重要なポイント

- その他の情報は監査対象外。ただし読むことは監査の要件である。 - 矛盾や誤った表示を発見した場合、経営者と協議し、対応を文書化する。 - 経営者が修正を拒否したとき、監査人の対応方法は矛盾の性質によって変わる。

仕組み

監基報720は監査意見の形成後に実施される手続を定めている。監査人は、年次報告書、経営者報告書、持続可能性報告書、その他の公開文書を読む。目的は、その他の情報が監査済み財務諸表と矛盾していないことの確認。矛盾とは、その他の情報の数値や説明が、監査で立証された事実と相反する状態を指す。

矛盾が見つかった場合、ISA 720.13は監査人に対応の選択肢を与えている。第一に、経営者に矛盾を伝え、修正の意向を確認する。第二に、修正されない場合は監査人の報告書にその旨を記載する。第三に、外部機関(規制当局など)への報告が適切かを判断する。

ここで誤解されやすいのは、その他の情報の誤った表示が監査意見そのものを変えるわけではないという点。監査対象は財務諸表であり、その他の情報ではない。ただし矛盾の存在自体は、監査人の報告書と経営者の表示の双方に痕跡として残る。

実例:田中産業株式会社

クライアント:日本の製造業、2024年度決算、売上32億円、IFRS適用企業

第1段階:その他の情報の識別 監査人は田中産業の年次報告書を確認する。監査済み財務諸表には売上32億円と記載されている。経営者報告書では「売上は前年度比8%増加した」と述べられている。前年度の売上が29.6億円であれば、8%増加で約32億円。矛盾なし。 文書化ノート:「その他の情報との比較: 矛盾なし」を監基報720の調書に記載

第2段階:矛盾の発見 ところが、同じ年次報告書の「製品ラインの説明」セクションでは、「A製品の売上は前年度比25%減少した」と記載されている。監査人の詳細テストでは、A製品の売上は実際には12%減少していた。この説明は監査証拠と矛盾する。 文書化ノート:「経営者報告書のA製品減少率に誤りを特定」

第3段階:経営者との協議 監査人は経営者に矛盾を指摘する。経営者は、その他の情報の数値はドラフト段階のものであったとして修正に同意。修正後のその他の情報は監査済み財務諸表と一致した。 文書化ノート:「経営者は修正に同意し、年次報告書は訂正版を公表することを確認」

結論:矛盾は早期に解決でき、監査人の報告書への記載は不要となった。協議と確認のプロセスは調書に残す。

監査人と規制当局が見落としやすいポイント

- ISA 720.12は「誤った表示」(misstatement)を定義しているが、その他の情報の誤った表示の重要性は、監査済み財務諸表の重要性と別に判断される場面が多い。現場では、その他の情報が経営者報告書に含まれる場合、財務諸表の重要性よりも低く扱われがち。CPAAOBの指摘によれば、経営者報告書は利用者の意思決定に影響を与えるため、重要性を軽く見積もるべきではない。

- ISA 720.13の「矛盾に対する監査人の対応」が文書化されていないケースが目立つ。矛盾を発見し経営者が修正した場合でも、協議のプロセスと確認事項を記録する義務はある。修正されたから記録不要、という運用は監査証拠の不足につながる。正直、これが審査で一番突かれやすい論点だ。

- その他の情報が監査対象外であることを理由に、読み込み自体を省略する監査人がいる。しかし監基報720.4は読むことを明示的に要求している。オフショアチームが最終的な読みを省略するなど、品管不足が指摘された事例もある。

その他の情報と監査済み財務諸表の区別

その他の情報とは、年次報告書または同様の定期刊行物に含まれるが、監査済み財務諸表そのものではない情報を指す。監基報720.3は経営者報告書、ガバナンス報告書、持続可能性報告書を例として挙げる。

監査済み財務諸表には、監査人の報告書が付属する。その他の情報には、監査人の報告書がない。ただし、その他の情報が財務諸表と同じ文書に含まれる場合、監査人は読むという責任を負う。

相違点は監査意見の対象。監査意見は財務諸表の公正な表示に関するものであり、その他の情報の正確性には及ばない。矛盾があれば、監査人の報告書において言及される。

関連する用語

- 監査済み財務諸表: 監査人による監査意見が付属する財務諸表であり、監基報700で報告される。 - 経営者報告書: 経営者が企業の業績と戦略を説明する文書であり、その他の情報に該当する。 - ガバナンス報告書: 企業統治とコンプライアンスに関する報告書であり、その他の情報に該当する。 - 監査意見: 監査人が財務諸表の公正性について述べる見解であり、監基報700.35に定義されている。 - 矛盾: 監査済み財務諸表と異なる情報または説明であり、監基報720.12で定義されている。 - 監基報700: 財務諸表の監査に関する監査人の報告書を規定する基準。

関連ツール

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