目次
1. 合意された手続業務とは何か 2. 監査業務との根本的相違 3. 業務の受任から報告書作成まで 4. 実務例:四半期財務数値の再計算業務 5. 実務上のチェックポイント 6. よくある問題点 7. 関連リソース
合意された手続業務とは何か
ISRS 4400.12はAUP業務を「監査人が当事者によって合意された特定の手続を実施し、発見事項を報告する業務」と定義している。監査人は結論も意見も表明しない。ここが監査との決定的な違い。
業務の構成要素
ISRS 4400.13から15は、AUP業務の構成要素を規定している。
ISRS 4400.13が定める当事者の合意では、実施する手続について監査人と依頼者、想定利用者が事前に合意する。手続の性質、タイミング、範囲は全て特定されていなければならない。
ISRS 4400.14の発見事項の報告では、監査人は実施した手続とその結果を事実として報告する。解釈、評価、結論は出さない。
ISRS 4400.15は保証の提供がないことを明記している。合理的保証も限定的保証も付与しない。利用者が発見事項を評価し、自ら結論を導く構造。
依頼者が求める特定の情報を絞り込んで収集できる反面、保証は伴わない。経験上、この「保証がない」という点を契約時に十分説明しても、報告書を受け取った段階で「これだけですか」と言われることは珍しくないんですよね。
独立性の要件
ISRS 4400.20は独立性について規定している。業務の性質によっては独立性が不要な場合もある。ただし、利用者が合理的保証と同等の信頼を期待する可能性がある場合は独立性を確保する。
上場企業の財務数値に関する手続や、第三者が判断に使用する可能性がある発見事項を扱う場合がこれに該当する。判断は業務受任時に行い、理由を調書に残す。
監査業務との根本的相違
職業専門家としての懐疑心の適用
監基報200.15は監査業務で職業専門家としての懐疑心の維持を求めている。ISRS 4400.25はAUP業務においてこの要件を限定的にしか適用しない。
監査では、監査人は入手した証拠に対して常に批判的な視点を維持する。虚偽表示の可能性を念頭に置き、経営者の説明や文書を鵜呑みにしない。AUP業務では合意された手続を実施し、結果を報告することが主たる責任となる。ただし、明らかに矛盾する情報や異常な事項を発見した場合は、それを発見事項として報告する。
重要性概念の扱い
監基報320は監査で重要性の基準値設定を求めている。AUP業務では重要性の概念は適用されない。
監査人は発見した全ての事項を報告する。金額的に些細な差異であっても、手続の結果として確認されれば報告対象。利用者が重要性を判断する。この違いは報告書の分量に直接響く。監査では重要性の基準値以下の事項は通常報告されないが、AUP業務では全件が対象になる。
リスク評価手続が不要な理由
監基報315は監査で企業環境の理解とリスク評価を求めている。AUP業務ではこのようなリスク評価は不要。
手続を実施するために最低限の企業理解を得れば足りる。業界の知識、会計方針の詳細、内部統制の有効性評価は必須ではない。ただし、売上計上プロセスの再計算を行うなら、関連する会計方針と計算方法の理解は必要になる。ここを省くと、手続自体が成り立たない。
業務の受任から報告書作成まで
業務契約書の必須事項
ISRS 4400.30は業務契約書に含めるべき事項を規定している。監基報220の監査業務契約書との主な相違は次の通り。
各手続について、対象、方法、範囲を具体的に記載する。「売掛金の検証」では足りない。「2024年12月31日現在の売上債権残高について、残高が100万円以上の債務者50社に対し、残高確認書を送付し、回答を入手する」という精度で特定する。
報告書を利用する予定の全ての当事者を具体的に記載し、想定利用者以外が報告書を利用することを制限する条項も含める。監査人が結論、意見、保証のいずれも出さないことを明記し、利用者が発見事項を評価して自ら結論を導くことを記載する。
手続実施時の文書化要件
ISRS 4400.40は実施した手続とその結果の文書化を求めている。監基報230の監査文書と異なり、職業専門家としての判断過程の記録は不要。
調書には、実際に行った作業の内容、タイミング、範囲を記録する。計画からの変更がある場合はその理由も併記する。検証した文書の種類、確認した数値、テストの結果を具体的に残す。手続中に発見した全ての事項を、重要性の判断を挟まず事実として記載する。
