認。割同業比較分析、WACC 9.2%は業界平均の範囲内。キャッシュフロー予測はクライアント2023年実績に基づく経営計画との整合性確認済み。」
結論
監査人は、評価専門家の報告書が ISA 540(監査証拠)で求められる信頼性基準を満たすと判定した。評価専門家の適格性、独立性、仮定のすべてが検証可能であり、被監査企業が資産評価の根拠をはっきり説明できたため、監査意見の根拠となる十分・適切な証拠として受け入れた。

  • 評価対象の機械設備の仕様と被監査企業の導入予定機器が一致しているか
  • 割引率(WACC)の計算が業界平均と乖離していないか(ステップ2で確認した割引率は9.2%、同業他社平均8.5〜10.0%の範囲内)
  • 将来キャッシュフロー予測が被監査企業の経営計画に基づいているか、その計画が実績に基づいているか
  • 評価の前提となる耐用年数や残存価額がISA 540.A56に基づく合理的な範囲内にあるか(当該機械の業界標準耐用年数12年との比較で確認)

監査人と検査当局が見落としやすい点

  • 検査指摘の事例:多くの監査法人は、専門家を利用する際に専門家の適格性を記録するが、評価の中身までは検証しない。ISA 620.14で求められる「予期しない結論への対応」が不足している場合が多い。例えば、在庫評価専門家が提示した正味実現可能価額が通常の売価より大幅に低い場合、その根拠となった仮定(市場需要の減少率、売却期間)を監査人が自分自身で確認した形跡がないファイルが多く指摘されている。
  • 実務上よく見られるギャップ:監査人が「外部の専門家を利用したから、その結論は信頼できる」と考えてしまい、結果的に専門家の範囲外の事項まで専門家の意見に依存してしまう。ISA 620.16は、専門家の結論が監査意見全体に及ぼす影響を監査人自身で評価することを求めているが、この評価プロセスが不十分な場合が多い。例えば、「評価専門家は正味実現可能価額が500万ユーロと判定した」という報告を、そのまま監査証拠として受け入れ、その金額が全体的な重要性の範囲内か、単体の重要性の範囲内かの判定を行わないまま終了してしまうケースが見られる。

専門家 vs. 経営者の見積もり

専門家の利用と経営者の見積もり(ISA 540が対象)は異なる。経営者の見積もりは経営者自身が行う会計処理であり、監査人は見積もりプロセスの妥当性を評価する。専門家の利用は、監査人が監査証拠を得るため、専門知識が必要な領域について外部またはグループ内の専門家の判断を活用することである。
経営者が専門家の意見に基づいて見積もりを行った場合、監査人は経営者の見積もりプロセスと、その根拠となった専門家の能力の両方を評価しなければならない。

関連用語

  • ISA 540 会計上の見積もり: 監査人が会計上の見積もりプロセスの信頼性をどう判定するか。専門家の利用はこのプロセスの一部になることがある
  • 監査証拠: 専門家からの報告は、十分・適切な監査証拠として認められるための要件
  • 重要性: 専門家の結論が全体的な監査戦略に与える影響を判定するため、重要性の閾値との比較が不可欠
  • 監査リスク: 専門家の結論に依拠する場合でも、最終的な監査リスクの評価は監査人自身が行う

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