仕組み
公正価値測定はIFRS 13.24~28で3段階のアプローチを定めている。第1段階はアクティブな市場での公表価格(レベル1入力値)の使用。第2段階は類似資産の市場データや類似企業の取引情報から導出される入力値(レベル2入力値)。第3段階はキャッシュフロー割引法や類似企業法など企業独自の仮定に基づく入力値(レベル3入力値)。
各段階ではより客観的な市場データに優先順位を置く。実務上、多くの企業はレベル2またはレベル3の入力値を使用して公正価値を測定している。たとえば非上場企業の株式、複雑なデリバティブ、特定の不動産資産。監査人はこれらの測定に対し、①使用した入力値が適切か、②評価モデルの数学的な正確性、③基礎となる仮定の合理性の3点を検証する必要がある。
実務例:田中建設工業株式会社
対象:東京都の非上場建設企業、2024年度決算、売上高85百万円、IFRS報告者
ステップ1. 有形固定資産の土地を再評価
文書化ノート:「アクティブな市場の欠如」について、同じ地域での過去3年間の取引事例を調査し、市場が活発でないことを記録した
ステップ2. 評価モデルを検証
文書化ノート:「比較可能取引の選定」について、同一市町村内での最近3年間の公示地価及び取引事例をスプレッドシートでリスト化し、調整要因を明記した
ステップ3. 数値的検証
文書化ノート:「再評価の計算」について、当初取得価額からの段階的な上昇を表にして、段階ごとの根拠(建設市場の変化、周辺開発等)を記載した
結論: 企業が使用したレベル3入力値は同地域の市場データに基づいており、調整仮定も合理的。監査人の検証により、公正価値測定は防御可能と判断した。
- 所有している物件は東京郊外の5,000平方メートルの工業用地
- アクティブな市場がないため、レベル3入力値を使用
- 企業が使用した比較可能な土地取引事例:隣接地域で過去6か月以内に1,200万円/平方メートルで売却された物件
- 立地、面積、接道状況の差異を調整し、企業の設定した1,050万円/平方メートルの価格を得た
- 土地面積5,000平方メートル × 1,050万円 = 525億円
- 企業の帳簿価額140億円から再評価益385億円を認識
監査人が見落としやすい点
- IFRS 13.93の開示要件を過小に理解する - 多くの監査人は公正価値の金額そのものの検証に力を入れるが、IFRS 13.93(a)~(e)で要求される定量的・定性的開示(測定方法の変更、感度分析、レベル3入力値の詳細説明等)の完全性を検証していない。特にレベル3入力値の変動範囲の開示や、そのレンジ内に認識額が妥当に位置しているかの検証が不足しやすい
- 評価専門家の適切性を確認しない - 企業が外部評価専門家を雇用した場合、IFRS 13の要件ではなく業界慣行に基づいた測定を行っている場合がある。また、評価専門家の仮定(割引率、成長率、比較可能企業の選定基準)が企業独自の判断として介入されていないか、監査人が十分に検証していないケースが多い
- 後発事象とレベル3入力値の矛盾を見落とす - 決算後に関連資産が売却された場合、売却価格がレベル3測定値と大幅に乖離していることがある。この乖離の原因を分析し、測定日時点で検出可能だったかの検証が不足しやすい
関連する用語
- IFRS 13レベル1入力値 - アクティブな市場での公表価格。最も客観的で信頼性が高い測定方法
- IFRS 13レベル2入力値 - 市場で直接観測可能な入力値。類似資産の価格や利率を活用する
- IFRS 13レベル3入力値 - 市場で観測不可能な入力値。企業の仮定と見積もりに依存し、監査上の注意が最も必要
- 公正価値測定の開示 - IFRS 13.93で要求される定量・定性情報。利用者の意思決定に必要な透明性を提供
- 評価モデル - キャッシュフロー法や類似企業法など、レベル2・レベル3測定に用いられる技法
- 市場参加者仮定 - IFRS 13の中核。資産・負債を「企業特有の仮定」ではなく「市場参加者の視点」で測定する要件