Definition

上場株式の期末評価で「終値を使えば終わり」と思っていないだろうか。経験上、レベル1の公正価値測定こそ調書上の記載が薄くなりがちで、金融庁検査で「市場活発性の検証が不十分」と指摘されるケースが後を絶たない。

重要なポイント

> - レベル1入力は公正価値測定の最高階層。活発な市場の気配値そのものを使う。 > - 上場株式、公開債券、為替レート、主要コモディティ先物など流動性の高い金融商品で使われる。 > - レベル1入力が存在しない場合、被監査会社はレベル2またはレベル3に降格しなければならず、その判断根拠の文書化が監査対象となる。降格の判断過程が調書に残っていないと、CPAAOB検査で真っ先に引っかかる。

仕組み

公正価値の階層はIFRS 13.72~91で定義されている。レベル1は市場参加者が観察できる気配値であることが条件。単なる過去の取引価格ではなく、測定日における現在の市場価格でなければならない。

ISA 330.A68は、公正価値測定のリスク評価と対応を取り扱う。被監査会社が資産をレベル1で評価する場合、監査人は以下の点を確認する。

1つ目は、当該資産が実際に活発な取引のある市場に存在するか。東京証券取引所のプライム市場に上場している銘柄とTOKYO PRO Marketでの希薄な取引を同一視することはできない。

2つ目は、使用した気配値が測定日のものか。期末の1営業日前の価格を使用したり、週間平均を算出したりする慣行はレベル1の厳密性を損なう。IFRS 13.80は「測定日現在の気配値」を明確に要求している。

3つ目は、調整の有無。被監査会社がレベル1入力に対して取引コストや流動性の制限を理由に調整を加えていれば、それはレベル2への降格を意味する。入力の再分類として調書に文書化されなければならない。

4つ目は、複数市場で取引される銘柄の場合、使用した市場の選択根拠。IFRS 13.16は「主要な市場(principal market)」を優先すると定めており、被監査会社が有利な価格の市場を恣意的に選んでいないか確認する。

金融庁の過去の検査では、上場会社の評価担当者がレベル1とレベル2の区分を不明確に扱い、入力の階層判定の根拠が不足している事例が複数指摘されている。

具体例: 日本機械工業株式会社

日本機械工業株式会社は、機械装置の製造・販売を行う上場企業。2024年度末、保有する上場子会社株式をIFRS 13に基づき公正価値で測定する。東京証券取引所プライム市場で日々取引されている銘柄である。

ステップ1: 測定対象の確認

被監査会社は保有する日本コンポーネント工業の株式500万株について、期末時点(2025年3月31日)の公正価値を算定する。調書には「レベル1入力を使用(東証プライム上場銘柄)」と記載。この段階で終わらせるチームが多いが、次のステップが肝になる。

ステップ2: 市場活発性の確認

東証プライム上場銘柄であることだけでは不十分。当該銘柄が期末から過去3カ月間に平均日々100万株以上の取引高があることを検証する。特定の大口売却日を除き、通常の取引が継続していることも確認。調書添付資料として「過去3カ月平均取引高145万株/日」を東証統計データから抽出。

ステップ3: 気配値の抽出と日付確認

被監査会社が使用した気配値は期末営業日(2025年3月28日)の終値1,245円。これが信用取引も含む全場での気配値であること、当該銘柄の通常のビッド・アスク・スプレッド内であることを確認する。東証から取得した当日の気配値リストで、終値1,245円が日中高値1,250円・安値1,240円の範囲内であることを調書に記載。

ステップ4: 調整の有無確認

被監査会社の評価部門が「流動性プレミアム」として気配値から1%を控除する慣行がないか確認。大量保有(議決権33%超)であっても、公開市場での取引であればレベル1の厳密性を維持できる。ただし控除があれば再分類を指示する。被監査会社の経理責任者から「気配値に調整はない」という確認書を入手。

