目次
1. ESRS G1の規制と保証要求 2. 実務適用例:田中建設株式会社 3. 実務チェックリスト 4. よくある間違い 5. 関連コンテンツ
ESRS G1の規制と保証要求
CSRD第19a条とESRS G1の適用範囲
CSRD第19a条は、2025年1月1日以降開始事業年度から、大規模事業体に対してすべての適用可能なESRS基準に基づく報告を義務付ける。ESRS G1(企業行動)は、ESRS 1の第29項から第30項に基づくマテリアリティ評価を通じて適用される。
企業は以下の3段階で評価を行う:
1. インパクト評価:自社の事業活動が社会・環境に与える負の影響を特定 2. リスクと機会の評価:企業価値に影響を与える財務的リスクと機会を特定 3. 統合評価:両面でマテリアルと判断された項目について開示義務が発生
ESRS G1.SBM-3.60から.65は、企業行動に関する具体的な評価項目を列挙している。腐敗防止、反競争的行為、政治的影響活動、データ保護の4分野で構成される。
段階的適用スケジュールと保証水準
第一波対象企業(従業員500名以上かつ売上高1.5億ユーロ以上または総資産7.5億ユーロ以上)は2025年1月1日開始事業年度から報告が義務化される。第二波企業(大規模事業体、上記基準の3分の2を満たす)は2026年から、第三波企業(上場中小事業体)は2027年から適用される。
保証水準は当初限定的保証からスタートし、欧州委員会が2028年までに合理的保証への移行スケジュールを決定する予定。日本の場合、会計監査人または独立した保証提供者が限定的保証業務を実施する形となる。業務はISAE 3000(改訂版)に準拠。
G1特有の開示要求項目
ESRS G1は14の開示要求項目(Disclosure Requirements)で構成される:
戦略・ビジネスモデル(SBM): - SBM-3:マテリアルなインパクト・リスク・機会と事業行動との関連性
ガバナンス(GOV): - GOV-1:事業行動に関する責任を負う管理機関の役割 - GOV-2:管理機関レベルでの情報提供プロセス - GOV-3:事業行動に関する方針の統合状況
インパクト・リスク・機会の管理(IRO): - IRO-1:事業行動に関するリスクと機会の管理方針・手続 - IRO-2:事業行動に関するリスク管理プロセス
メトリクスと目標(MT): - MT-1:腐敗防止に関するメトリクス - MT-2:反競争的行為に関するメトリクス - MT-3:政治的影響活動と政治的支出に関するメトリクス
各項目について、企業は該当する場合に定量的・定性的情報の両方を提供する必要がある。
実務適用例:田中建設株式会社
企業概要: 田中建設株式会社は、東京都新宿区に本社を置く総合建設業者。売上高120億円、従業員850名。公共工事が売上の60%を占める。2026年1月1日開始事業年度からCSRD第二波企業として報告義務が発生。
ステップ1:マテリアリティ評価の実施
田中建設は以下の手順でESRS G1のマテリアリティ評価を実施した:
まず、ESRS G1.SBM-3の14項目について、自社への該当性を評価。公共工事入札への参加により、腐敗防止と政治的影響活動の両方でインパクト・マテリアリティを認定した。データ保護については、従業員850名分の個人情報処理によりインパクト・マテリアリティを認定している。
文書化ノート:マテリアリティ評価ワークシートに、各項目の該当理由と評価根拠を記載
ステップ2:該当項目の特定と開示内容の決定
マテリアルと判断された3項目(腐敗防止・政治的影響活動・データ保護)について、ESRS G1の開示要求を適用する:
- 腐敗防止(MT-1):2024年度の腐敗防止研修受講率100%(850名全員)、利益相反申告件数3件(すべて軽微、業務に影響なし) - 政治的影響活動(MT-3):一般社団法人日本建設業連合会への年会費240万円、国土交通省の建設業法改正に関するパブリックコメント提出1件 - データ保護:2024年度の個人情報保護違反件数0件、従業員データ処理に関する同意取得率100%
文書化ノート:各メトリクスの計算根拠とデータソースを記載。第三者による検証可能性を確保
ステップ3:統合報告書での開示
田中建設は統合報告書の「サステナビリティ情報」セクションに専用の「企業行動」章を設けた。ESRS G1の開示要求に対応する形で、方針・プロセス・メトリクスを体系的に記載している。
文書化ノート:開示内容とESRS G1要求項目の対応表を作成し、網羅性を確認
政治的影響活動の開示では、業界団体参加も含めることで、狭義のロビー活動だけでなく、業界全体の政策形成への関与も透明化。これによりステークホルダーに対する説明責任が果たされる形となった。ちなみに内部通報制度(公益通報者保護法に基づく運用)の記載もG1.GOV-3の文脈で求められる点を、審査段階で指摘されたチームを何度か見ている。最初の年度では抜けやすいので注意が必要だ。
実務チェックリスト
1. ESRS G1.SBM-3.60から.65の14項目について、自社への該当性を個別に評価する 各項目が自社の事業モデル・戦略・オペレーションのどこに関連するかを文書化
2. マテリアルと判断された項目について、定量的メトリクスを収集・検証する MT-1からMT-3の要求する数値データが取得可能か、信頼性があるかを確認
3. 政治的影響活動の範囲を設定する ロビー活動・業界団体参加・政府諮問への回答・政治献金すべてを含めて評価
4. ガバナンス体制(GOV-1からGOV-3)の文書化を完了する 取締役会・監査委員会の企業行動監督における役割と責任の明確化
5. データ保護メトリクスの計算方法を統一する 個人情報保護違反の定義・件数計算・重大性判定基準を事前に設定
6. 限定的保証業務での検証手続を想定した文書化を行う ESRS G1.MT-1は、腐敗防止に関する最も中心的な開示要求項目となる
よくある間違い
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