仕組み

ISA 3000.13は保証業務の定義を示している。その対象は、被保証者(通常は経営者)が行った主張に対する証拠を集め、基準に照らして評価し、その結論を第三者に報告することである。
保証業務は2つの形態がある。直接報告型では、監査人が自ら情報を検証して直接結論を報告する。例えば、企業のカーボンニュートラル達成宣言について、実際の排出量データを監査人が検証し、その達成の真否を報告する。主張に対する報告型では、被保証者が先に主張を述べ、監査人がその主張の妥当性を評価する。ISO 26000の社会的責任報告について、企業が「本社の給与格差は業界平均を下回っている」と主張し、監査人がその主張の根拠を検証する場合がこれに該当する。
保証の程度はISA 3000.A10で区別される。合理的保証では、監査人は高度な確信を与えるために十分な証拠を収集する。過去の財務諸表監査と同じ水準である。限定的保証では、監査人の手続は合理的保証よりも限定的である。結果として「重大な誤謬に気づかなかった可能性がある」という留保条件付きの報告となる。ISAE 3402(サービス提供者による内部統制の報告)は合理的保証型が標準である一方、ISAE 3410(温室効果ガス排出量)は限定的保証で実施されることが多い。
保証報告書には、経営者の責任と監査人の責任を明記することが不可欠である。経営者は主張の作成と情報の正確性について責任を負う。監査人はその主張を評価し、監査意見を形成する責任を負う。

事例: タナベコーティング株式会社(限定的保証型CSRD対応報告)

クライアント: 日本の中堅塗料メーカー、タナベコーティング株式会社。2024年度売上18億2,000万円。EU子会社への資本金投下により、CSRD報告対象企業となった。
ステップ1: 主張の特定
経営者は、サステナビリティ報告書において「スコープ1排出量(直接排出)は前年度比12%削減した」と主張した。その数字は年間排出量から1,847トンCO2換算である。
文書化ノート: 経営者作成のサステナビリティ報告書原稿。経営者確認メモ。
ステップ2: 限定的保証の程度を決定
エンゲージメント契約で「限定的保証」を選択した。理由は、排出量の測定方法が業界内で標準化されていないこと、および国内のスコープ1排出量開示慣行がISO 14064-1準拠でありながら地域ごとの解釈差が存在することである。限定的保証では、監査人は「主張に重大な誤謬が存在しないこと」を確認すれば足りるが、「完全性」を保証する必要はない。
文書化ノート: 限定的保証型エンゲージメント計画書。適用基準(ISAE 3410)。保証程度の選択根拠。
ステップ3: 証拠収集
排出量の根拠となる①エネルギー消費記録(都市ガス、電力、灯油購入書)、②車両・機械の稼働ログ、③外部委託先(廃棄物処理業者)の排出係数を検証した。合理的保証では、同じデータソースの代替的な確認手段を複数用いるが、限定的保証では主要な項目1つあたり1つの確認手段で足りる。
文書化ノート: 購入書照合テスト(エネルギー記録50件抽出、照合100%)。外部委託先の排出係数に対する確認メール。
ステップ4: 結論と報告
排出量の計算方法は妥当である。ただし、新規購入したボイラーの稼働開始日の解釈について、経営者の主張(1月1日稼働)と実務ログ(1月15日稼働)に14日のずれがあった。このずれは年間排出量(1,847トン)の1.8%相当(33トンCO2)であり、限定的保証では重大な誤謬ではないと判定した。
結論: 経営者の主張「スコープ1排出量は前年度比12%削減」は、限定的保証のもとで妥当である。ただし報告書に「測定方法は業界標準化が進行中であり、将来的に数値が修正される可能性がある」という注記を加えるよう提案した。

監査人・査閲人が誤りやすい点

Tier 1: 国内実務での限定的保証の混同
日本国内のCSRD報告準備段階で、「限定的保証」の程度を誤解する事務所が増えている。限定的保証は「簡略版」ではなく、「手続の範囲が狭い合理的な監査」である。つまり、収集する証拠は限定的だが、その証拠の質は下がらない。ISA 3000.A10が求める「重大な誤謬を検出する合理的な可能性」の閾値は、限定的保証でも維持される。経営者が「概算値でいいから限定的保証を選びたい」と言う場合、その要求は限定的保証の本来の目的と異なることを明確にする必要がある。
Tier 2: 保証報告書における責任の曖昧化
実務では、経営者の責任と監査人の責任を区別する記述が不十分なことがある。特にサステナビリティ報告書の保証では、「報告書の作成は経営者の責任」と「確信度の評価は監査人の責任」が書き分けられていない文書が見られる。ISA 3000.32は、保証報告書に両者の責任を「明確に」記述するよう求めている。「監査人は報告書の作成に関与していない」ということを明示することが必須である。
Tier 3: エンゲージメント範囲の過度な拡張
被保証者が当初の契約外の情報についても「保証対象に含めてほしい」と途中から要望することがある。限定的保証型エンゲージメントでは、追加の手続に対応する時間が限定的である。ただ対応するのではなく、追加の非財務情報を保証対象に追加することは新たなエンゲージメント契約書の作成と追加費用をトリガーすることをクライアント側に伝える必要がある。

合理的保証型 vs 限定的保証型

| 視点 | 合理的保証 | 限定的保証 |
|------|----------|----------|
| 証拠収集範囲 | 広範。複数の情報源から代替的確認を実施 | より限定的。主要項目について主たる確認手段を1つ |
| 監査人の結論形式 | 「〇〇は主張と一致している」と肯定的に述べる | 「重大な誤謬に気づかなかった」という留保条件で述べる |
| 利用者への確信度 | 高度。経営者の情報について高い信頼性 | 中程度。重大な誤謬の存在可能性を利用者が認識 |
| 実施期間 | 通常は3〜6ヶ月。詳細な検証に時間を要する | 通常は2〜4ヶ月。限定手続に対応 |
| 適用基準 | ISA 3000(一般的な保証)、ISAE 3402(内部統制)が標準 | ISAE 3410(GHG排出量)、サステナビリティ情報の初期段階 |

エンゲージメント種別の選択が実務で重要になる場面

保証の程度の選択は、対象情報の成熟度とクライアントのリスク判断に左右される。CSRD開示企業で初年度報告書の場合、測定体系がまだ十分に整備されていないことが多い。このとき、合理的保証を約束すると、監査人が「基盤となるシステムの不完全さ」を理由に意見を留保する可能性が高まる。限定的保証であれば「現時点で把握可能な重大な誤謬がない」という限定的な確信を表明でき、クライアントと監査人の双方にとって現実的である。一方、CSRD報告3年目のクライアントで、データ収集システムが成熟している場合、利用者(規制当局、投資家)は合理的保証を期待する。その場合、限定的保証型では十分でない。

関連する用語

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  • ISA 3000: 保証業務全般の要件を定めた国際基準
  • ISAE 3402: サービス提供者による内部統制の保証報告書
  • ISAE 3410: 温室効果ガス排出量情報の保証
  • 限定的保証: 保証の程度が限定的な場合の報告方法
  • 経営者の責任: エンゲージメント開始時に合意する経営者側の役割
  • 被保証者: 保証報告書の対象となる情報の提供者

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