この記事の範囲

> - 各EU加盟国のCSRD国内法化の完了状況と期限超過国 > - 国別の所管当局と保証要件の相違点 > - 2025年報告開始企業への実務上の対応策 > - 監査報告書におけるCSRD保証業務の記載方法

第一段階の施行:2025年開始の対象企業

CSRD第19条aは段階的施行を定めている。第一段階(2025年1月1日以降開始事業年度)の対象は、規模基準のうち2つを満たす大企業。基準は4つ設定されており、総資産2,500万ユーロ超、売上高5,000万ユーロ超、従業員数250名超、そして公共利益企業であること。前3つのうち2つ該当すれば対象となる。

対象企業は2026年提出の2025年次報告書から、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に基づく報告が必須。法定監査人または独立保証提供者による限定的保証も同時に取得しなければならない。

第二段階(2026年1月1日以降開始)で未適用の大企業と上場中小企業に拡大。第三段階(2027年1月1日以降開始)で第三国子会社も対象に入る。

国内法化完了状況(2024年12月時点)

完了済み(20カ国)

法制化が完了し施行準備が整った国の状況。

フランスではAMF(金融市場監督庁)が所管し、2024年5月に国内法化を完了した。ANCがESRSのフランス語翻訳版を公表しており、保証業務は法定監査人が担当する。

ドイツはBaFin(連邦金融監督庁)が所管。2024年7月に完了し、DRSC(ドイツ会計基準委員会)がガイダンス文書を発行した。法定監査人と独立保証提供者のどちらでも保証業務を受託できる。

オランダはAFM(金融市場監督機構)の所管で2024年4月に完了。RJ(オランダ会計基準審議会)がRJ 400「サステナビリティ情報」を発行している。法定監査人が優先的に保証を担う。

イタリアはConsob(全国証券取引委員会)の所管。2024年9月完了で、CNDCEC(イタリア会計職業団体会議)がガイダンスを出した。保証業務は法定監査人が担当。

スペインはCNMV(国家証券市場委員会)所管。2024年6月に完了し、ICAC(スペイン会計・監査研究所)がガイダンス文書を発行。法定監査人が保証を担当する。

ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリア、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、アイルランド、マルタ、キプロス、エストニア、ラトビア、リトアニア、スロベニア、クロアチアでも国内法化は完了済み。

未完了(7カ国)

2024年7月6日の期限を超過したまま法制化作業が進行中の国。

ポーランドは財務省が2024年第4四半期の完了を予定していた。遅れの原因は既存の非財務情報報告法との整合性調整にある。

チェコは法務省が2025年第1四半期の完了を見込んでいる。

スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、ギリシャもいずれも2025年第1四半期までの完了を目指す。

期限超過国に対してはEU委員会が侵害手続きを開始する可能性がある。ただし国内法化の遅れは企業の義務を免除しない。これらの国の大企業にも2025年1月1日からCSRDは適用される。

国別の所管当局と保証要件の違い

CSRDは最低限の調和を図る指令であり、加盟国が詳細を独自に定める余地がある。正直なところ、保証業務の実施主体に関する扱いが国ごとに違いすぎて、EU横断のクライアントを持つ事務所には頭の痛い問題になっている。

法定監査人が優先される国

フランス、オランダ、イタリア、スペインの4カ国は、法定監査人によるサステナビリティ保証を原則とする。独立保証提供者の参入には制限がある。既存の監査関係を通じた財務・非財務情報の一体的な保証を狙った設計。

選択制を採る国

ドイツ、ベルギー、アイルランドでは法定監査人でも独立保証提供者でも受託可能。市場競争と専門性の確保を両立させる方針。

段階的移行を予定する国

オーストリアとデンマークは当初は法定監査人が担当し、数年後に独立保証提供者への開放を予定している。

2025年開始企業への実務対応

対象クライアントの特定

既存クライアントの中からCSRD第一段階の対象企業を洗い出す作業が最初の一歩になる。規模基準(総資産2,500万ユーロ超、売上高5,000万ユーロ超、従業員250名超のうち2つ該当)を満たすEU域内企業が対象。見落としやすいのは、連結ベースでは基準を満たすが個別では満たさないケース。

二重重要性評価の支援

ESRS 1第41項から第48項が二重重要性評価を求めている。財務的重要性(投資家への影響)と影響重要性(環境・社会への実際の影響)の両面から検討する。

クライアントの多くは従来の財務的重要性評価には慣れているが、影響重要性の評価経験はほぼない。製造業のクライアントだと、バリューチェーン上流・下流の環境影響まで見る必要があり、調書に落とし込む段階で手が止まることが多い。

保証業務の準備

ISAE 3000(改訂版)に基づく限定的保証業務として実施する。ただしサステナビリティ情報には財務諸表監査にない固有の課題がある。データ収集システムの信頼性をどう評価するか、推定・仮定の合理性をどこまで検証するか、第三者データ(排出係数等)の裏付けをどう取るか、そしてスコープ3のように企業自身がコントロールできないデータをどう扱うか。繁忙期の業務量に加えてこの作業が乗ってくるため、チーム編成は早めに固める方がいい。

実務例:オランダ製造業での適用

ファン・デル・ベルフ工業B.V.(従業員380名、年間売上7,200万ユーロ、総資産4,100万ユーロ)を例にとる。

規模基準の確認から始める。 調書記載:3つの基準すべてを満たしているため、2025年開始事業年度から適用対象

次に適用ESRSを特定する。 調書記載:ESRS E1(気候変動)、ESRS E3(水資源)、ESRS S1(自社従業員)、ESRS G1(企業統治)が重要性評価で特定された

保証範囲を決定する。 調書記載:ESRS開示事項のうち定量指標を重点的に検証。定性的記述は限定的レビュー

監査報告書への記載を整える。 調書記載:サステナビリティ情報に対する限定的保証意見を監査報告書に追記

2025年度は初年度であるため、データ収集プロセスの整備に時間を割くことになる。2026年度以降は前年比較や改善状況の検証が加わる。

実務チェックリスト

1. 既存クライアントのCSRD適用可能性を規模基準で判定する 2. クライアント所在国の国内法化状況と所管当局の指針を確認する 3. サステナビリティ保証業務を監査契約に追加するか分離するかを決める 4. ESG関連の知識を持つ要員の配置またはトレーニング計画を立てる 5. ISQM 1に基づく品質管理の仕組みにサステナビリティ保証業務を組み込む 6. サステナビリティ保証用の調書テンプレートを準備する

よくある実務上の誤解

保証水準の混同がまず多い。財務諸表監査は合理的保証だが、CSRD保証は限定的保証。手続の深度がまるで違う(出典:IAASB実施ガイダンス)。次に適用範囲の過大解釈。ESRSの全基準を適用する必要はなく、重要性評価に基づいて選択的に適用する(出典:EFRAG Q&A)。独立性の扱いも見落とされやすい。サステナビリティ保証であっても監査人の独立性規制はそのまま適用される(出典:IESBA倫理規程)。品管のレビューでこの点を指摘されるケースが出始めている。

関連情報

- CSRD二重重要性評価ガイド - ESRSの重要性評価手法の解説 - ISAE 3000保証業務テンプレート - サステナビリティ保証用の調書テンプレート - EU分類規則との関係性 - CSRD報告における分類規則適用の実務上の論点

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