目次

ISA改訂の現状

国際監査・保証基準審議会(IAASB)による2020年から2024年にかけての基準改訂は、コロナ禍を経た監査環境の変化に対応している。改訂の中核は不正リスクへの対応強化(ISA 240改訂)と継続企業評価の枠組み変更(ISA 570改訂)、品質管理の事務所レベルでの再構築(ISQM改訂シリーズ)、そして監査証拠の概念の現代化(ISA 500改訂草案)にある。
従来のISA改訂は個別基準の技術的修正が中心だった。今回は監査プロセス全体の見直しを伴う。特にISA 570(改訂版)は評価手順の順序を根本的に変えた。疑義を生じさせる事象の識別を、経営者の対応策評価から分離する。これまでの多くの業務で一体化されていた判断プロセスを、2段階に分ける必要がある。
改訂基準の早期適用は一部を除いて認められている。ただし、品質管理基準(ISQM1、ISQM2)との整合性を考慮すると、段階的適用よりも一括移行の方が現実的とする事務所が多い。

施行済み基準(2024年)

監基報315号(改訂版2019)


施行日: 2021年12月15日以降開始事業年度
現在の状況: 完全施行済み
リスク識別手続きの範囲拡大が主な変更点。特に監基報315.13は、事業上のリスクと財務報告に係るリスクの関係性について、より具体的な検討を求めている。

監基報220号(改訂版2020)


施行日: 2022年12月15日以降開始事業年度
現在の状況: 完全施行済み
業務品質管理の個別業務レベルでの要求事項を明確化。ISQM1との連携が前提となっている。

2025年施行基準

監基報240号(改訂版2024)


施行日: 2025年12月15日以降開始事業年度
早期適用: 可能
不正リスクの識別と評価における重要な変更:
実務への影響: 不正リスク評価の文書化要件が大幅に拡大される。特に仕訳テストの範囲拡大により、IT環境での仕訳抽出プロセスの見直しが必要。

  • 監基報240.18A(新設):特定の不正リスク要因の存在時に、重要な虚偽表示リスクを「特別な検討を必要とするリスク」として分類することを要求
  • 監基報240.31-1(新設):仕訳テストの範囲を拡大。期中仕訳、修正仕訳、連結修正仕訳を含むテストを要求
  • 監基報240.A67-1(新設):経営者による内部統制の無効化リスクについて、より具体的な検討項目を明示

2026-2027年施行基準

監基報570号(改訂版2024)


施行日: 2026年12月15日以降開始事業年度
早期適用: 可能
継続企業の前提に関する評価プロセスの根本的変更:
従来の手順:
改訂後の手順:
この変更により、既存の継続企業評価調書の大部分で構造変更が必要となる。

ISQM1(改訂版2024)- 予定


予定施行日: 2027年12月15日(IAASBによる最終確定待ち)
品質管理システムのリスクベースアプローチをより明確化。監査業務以外の証明業務への品質管理要求の拡張が含まれる見込み。

ISQM2(改訂版2024)- 予定


予定施行日: 2027年12月15日(IAASBによる最終確定待ち)
業務品質管理レビューの要求事項強化。特に上場会社監査以外の重要な業務への適用範囲拡大が検討されている。

  • 疑義を生じさせる事象・状況の識別
  • 経営者の対応計画の評価
  • 総合的な継続企業評価
  • 疑義を生じさせる事象・状況のグロス評価(対応策を考慮しない)
  • 経営者の対応計画の十分性と実行可能性の独立評価
  • ネットベースでの継続企業評価

実務例:中規模事務所の移行計画

田中監査法人(仮名)

2024年第4四半期の準備状況


監基報240号(改訂版)対応:
文書化ノート:品質管理マニュアル第4章「不正リスク評価」を監基報240.18Aの要求事項に基づいて全面改訂
監基報570号(改訂版)の準備:
文書化ノート:従来の統合型評価から分離型評価への移行。監基報570.A4-1の要求事項を反映した新様式を2025年6月までに完成予定
ISQM改訂への準備:
田中監査法人の結論:ISA改訂による年間追加工数は約200時間、追加コストは監査報酬の約3-4%と試算。顧客への報酬見直し交渉を2025年1月から開始予定。