結論: 被監査会社が算定した公正価値は1,245円 x 500万株 = 62億2,500万円。レベル1の基準を満たすため、この公正価値評価は支持される。市場価格が日々変動するため、翌年度も同様の検証手続を繰り返す必要がある。

監査人と実務者がよくまちがえる点

第1の落とし穴: 気配値の取得方法

上場企業であること=自動的にレベル1、という誤解が根強い。IFRS 13.76は「気配値は市場参加者の間で通常の取引が行われている市場に属する資産または負債について報告された価格」と定義している。PTS(プロ向け市場)や立会外取引の価格はレベル1から除外される。公開会社であっても過去3カ月間に全く取引がない銘柄(休止状態の株式等)はレベル1の入力源として成立しない。

第2の落とし穴: 調整の実質的性質

被監査会社が「大口保有者割引」「少数株主割引」「非上場化プレミアム」といった調整を加えることがある。これらは市場参加者の仮定を反映するものであり、単純に気配値から控除できるものではない。IFRS 13.80は調整後の価格を別のレベル評価(通常はレベル2)として扱うべき可能性を示唆している。監査人は、被監査会社がこれらの調整を経営層の判断で恣意的に適用していないか、その結果をレベル1のままとしていないかを検証しなければならない。

第3の落とし穴: タイミングのずれ

被監査会社が決算日(例: 3月31日が土曜日)の前営業日の気配値を使用することは一般的。しかし期末から週単位でのタイムラグが生じた場合、特に期末後の重要なニュース公表により株価が大きく変動していれば、その後続期間の気配値を参考として記載し、公正価値測定の根拠を補強すべきである。単一日のスナップショットではなく、測定日周辺の市場状況との整合性を調書に残す。

レベル1とレベル2の区分

側面レベル1レベル2
情報源活発な市場における気配値気配値以外の観察可能なデータ(類似資産の気配値、利息レートなど)
直接性対象資産と同一の気配値を直接使用オプション価格設定モデルやDCF法など計算を要する
市場活発性定義された活発な市場の存在が必須活発な市場がなくても入力が市場から観察可能であれば許容
測定日測定日現在の気配値過去の観察可能データから補間・外挿することを許容
監査上の判断市場活発性の定義と気配値の信頼性が焦点計算モデルと入力パラメータの合理性が焦点

監査人がレベル1とレベル2を区別できていない例は頻繁に見られる。被監査会社が「2つ以上の観察可能な価格」という名目でレベル2に分類した資産が、実は単一の公開市場の気配値から導出されている場合、段階的な見直しを促すべきである。

レベル1公正価値測定チェックリスト

被監査会社がレベル1の公正価値測定を行う場合、監査人は以下を確認する。

1. 対象資産が活発な市場で実際に取引されているか、過去3~6カ月の取引高データを検証 2. 使用した気配値の日付が測定日(または測定日に最も近い営業日)であるか確認 3. 被監査会社が調整を加えていないか、調整があれば再分類されているか検討 4. 公開市場であっても、大量保有者割引や少数株主割引の適用有無を経営層に質問 5. 気配値の出所(東証、取引所公表、ロイター等)が信頼性のあるデータベースか確認 6. 期末以降の重要なイベント(増資、買収、重大な訴訟等)が価格に反映されるべきか検討 7. 複数の市場で取引されている場合(例: 東証とNYSE)、使用した市場の正当性を確認

関連する用語

- 公正価値: IFRSで定義される「市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格」。被監査会社がレベル1、2、3のいずれかを選定する際の大前提。

- レベル2入力: 気配値以外の市場から観察可能なデータを使用した公正価値測定。デリバティブや社債評価で一般的。

- レベル3入力: 市場から直接観察できない入力(経営層の見積もり、社内モデル)を使用。最も監査リスクが高い。

- 活発な市場: IFRS 13 Appendix Aで定義される「通常、十分な取引量および流動性を有する市場」。具体的な定量基準は被監査会社の業界や資産の性質に依存する。

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