重要なポイント
- GHGプロトコルが定義する上流8・下流7の15カテゴリーで構成される間接排出
- ESRS E1 AR 46はサプライヤー固有データが入手困難な場合に支出ベース方式等の見積りを認めている
- オムニバスI指令後も、バリューチェーンのパートナーとしてのデータ提供要請やCDP対応は継続する
仕組み
GHGプロトコル・コーポレートバリューチェーン基準はスコープ3を15のカテゴリーに分類する。上流8カテゴリー(購入した財・サービス、資本財、燃料・エネルギー関連活動、輸送・配送、廃棄物、出張、従業員通勤、リース資産)と下流7カテゴリー(輸送・配送、販売した製品の加工、販売した製品の使用、販売した製品の廃棄、リース資産、フランチャイズ、投資)で構成される。
ESRS E1.44はスコープ3排出量の開示を要求し、ESRS E1 AR 46はサプライヤー固有のデータが過度なコストや労力なく入手できない場合に見積りの使用を認めている。実務上、多くの企業は初年度に支出ベース方式(調達額に排出係数を乗じる手法)から開始し、順次サプライヤーからの一次データ取得へ移行する。
2026年2月26日公表のオムニバスI指令は、CSRDの適用範囲を従業員1,000人以上かつ売上高EUR 450M超の企業に限定した。この基準を下回る企業にはESRS E1の報告義務はないが、バリューチェーンのパートナーとしてデータ提供を要請される場合がある。自主的なGHGプロトコルやCDPへの報告は企業規模にかかわらず広く行われている。
実務例:Novak Industries
クライアント:チェコ・ブルノ拠点の自動車部品メーカーNovak Industries、FY2025年度売上高EUR 210M、従業員1,800名、CSRD適用対象
スコーピング
重要性評価の結果、15カテゴリーのうち5つが重要と判定された。カテゴリー1(購入した財・サービス)が全スコープ3の推定62%を占め、カテゴリー4(上流輸送)が14%、カテゴリー11(販売製品の使用)が11%、カテゴリー6(出張)が5%、カテゴリー7(従業員通勤)が4%である。監査調書:スコーピングの根拠、各カテゴリーの推定割合の算出方法
カテゴリー1の算定
サプライヤー120社のうち一次データを提供したのは18社(調達額の35%に相当)である。残る82%は支出ベース方式を適用し、EXIOBASEの排出係数を使用した。総排出量は28,400 tCO2eと算定された。監査調書:サプライヤーデータの回収率、使用した排出係数データベースとバージョン、支出データの出典
データ品質の限界
支出ベース方式は調達金額と排出量の線形関係を仮定するため、低炭素サプライヤーへの切替え効果を反映できない。ESRS E1 AR 46はこうした手法上の限界の開示を求めている。Novak Industriesはサステナビリティ報告書の方法論セクションに、一次データ取得率35%、残余部分の推定手法とその限界を記載した。監査調書:方法論の限界に関する開示内容のレビュー結果
結論:スコープ3の初年度報告では、利用可能なデータの範囲で最善の見積りを行い、手法の限界を透明に開示することが基本方針となる。順次一次データの取得率を引き上げることで、報告精度を段階的に改善する計画である。
よくある誤解
- 全15カテゴリーを均等に算定する GHGプロトコルは重要性に基づくアプローチを認めている。排出量の大部分を占めるカテゴリーに資源を集中し、残余は合理的な見積りで対応するのが実務的である。ESRS 1.37-58の重要性評価がカテゴリー選定の根拠となる。
- オムニバスI以降スコープ3は不要と判断する CSRD適用基準(従業員1,000人以上・売上EUR 450M超)を下回る企業に報告義務はないが、適用対象企業のバリューチェーンに組み込まれている場合、データ提供要請は継続する。CDP回答やESG格付けでもスコープ3データは要求される。
- 支出ベース方式の結果を精緻な実測値と同等に扱う 支出ベース方式はセクター平均の排出係数を用いるため、個別サプライヤーの排出削減努力を反映しない。方法論の限界をESRS E1 AR 46に基づき開示し、一次データへの移行計画を示す必要がある。
- 排出係数を更新せず前年の値を継続使用する ESRS 1.56は毎報告日での重要性評価の更新を要求する。排出係数データベース(EXIOBASE、DEFRA等)も年次更新されるため、最新版を使用しなければ報告の信頼性が損なわれる。
関連用語
- スコープ1排出量:企業が所有・管理する排出源からの直接排出。スコープ3の対象外。
- スコープ2排出量:購入した電力・熱・蒸気の生成に伴う間接排出。ロケーション基準とマーケット基準の二重報告が標準。
- ダブル・マテリアリティ:財務的重要性と影響の重要性の双方を評価するCSRDの基本概念。スコープ3のカテゴリー選定に直結する。
- ESRS:欧州サステナビリティ報告基準。スコープ3の開示はESRS E1が規定する。