キーポイント

スコープ1は企業が直接的に管理する燃料燃焼と発生源からのみ計算される。
自社の事業用車両や製造施設からの直接排出だけが含まれる。スコープ2(購入電力)やスコープ3(サプライチェーン)ではない。
スコープ1を過小計上するのは、実は珍しくない。業務用車の一部が経費化され排出インベントリから漏れることがある。
CSR報告書がスコープ1を計上しなければ、監査人は範囲外という判断が防御可能か、明示的に検証する必要がある。

仕組み

スコープ1排出量の算出は、支配下にある各排出源で発生した温室効果ガスの量を直接測定または計算することから始まります。自社工場での天然ガス燃焼、自社所有トラックのディーゼル消費、冷媒リークの直接測定が該当します。これらは生産プロセスを通じて企業が物理的に管理する排出源です。
各排出源からの排出量を把握した後、GHGプロトコル・コーポレート・スタンダード第4章に定められた排出係数を適用して、温室効果ガスの量をCO2相当量(tCO2e)に換算します。排出係数は燃料の種類(ガソリン、重油、天然ガス等)、地域、使用年によって異なるため、適切な係数選択が重要です。
支配下とは、法的支配または実質的支配を意味します。子会社は支配下。共有施設は支配の程度に応じて按分計上します。リース資産は支配下にないため、スコープ2(購入電力など)またはスコープ3(その他のリース運用業)に分類されます。この区別が誤りやすく、監査人は支配関係図の整備状況を確認する局面が多いです。

実例:イタリア金属加工会社

企業:フェッロミラノ・インダストリエ S.r.l.、イタリア・ロンバルディア州、FY2024、従業員45人、売上1,250万ユーロ
第1段階:排出源の特定と測定
フェッロミラノは自社所有の製造施設と配送車両を保有しています。施設には産業用ボイラー(天然ガス燃焼)があり、年間消費量は約820MWh。配送はディーゼル車2台で月間延べ8,000km。冷媒設備(R-404A)は定期的に点検・補充しており、年間リーク量は約12kg。3つの排出源(ボイラー、車両、冷媒)に関する消費記録と保全記録を集約ファイルに整理。
第2段階:排出係数の適用
天然ガス820MWh → イタリア全国グリッド係数0.201tCO2e/MWh(ISPRA 2024)→ 164.82tCO2e
排出係数は各年度の最新値を適用。係数出典を監査調書に記載。
ディーゼル:16,000ℓ(8,000km ÷ 0.5ℓ/km平均) × 2.68kg CO2e/ℓ → 42.88tCO2e
車両の燃料消費率を定期整備記録から検証。異常値がないか確認。
冷媒R-404A:12kg × 3.72tCO2e/kg(GWP) → 44.64tCO2e
リーク量は保全記録から抽出。定量的根拠を別紙に。
第3段階:集計と記録
スコープ1合計:164.82 + 42.88 + 44.64 = 252.34tCO2e
各排出源の合計表に支配関係(100%支配)を注記。
結論:フェッロミラノのスコープ1排出量は252.34tCO2eで、前年比3.2%増加。増加の主因はボイラー使用量の増加(生産ラインの稼働時間延長)で、原因は明確です。単なる「増加した」ではなく、因果関係が実務的に防御可能な水準で文書化されています。

監査人と経営者が誤解しやすい点

  • 第1階層:国際的な検査事例 - GRI Standards Board(国際的なサステナビリティ報告基準の標準化機関)による2024年の公開レビューでは、回答企業のうち約35%がスコープ1とスコープ2の境界を明確に文書化していないと指摘されました。特に、リース運用資産をスコープ1に誤分類する事例が多数確認されています。
  • 第2階層:GHGプロトコルの実装誤り - GHGプロトコル・コーポレート・スタンダード第4章4.1では、「支配下にある排出源」を明確に定義していますが、実務では「施設の敷地内に所在する」だけで自動的にスコープ1に分類する傾向があります。他社のテナント施設内の設備は、支配がない場合はスコープ1ではありません。支配関係の文書をプロジェクト契約や不動産借用契約から抽出し、排出分類の根拠を示す必要があります。
  • 第3階層:実務上の計上漏れ - 業務用車両の一部が経費化され、排出インベントリから漏れることが実務的には多い。特に、小型商用車や従業員の私有車への燃料補助の場合、支配下の車両リストに含まれていないことがあります。スコープ1の計上ルール(どの車両を含めるか)を経理部門と環境部門で事前合意し、除外車両リストを保有することで防止可能です。
  • 第4階層:冷媒リークの定量化不足 - 冷媒(HFC、R-404Aなど)のGWP(地球温暖化係数)は極めて高く、少量のリークでもスコープ1排出量に大きく影響する。空調設備や冷蔵庫の冷媒補充記録をエネルギー管理部門が保有していない場合、排出インベントリから漏れやすい。保全記録と購入記録を照合し、冷媒の減少分を排出として計上する体制を確認する。

スコープ2排出量との比較

スコープ2排出量とは、企業が外部から購入した電力、スチーム、暖房、冷却の使用に伴う間接排出です。自社施設で消費された購入電力の発電時に生じた排出を計上します。スコープ1と異なり、企業自身が燃焼させるのではなく、外部供給者の発電過程で発生した排出です。
フェッロミラノの例で、製造施設が購入電力300MWh/年を消費しているとします。イタリアグリッド係数は0.233tCO2e/MWhなので、スコープ2 = 69.9tCO2e。これはスコープ1の252.34tCO2eとは別個に計上されます。スコープ1は燃料燃焼そのもの、スコープ2は購入エネルギーの起源地排出。両者を合算することで、Scope 1+2という企業の直接的な排出足跡が把握できます。
監査上の相違点:スコープ1は自社の消費記録を確認すれば十分です。スコープ2は電力供給者の排出係数(グリッド係数または契約先の係数)に依存するため、供給者からの係数取得の信頼性が検証ポイントになります。

関連用語

  • スコープ2排出量 - 購入電力・スチーム由来の間接排出。スコープ1と並んで企業の直接的な温室効果ガス足跡を構成。
  • スコープ3排出量 - サプライチェーン上流(原材料調達)と下流(製品使用、廃棄)の間接排出。スコープ1、2より測定の困難さが高い。
  • 温室効果ガスインベントリ - 企業が保有する全排出源の目録。スコープ1~3を網羅し、排出係数、支配関係、除外理由を文書化。
  • 支配関係の特定 - 法的支配(子会社)と実質的支配(共有施設の按分)の区別。排出分類の基礎。
  • 排出係数 - 燃料の種類ごとに定めたCO2相当量の換算値。GHGプロトコル、IPCC、各国統計機関が公表。

ツール

ciferi.com温室効果ガス排出量計算ツール(スコープ1、スコープ2対応)を使用して、支配下の施設と車両からの排出を自動集計できます。排出係数の選択肢を年度ごとに更新しており、GHGプロトコル準拠の計上が確認可能です。

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