仕組み
監査委員会の役割は、監基報260.A1から260.A21までの段階で詳細に規定されている。責任領域は大きく4つに分かれる。
財務報告プロセスの監督。監査計画の段階で、監査人が経営陣から独立して委員会と協議すること。委員会は、会計方針の選択肢、監査範囲の制限、経営陣との意見の相違について理解する立場にある。
内部統制環境の評価。統制上の欠陥が識別された場合に、経営陣ではなく委員会に直接報告するルートがあるかどうか。ここが形骸化しやすい。
監査人の独立性の確認。監基報260.A17では、監査人が委員会に対し、独立性に関するすべての関係事項(とくに非監査業務が独立性に及ぼす影響)について書面で通知する義務がある。品管レビューでは、この通知が形式的に行われ、実質的な協議なく提出されるケースが繰り返し指摘されている。
不正リスク及び違法行為の可能性についての報告。監基報260.A19では、監査人が識別した不正の証拠またはその可能性について委員会に報告する義務を規定している。経営陣がコントロールを迂回できるリスクや、経営陣自身が関与した可能性のある不正も含む。
実務例:田中建設グループ株式会社
日本の建設会社(東京本社)、売上82億円、IFRS報告企業。
段階1:委員会の設置確認
田中建設グループは上場企業であり、取締役会の下に4名構成の監査委員会を設置。委員は社外取締役3名と社内取締役1名。監査人の事前準備段階では、委員会の構成と独立性を確認し、開催頻度(四半期ごと)を把握する。
調書メモ:委員会の構成表、開催スケジュール、独立性に関する誓約書を監査ファイルに保存すること。
段階2:監査計画の提示
監査計画書を完成させた後、監査人は経営陣の同意を得ずに委員会に対し、提案した監査範囲、重要性基準値、主要な監査上の課題、非監査業務(がある場合)について説明する。田中建設グループの場合、建設プロジェクトの収益認識が主要なKAMとして特定された。経営陣への説明とは独立して論じる。
調書メモ:委員会との協議議事録、とくに提示された重要性レベル(売上の1% = 8,200万円)と、その妥当性についての委員会からのコメントを記録すること。
段階3:独立性に関する書面通知
監査人の独立性チェックリストを完成させた後、品管パートナーは独立性確認書を委員会に提出する。監査人が実施予定の非監査業務(コンソリデーション業務の支援)が、監査の独立性(とくに外形上の独立性)にどう影響する可能性があるかを記載。
調書メモ:提出した独立性確認書(日付、署名)、委員会からの応答(承認または質問)を監査ファイルに保存すること。
段階4:不正リスク評価の報告
監査人は監査計画の段階で、経営陣によるコントロール迂回のリスク、経営陣が関与した可能性のある不正領域を特定する。田中建設グループの場合、売上計上のタイミング(プロジェクト完了判定)に関するリスクが識別された。このリスク評価は、委員会に対して独立して報告される。
調書メモ:不正リスク評価フォーム、特定されたリスク領域、委員会との協議日時・内容を記録すること。
段階5:監査完了段階での報告
監査の終了時点で、監査人は委員会と監査上の課題について再度協議する。修正された虚偽表示額(未修正の虚偽表示額がある場合)、内部統制上の欠陥のランク付け、経営陣との意見の相違が対象。不正またはその可能性についても報告する。
調書メモ:監査完了段階での協議議事録、提示した虚偽表示額のサマリー、内部統制上の欠陥のランク付けリストを保存すること。
委員会との一連のコミュニケーションにより、監査人が経営陣の影響を受けずに監査判断を文書化し説明する場が確保される。田中建設グループの事例では、売上認識のリスク領域について、委員会が監査人の判断を独立して評価でき、経営陣からの圧力がないことを確認できた。
実務者と検査者が誤解しやすい点
経営陣との協議が先だという思い込み。監基報260.A2は、委員会との協議を経営陣との協議と並行して、または先立って行うことを許容している。多くの法人では監査計画を経営陣に先に説明し、その後に委員会に同じ内容を説明する慣行があるが、監基報はこれに限定していない。委員会との協議は、職業的判断を独立して示す機会である。
経営陣が承認した虚偽表示額だけを報告すればよいという誤解。監基報260.A15では、監査人が識別した虚偽表示額(修正・未修正ともに)を委員会に報告する義務が明記されている。経営陣が修正を拒否した虚偽表示額も報告対象となる。経営陣が「開示しない」と決定した項目であっても、その決定の根拠と監査人の見方の相違について報告しなければならない。
不正リスクの報告は不正発見時のみという誤解。監基報260.A19では、「不正の証拠またはその可能性」と記載されている。監査過程で識別した不正リスク領域(経営陣のコントロール迂回の兆候など)も報告対象。本音を言うと、不正リスクの報告を「何も見つかりませんでした」で済ませている調書は、CPAAOBの審査で一番目立つ。経験上、形式的な報告書が綴じてあるだけの監査ファイルほど検査官の手が止まるものはない。