仕組み

監基報 320は、財務諸表の主張(assertions)を定めており、実在性主張はそのうちの基本的なカテゴリーである。監基報 320.A115によれば、実在性主張とは「期末日現在において、資産が実在し、負債が存在し、純資産が企業に帰属する」ことを意味する。
監査人の役割は、経営者が主張する項目が実在しているかどうかを独立的に検証することである。現金、売上債権、有形資産については直接的な実在確認(実査、確認書の取得等)が可能である。しかし負債や無形資産の場合、実在性の定義そのものが曖昧になることがある。例えば、引当金(監基報 500では「負債」に分類)が「実在する」とは何を意味するのか。負債は物理的に目に見えない。この場合、実在性とは「負債が監基報 540で定義される条件を満たしているか」という判断に転化される。
監基報 500.6(a)において、監査人は「各種類の取引、勘定残高、及び開示」について9つの主張を評価することが求められている。実在性はこの9つの主張の第1番目である。他の主張(完全性、評価・配分、提示)との関係を理解することが実務的に重要である。

実例:田中工業株式会社での実在確認手続

クライアント概要
田中工業株式会社は東京都中央区に本社を持つ精密機械部品製造企業で、2024年度の売上は6億800万円。IFRSで連結財務諸表を作成している。監査対象期間は2024年1月~12月。
ステップ1:実在確認手続の計画
監査計画段階で、実在性リスクが高い勘定を特定する。田中工業の場合、海外子会社の売上債権(8,900万円)と機械設備(2億3,400万円)が重要な項目である。これらに対して、以下の手続を計画した。
文書化メモ:リスク評価ワーキングペーパーに「売上債権の実在リスク:高。理由:海外顧客の信用調査が12か月ごと。直近の確認は9月。」と記載
ステップ2:売上債権の実在確認
10月末現在の売上債権帳簿残高は8,900万円。監査人が実施した手続:
文書化メモ:確認書ファイルに「顧客A社より確認書受領。帳簿残高8,200万円と一致。発送日:10月15日、返送日:10月28日。」と記載。顧客Cからの返送未着については「納品書BV-2024-089(10月10日付)と11月3日の銀行入金記録により実在性を確認。金額4,700万円。」と記載
ステップ3:機械設備の実在確認
帳簿上の機械設備(取得原価ベース)は4億1,200万円。減価償却累計額を控除した期末簿価は2億3,400万円。
文書化メモ:実地確認記録に「2024年10月31日、監査人A及びA2が工場にて機械確認を実施。主要機械18台について以下を確認:(1)物理的存在の確認、(2)シリアルナンバーの照合(3台抽出テスト、全て一致)。異常なし。」と記載
ステップ4:引当金の実在確認
返品引当金(帳簿額2,100万円)については、直接的な実地確認ができない。代わりに:
文書化メモ:「返品引当金は物理的実体がないため、実在性確認は監基報 540の条件充足(負債が成立しているか)によって代替。経営陣の見積りプロセス文書に基づき、引当率の合理性を検証。異常なし。」と記載
結論
上記の手続により、売上債権6,900万円と機械設備2億3,400万円、及び返品引当金2,100万円について、実在性主張が適切に支持されていることが確認された。これらの項目は、期末日現在において実際に存在し、かつ企業に帰属していることが検証された。

  • 顧客確認書を3社に送付し、2社から直接返送を受け取った。回答額は帳簿残高と一致。
  • 1社からの返送は未着のため、納品書と銀行入金記録を突合した。入金は11月上旬に確認。
  • 設備台帳により、主要機械18台を特定。
  • 経営陣の承認を得て、工場棟の実地確認を実施。全18台の機械が物理的に存在することを確認。
  • シリアルナンバーと設備台帳の対応を3台抽出で確認。全て一致。
  • 過去3年間の返品実績を分析し、引当率の合理性を検証。
  • 監基報 540.6に基づき、経営陣の見積り過程が適切に文書化されているかを確認。
  • 見積りに使用された歴史的データと現在の状況の相違がないか評価。

監査人が誤解しやすい点

実在性は「計上されているものが存在するか」を問う。完全性は「存在しているものが計上されているか」を問う。監査調書で両者を同じ手続で対応させているケースが見られるが、これは不十分である。実在確認手続(取得債権の確認、資産の実地確認等)だけでは完全性はテストできない。
一部の実務では、「実在確認=実地確認」と考え、実査ができない項目(負債、無形資産、のれん)については「実在確認手続を実施した」と宣言せずに終わることがある。しかし監基報 500.6(a)は全ての勘定について実在性を評価することを求めている。負債の実在確認は、原因となる契約の証拠(購買契約書、融資契約書、法的判定書)により実施する。
監査調書を見ると、売上債権の顧客確認を「5社確認した」と記載され、これが監査証拠として十分と判断されているケースがある。国際的な検査では、金額ベースのサンプリングを求める傾向がある。売上債権帳簿残高8,900万円のうち、確認額が3,000万円に留まっていないか確認が重要である。

  • 誤った理解1:実在確認と完全性の混同
  • 誤った理解2:実在確認は現物確認のみ
  • 誤った理解3:サンプルサイズの不足

実在性主張と完全性主張

実在性主張: 計上されている項目が実在するか(過大計上を防ぐ)
完全性主張: 実在しているものが計上されているか(過小計上を防ぐ)
実在性と完全性は補完的であり、両立する。実在確認と完全性確認の手続は異なる。実在確認は「取得債権への確認」(存在するか確認)だが、完全性確認は「未請求売上の確認」(漏れがないか確認)である。

関連用語

  • 完全性主張(Completeness Assertion): 計上されるべき取引・残高が全て計上されていることを経営者が主張する。実在性とは逆方向のテスト対象。
  • 権利と義務主張(Rights and Obligations Assertion): 計上されている資産が企業に帰属し、負債が企業の責任であることを主張する。実在確認後、この主張を評価する場合が多い。
  • 評価・配分主張(Valuation/Allocation Assertion): 計上額が適切に測定されていることを主張する。実在性確認の後に評価を確認するフロー。
  • 提示及び開示主張(Presentation and Disclosure Assertion): 勘定残高と取引が財務諸表に適切に分類・記載されていることを主張する。

監基報 350を使った効率化

実在確認は繰り返し実施が多い監査手続である。監基報 350(分析的手続の設計と実施)では、分析的手続により実在性リスクの一部を軽減することが認められている。例えば、売上債権回転率の推移分析により、取引先ポートフォリオの大きな変化がないかを事前に評価することで、確認手続の範囲を合理化できる。ただし、高リスク項目(新規顧客、大口債権)については、分析的手続のみでは不十分である。

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