報告書の構成
ISRS 4400.50から55は報告書の必須記載事項を定めている。
表題は「合意された手続業務に関する報告書」等とし、想定利用者を宛先として明記する。実施した手続は、手続の目的、対象期間、制約事項を含めて記載する。各手続の結果は事実として記載し、発見事項がない場合もその旨を明記する。結論や意見を表明しないこと、想定利用者以外の利用を制限すること、監査人の責任範囲を制約条項として記載する。
実務例:四半期財務数値の再計算業務
山田製造株式会社は資本金5億円、売上高420億円の機械製造業者。主力製品は産業用ロボットの制御装置で、海外売上比率は60%。同社は四半期決算の精度向上を目的として、特定の勘定科目について独立した検証を求めた。
業務の概要と合意された手続
山田製造の経理部長から、2024年第3四半期(10月-12月期)の売上高と売掛金残高の再計算についてAUP業務の依頼があった。過去に売上計上タイミングに関する疑義が生じた経験があり、四半期レビューの補完として数値の検証を求めている。
合意された手続は2つ。売上高の再計算では、2024年10月1日から12月31日までに計上された売上108,500,000円について、売上伝票から総勘定元帳への転記を全件突合する。売掛金残高の確認では、2024年12月31日現在の全取引先135社、総額195,300,000円について、補助元帳残高と総勘定元帳残高を照合する。
手続実施の詳細
売上高再計算は2025年1月15日から16日にかけて実施した。売上伝票542件について、取引日付、取引先名、商品名と数量、売上金額(消費税抜き)を総勘定元帳の売上高勘定と突合。発見事項は1件。売上伝票No. 2024-10-157(金額2,150,000円、取引先:関西機械工業株式会社)について、総勘定元帳への転記日付が売上伝票日付より3営業日遅れていた。金額の相違はない。
売掛金残高照合は2025年1月17日に実施。補助元帳の合計額195,280,000円と総勘定元帳残高195,300,000円との間に20,000円の差異を確認した。取引先「九州電装株式会社」の売掛金について、12月28日付の入金50,000円が補助元帳に反映されていなかったことが原因。
報告書の作成
発見事項は全て事実として報告書に記載した。差異の原因や影響についての評価は行わず、発見事項の記載にとどめている。山田製造の経理部は報告書を受領後、自社で差異の原因を調査し、修正を実施した。
AUP業務が特定の検証ニーズに応えた例。監査であればリスク評価と統制テストが前提になるが、AUP業務では焦点を絞った検証が可能。
実務上のチェックポイント
AUP業務を実施する際の6つの確認項目。
1. 業務契約書で実施する手続が十分に特定され、想定利用者と保証の否定が明記されているか。ISRS 4400.30の要件を全て満たしているかを確認する 2. 業務の性質と想定利用者の期待を考慮し、独立性の確保が必要かどうかを受任前に判定する。判定理由は調書に残す 3. 合意された手続を計画通りに実施し、実施できなかった手続がある場合はその理由を報告書に明記する 4. 監査人の解釈や評価を含めず、手続の結果を事実として報告する。重要性の判断による省略は行わない 5. 結論・意見の否定、想定利用者の制限、監査人の責任範囲をISRS 4400.50に沿って記載する 6. 報告書が監査報告書や保証報告書と誤認されないよう、業務の性質を説明する。特に保証水準について誤解を招く表現は避ける
よくある問題点
業務契約書に「売掛金の検証」とだけ書いてあるケースは後を絶たない。何を、どの範囲で、どの方法で検証するかが不明確なまま走り出すと、報告書の段階で「これは合意した手続の範囲なのか」という議論が発生する。
保証に関する誤解はもっと根深い。依頼者がAUP業務から何らかの保証を期待している場合、業務が完了してから失望に変わる。受任時に「保証は出ない」と説明しても、報告書を読むまでは実感が湧かないんですよ。品管からは「契約書に書いてある」と言われるが、書いてあることと理解されていることは別の話。
関連リソース
- 監査業務品質管理ガイド - 監査業務との手続比較と品質管理上の留意点 - 業務契約書作成ツール - ISRS 4400対応の契約書テンプレート - 監査証拠の文書化手法 - AUP業務における証拠収集と文書化の相違点