Definition
監基報700. A1から監基報701の規定により、監査報告書は標準的な構成要素と追加的な記載を含む。監査人の意見は、財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されているか否かについて、監査証拠に基づいて表明される。 監基報701.
重要なポイント
- 監査報告書の構成と記載内容は監基報700および701で規定されている
- 適正意見、限定付き適正意見、不適正意見、意見表明不可のいずれかの意見区分を明示する
- 監査人が重要な事項に気付いた場合、監査報告書に「監査上の主要な事項」として記載することが求められる
- 企業統治に責任を有する者とのコミュニケーション内容は、監基報260.16に基づき監査報告書における監査上の主要な事項の選定と記載方法に直接影響する
監査報告書の仕組み
監基報700.A1から監基報701の規定により、監査報告書は標準的な構成要素と追加的な記載を含む。監査人の意見は、財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されているか否かについて、監査証拠に基づいて表明される。
監基報701.13により、監査人は監査上の主要な事項をすべて特定し、それらについて監査報告書に記載する。監査上の主要な事項とは、監査の実施過程において監査人が気付いた事項のうち、被監査会社の財務諸表またはその附注に関連して重要であると判断される事項である。
監基報701.A6から監基報701.A10により、監査上の主要な事項の記載方法が定められている。各事項について、事項の概要、なぜそれが重要であったか、監査人がどのように対応したかを説明する。この記載により、利用者は監査手続がどの領域に集中したかを理解できる。
実務例:キャッテン・デッシュ株式会社
被監査会社:日本の製造業、FY2024、売上高18億5,000万円、連結対象子会社3社、IFRS適用
Step 1:監査上の主要な事項の候補を特定する
監査計画段階で、キャッテン・デッシュの売上高に占める販売費および一般管理費の割合が業界平均を上回っていることが判明した。当年度、新規市場への営業費が急増したため、減損テストの対象となるセグメント利益が大きく減少した見通しであった。
文書化注記:監査計画ファイルに「セグメント別の利益率変動が主要な事項候補として特定された」と記載した。根拠資料として業界統計と過年度比較表を附属させた。
Step 2:被監査会社の対応を確認する
被監査会社の経理部門に対し、セグメント別の利益率低下の理由を説明する書類の提出を求めた。経営者は、新規市場開拓に伴う初期投資費用の増加が一時的なものであり、来年度以降の売上増加により吸収される見通しを示す資料を提出した。
文書化注記:経営者からの説明資料および次年度予算を入手し、監査調書に「セグメント利益低下の一時的性質を確認した」と記載した。
Step 3:監査手続を追加実施する
セグメント別の利益率の変動が一時的なものであるか、構造的なものであるかを判断するため、下記の手続を追加実施した。
文書化注記:追加手続の結果、セグメント利益の低下は一時的であり、経営者の見通しは監査証拠に支持されることを確認した。監査調書に「セグメント別利益率の変動についての追加手続完了」と記載した。
Step 4:監査報告書への記載内容を決定する
監基報701.A7に基づき、以下の内容を監査報告書の「監査上の主要な事項」セクションに記載することを決定した。
結論:監査上の主要な事項として記載することにより、財務諸表の利用者に対して、被監査会社の利益構造の変化が一時的なものであり、監査人がその妥当性を検証したことが明らかになった。
- 当年度の営業費領収書サンプルを選別し、内容が実際に新規市場開拓費であることを確認した(営業費の15%をテスト)
- 次年度上半期の受注データを確認し、被監査会社の予測の合理性を検証した
- 減損テストの仮定(割引率7.5%、長期成長率1.5%)が過去の実績と乖離していないかを確認した
- 事項の概要:セグメント別利益率の低下(前年度比32%減少)
- 重要性の理由:被監査会社の利益構造に変化が生じたため、減損テストおよび連結調整の評価において監査人の着眼点が集中した
- 監査人の対応:営業費の内容確認、次年度予測の合理性検証、減損テスト仮定の妥当性確認
監査報告書で実務家が誤るポイント
Tier 1(規制当局の指摘): 日本公認会計士協会のモニタリングレポートでは、監査上の主要な事項の記載が不十分な事例が報告されている。具体的には、「新規事業投資による利益率低下」という事項を特定しながら、監査人がどのような手続を追加実施したかについて、監査報告書に十分な説明がないケースが指摘されている。
Tier 2(基準参照の実践的誤り): 監基報701.13では、監査上の主要な事項について「なぜ重要であったか」の説明が求められているにもかかわらず、単に「重要な領域である」と述べるのみで、その事項が財務諸表全体の中でどのような位置付けにあるか説明しない実務が多い。監査人の着眼点が複数の領域に分散している場合、焦点が曖昧になりやすい。
Tier 3(実務的な記載不足): 監査報告書の監査上の主要な事項セクションにおいて、単一の大型取引や新規会計方針の適用を記載する場合、監査人が実施した具体的な手続のステップが省略されることが多い。監基報701.A8では、監査人が講じた対応策について十分な情報提供が必要とされているため、手続の具体性を欠く記載は基準を満たさない。
監査上の主要な事項 vs. 重要な虚偽表示リスク
監査上の主要な事項と重要な虚偽表示リスクは、概念的に関連しているが、監査報告書への記載ルールが異なる。
監査上の主要な事項(監基報701):監査の実施過程において監査人が気付いた事項であり、利用者にとって有用と判断されるすべての事項が対象。金額の多寡よりも、監査人の着眼点が集中した領域を示す。監査報告書に記載が必須。
重要な虚偽表示リスク(監基報315):計画段階で監査人が識別するリスク。被監査会社の特性、業界環境、内部統制の効果性に基づいて、虚偽表示が発生する可能性が高い領域。監査計画書に記載するが、監査報告書には原則として記載されない。ただし、監査上の主要な事項となった場合は、両者が重複することがある。
実務では、重要な虚偽表示リスクとして特定した領域に対して、実際に監査人が追加手続を実施した場合、その事項は監査上の主要な事項として監査報告書に記載すべき候補となる。監基報701.13により、計画段階で特定したリスクがすべて監査上の主要な事項に該当するわけではなく、実際の監査手続の過程で、その事項が利用者にとって重要か否かを判断する。
関連用語
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監査報告書に記載される監査上の主要な事項の準備から最終確認まで、ステップバイステップの手順は、ISA 701 監査報告書チェックリスト で確認できる。監査上の主要な事項の候補を特定し、監査人の対応を文書化する際の実践的なポイントを網羅している。
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