Definition
「うちは監査ではなくAUPだから」と言うクライアントがいる。経験上、この一言が出た時点で、手続の範囲も報告書の宛先も決まっていないことが多い。監基報3400は監査人が利用者と合意した特定の手続だけを実施し、結果をそのまま報告する業務を定めている。意見は表明しない。利用者が事実から結論を導く。
主要なポイント
- 監査人は手続の結果だけを報告し、有効性について意見を表明しない。報告書はあくまで事実の羅列。 - AUPの報告書は合意した利用者だけに発行される。銀行融資用なら銀行だけ。親会社監査用なら親会社だけ。 - 繁忙期に「監査に近いもの」として処理してしまうケースがCPAAOBの検査で繰り返し指摘されている。合意の文書化が甘いまま業務が走り出すのが根本原因。
仕組み
監基報3400が定めるAUPの骨格は単純である。監査人は利用者と手続を合意し、その手続だけを実施し、結果を報告する。監基報3400.14は報告書の記載事項として、実施した手続、対象範囲、実施期間、結果の4項目を要求している。
ここで実務者が見落としがちな点がある。AUPでは「適切である」とも「誤りはない」とも言えない。手続が明らかにした事実だけを記載する。利用者がその事実をどう解釈するかは利用者の判断。正直、これが現場で最も混乱を生む。クライアントは「で、大丈夫なんですか?」と聞いてくる。答えは「それを判断するのはあなたです」となる。
監基報3400.A1はAUPの報告書が限定された利用者向けであることを明記している。手続の詳細と制限を理解できる利用者でなければ、報告書の内容を正しく読めない。この制限が守られず、報告書が想定外の第三者に渡るケースが後を絶たない。
実例:トヤマ精機株式会社
トヤマ精機株式会社は岐阜県の精密機械部品製造業者で、年間売上は約12億円。取引銀行が融資判断のため、売上と在庫についてのAUPを依頼した。銀行の指示は明確だった。「監査ではなく、売上の請求書との対応確認と在庫の実地確認だけで構わない」。
第1段階:合意の文書化 監査人は銀行とトヤマ精機の間で手続を定義した。(1) 2024年12月の売上元帳から40件を抽出、(2) 請求書と出荷伝票で確認、(3) 12月末の在庫を実地確認し帳簿残高と突合、(4) 結果を集計し報告。 調書:合意内容を「AUP契約書」として別紙に記載。「監査ではないこと」「限定された利用者のみが報告書を使用すること」を明記した。
第2段階:手続の実施 監査人は売上元帳から10万円以上の40件を抽出。各件ごとに請求書、出荷伝票、納品確認メールを確認した。売上元帳に「12月15日 金属プレス部品 月額200万円」と記載されていた場合、請求書の金額一致と出荷伝票の納品日記載を確認する。 調書:チェックリスト方式で「請求書確認完了」「出荷伝票確認完了」と記録。40件全て確認完了。例外0件。
第3段階:在庫確認 12月末、在庫の実地確認を実施。帳簿残高は約8,500万円。監査人が現場で30品目をサンプル確認し、帳簿のロット番号と現物を照合した。帳簿と現物は一致。 調書:在庫確認リストに品目、ロット、帳簿数量、実地数量を記載。差異なし。
第4段階:報告 監査人は銀行に対し報告書を発行。「40件の売上取引について、請求書と出荷伝票が合致していることを確認した。例外は検出されなかった」「12月末の在庫実地確認において、帳簿残高8,500万円と現物在庫は合致していることを確認した」。「売上・在庫は適正である」という意見は表明していない。銀行がこの結果から何を判断するかは銀行の責任。
実務や検査官が誤解する点
Tier 1(検査指摘): IAASBの監視レポート(2023)はAUP報告書に意見が含まれるケースを繰り返し指摘している。「我々の実施した手続に基づき、売上記録は正確である」という文言が典型例。監基報3400.14は意見の表明を禁止しており、この種の記述は報告書から削除する。品管からの差し戻し案件としても多い。
Tier 2(基準と実務のずれ): 「合意された手続の範囲があいまい」なまま業務が走ることが多い。監基報3400.13は利用者との合意が実施前に明確に記録されることを求めている。「後から調整しよう」は基準違反。実施対象の取引件数、金額基準、確認方法、報告書の書式を事前に指定する。
Tier 3(現場の慣行ギャップ): 報告書が合意された利用者以外に配布されるケースが絶えない。監基報3400.20はAUP報告書が合意された利用者以外への開示を前提としていない。銀行融資判断用であれば銀行のみに提供する。この点を契約書段階で明記しないと、後から「親会社にも見せたい」という要望に対抗できない。
関連用語
- 限定的保証業務 監査人が結論を表明するが、合理的保証よりも低い水準の保証。AUPは保証業務ではない点で異なる。 - 監基報3400 AUPを定める基準。全ての他の監査基準とは独立した標準。 - 利用者の特定 AUP報告書は指定された利用者のためのみに発行される。その対象は事前に限定。 - 監査との相違 監査は監査人が意見を表明する。AUPは表明しない。