Definition
ほとんどの企業が位置ベース法だけで開示しており、市場ベース法との差を把握していない。CSRD適用1段階に入った今、ESRS E1-4は両方法での開示を求めるため、片方しか出ていない調書はそこで止まる。経験上、これは再エネ証書の管理がずさんな会社ほど詰まる論点。
重要なポイント
- スコープ2は、企業のバリューチェーン外で発生するため直接制御はできないが、購入先の切り替えや再エネ証書の調達で低減できる。 - 位置ベース法と市場ベース法の2方法があり、選択次第で同じ企業の数字が大きく変わる。 - CSRDおよびESRS E1-4はスコープ2の開示を必須としており、CSRD適用1段階の企業はすでに2025年度から対象。 - 再エネ証書(GO/REC)の二重計上は、現場ではスコープ2と削減主張の整合性チェックで最も詰まる論点。
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仕組み
スコープ2は、購入電力・蒸気・冷暖房に伴う間接排出である。GHGプロトコル基準4.3節は、計算範囲をバリューチェーン外の発電・供給段階に限定する。
計算方法には位置ベース法と市場ベース法がある。位置ベース法は電力網全体の平均排出係数を使うため、企業が再エネを買っているかどうかは数字に出ない。市場ベース法は、実際に購入した電力の種別(再エネ証書の有無など)に基づいて計算するため、購入決定が数字に反映される。スコープ3と違い、スコープ2は企業のシステム境界に直接ひもづき、制御可能性は中程度。
ESRS E1-4は、エネルギー購入の効率を測る指標としてスコープ2排出原単位の開示を求めている。原単位ベースで揃えることで、年度間・企業間の比較が可能になる。
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実例: Nordstein Energi AS
クライアント: ノルウェーの食品製造会社、2024年度、売上2,800万ノルウェークローネ、IFRS報告。本社工場、配送センター2ヶ所、冷凍倉庫施設を保有。
ステップ1: 購入したエネルギー源の特定 エネルギー購入記録から年間電力購入量を確認。本社工場1,200MWh、配送センター合計600MWh、冷凍倉庫400MWh。合計2,200MWh。算定対象となる全施設の電力購入を確認し、調書に記録する。
ステップ2: 再エネ証書の確認 本社工場では、年間800MWhについて風力発電由来の再エネ証書(GOs)を購入。配送センターでは無し。施設ごとに再エネ証書の取得状況を確認し、供給契約書で裏付ける。
ステップ3: 排出係数の選択と計算 市場ベース法を採用。本社工場800MWh分は排出係数0tCO₂/MWh(再エネ)、残り400MWhはノルウェー国内電力網の平均係数30gCO₂/kWh。配送センター600MWhと冷凍倉庫400MWhは全量、国内電力網の平均係数で計算。 計算: (400 × 0.03) + (600 × 0.03) + (400 × 0.03) = 0 + 18 + 12 = 30tCO₂e エネルギー源別に排出係数の根拠資料(国家電力統計、供給業者の開示データ)を調書に貼付する。
ステップ4: 蒸気と冷暖房の確認 配送センター1ヶ所で地域の蒸気供給業者から年間150トンの蒸気を購入。供給業者の排出係数(0.12tCO₂/トン)を適用。150 × 0.12 = 18tCO₂e 蒸気供給契約書および供給業者の公表排出係数を証拠として添付。
結論: スコープ2排出量の合計は48tCO₂e。位置ベース法で計算した場合は66tCO₂eで、市場ベース法の選択により18tCO₂e(27%)の差が出た。この差が再エネ証書購入の効果。位置ベース法と市場ベース法の両方を開示するのが原則であり、両者の計算根拠が調書に明記されていることをレビュー時に必ず確認する。
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監査人が見落としやすい点
- 位置ベース法と市場ベース法の混在: 企業が複数の方法を施設ごとに使い分け、年度間で比較できなくなっている。GHGプロトコル基準4.5節は、選択した方法とその根拠の明記を求める。現場ではここで議論が止まる。 - 再エネ証書の二重計上: スコープ2(市場ベース法)とスコープ3削減主張の両方で、同じ再エネ証書の効果を計上しているケース。スコープ2削減目標とスコープ3削減主張が矛盾していないかを必ず確認する。これは正直、再エネ証書の管理がずさんな会社ほど詰まる論点(笑)。 - 排出係数の最新性の欠落: 国内電力網の平均排出係数は毎年更新されるが、企業が前年の係数を使い続けており、年度間の比較可能性が崩れている。 - 境界の取り違え: 自家発電の余剰電力を売却している場合、スコープ1とスコープ2の境界判断を誤る事例がある。
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対 スコープ3排出量
| 観点 | スコープ2排出量 | スコープ3排出量 |
|---|---|---|
| 発生場所 | 購入したエネルギーの供給元で発生 | バリューチェーン全体(サプライヤー、顧客、廃棄など)で発生 |
| 企業の制御度 | 購入決定により低減可能(中程度) | 企業外での活動のため制御困難 |
| 開示義務 | CSRDでは必須 | CSRDでは重大な場合に開示 |
| 排出係数 | エネルギー供給業者から公表される標準係数 | 産業別、活動別の推定係数を使用 |
| 計算の複雑さ | 中程度(2方法の選択判断) | 高い(15のカテゴリ、多数の推定値) |
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監査実務での重要性
CSRD第1段階企業(2025年から適用)とESRS E1-4の導入で、スコープ2の監査論点としての比重は確実に増えた。電力集約的な産業(食品・飲料、化学、機械製造など)では、スコープ2の削減がサステナビリティ戦略の中心であり、測定精度がそのまま経営判断にひもづく。
エネルギー管理システム(ISO 50001等)との整合性を確認すれば、企業の自社データの信頼性をある程度評価できる。複数国に子会社や施設がある場合、国ごとの電力網排出係数の違いが数字に大きく効くため、単純集計ではなく国別・施設別の精度確認が必要。私が見てきた限り、ここを飛ばすと監基報レビューで必ず戻される。
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関連する用語
- スコープ1排出量: 企業が所有または制御するボイラーや車両などから直接発生する排出。スコープ2と異なり、購入したエネルギーではなく企業自身が燃料を燃焼させて発生させる排出。 - スコープ3排出量: バリューチェーン全体での排出。サプライヤーの生産、製品の使用段階、廃棄など、企業外での活動に由来する排出。 - GHGプロトコル企業会計及び報告基準: スコープ1、2、3の定義と計算方法を統一したグローバル標準。ほとんどのESG開示枠組がこれに準拠。 - 位置ベース法: 施設が所在する地域の電力網全体の平均排出係数を用いた計算方法。企業の再エネ購入決定を反映しない。 - 市場ベース法: 企業が実際に購入したエネルギーの種別に基づく排出係数を用いた計算方法。再エネ証書の効果を反映できる。 - 再エネ証書(GO、REC): 再生可能エネルギー源から発電された電力を証明する文書。企業が購入することで、市場ベース法での排出量を低減できる。
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