  • パートナー3名、スタッフ18名
  • 上場会社監査8社、非上場監査42社
  • 年間監査報酬総額:1億2,000万円
  • 既存の不正リスク評価調書の見直し:18業務で修正が必要
  • 仕訳テスト手順書の改訂:ITツールによる仕訳抽出範囲の拡大
  • スタッフ研修:2024年12月実施済み
  • 継続企業評価調書のひな型変更:2段階評価プロセスに対応
  • 過去3年間の継続企業案件(6業務)での試行実施
  • 業務時間への影響試算:1業務あたり4-6時間の追加工数
  • 品質管理システムの現状分析:2024年11月完了
  • リスクベースアプローチの試行:証明業務2件で実施
  • パートナー会議での方針決定:2025年3月予定

基準別準備チェックリスト

監基報240号(改訂版2024)- 2025年12月施行

監基報570号(改訂版2024)- 2026年12月施行

ISQM改訂シリーズ(予定)- 2027年12月施行

  • 不正リスク要因の文書化強化
  • 監基報240.18Aに基づく「特別な検討を必要とするリスク」の判定基準を策定
  • 不正リスク評価調書のひな型更新
  • 仕訳テストの範囲拡大
  • IT環境での仕訳抽出ツールの機能拡張
  • 期中仕訳、修正仕訳、連結修正仕訳を含むテスト手順の策定
  • 経営者による統制無効化リスクの検討強化
  • 監基報240.A67-1の具体的検討項目を調書に組み込み
  • 上級経営者の関与する取引の識別プロセス明文化
  • チーム研修とコミュニケーション
  • 改訂要求事項に関するスタッフ研修実施
  • 業務チーム内での不正リスク情報の共有体制構築
  • 品質管理との連携
  • 事務所レベルでの不正リスク対応方針の見直し
  • 評価プロセスの2段階化対応
  • グロス評価(対応策考慮前)の文書化様式作成
  • 経営者対応計画の独立評価手順策定
  • 継続企業評価調書の改訂
  • 従来の統合評価方式から分離評価方式への移行
  • 監基報570.12Aの要求事項を反映した調書ひな型作成
  • 財務分析手法の見直し
  • 疑義を生じさせる事象の識別基準明確化
  • キャッシュフロー予測の検討範囲拡大
  • 経営者確認書の文言調整
  • 継続企業評価に関する確認事項の明確化
  • 報告書への影響検討
  • 継続企業に関する重要な不確実性の記載基準見直し
  • 品質管理システムの全面見直し
  • リスクベースアプローチの具体化
  • 品質目標と品質リスクの再定義
  • 非監査証明業務への品質管理拡張
  • レビュー業務、合意された手続業務への適用検討
  • 業務レベル品質管理の標準化
  • 業務品質管理レビュー制度の強化
  • 上場会社監査以外への適用範囲拡大検討
  • レビュー担当者の独立性要件強化
  • IT環境における品質管理
  • 自動化ツールの品質管理への組み込み
  • データ分析の品質保証プロセス構築

よくある移行時の問題

基準適用時期の誤認


問題: 改訂基準の施行日を監査報告書日基準と誤解するチーム多数。正しくは財務諸表の対象期間の開始日基準。
対策: 2025年3月決算の会社の監査では、2024年4月開始のため監基報240号(改訂版2024)は適用されない。2026年3月決算から適用開始。

品質管理基準との整合性


問題: ISA改訂をISQM改訂と独立して進める事務所でシステム設計の不整合が発生。
対策: ISQM1、ISQM2の改訂動向を確認してからISA移行計画を確定する。一体的な移行スケジュール策定が必要。

顧客への影響説明不足


問題: 監査手続の拡大による監査報酬への影響を事前に顧客に説明していない事務所で、移行時に問題となるケース。
対策: 改訂内容と業務時間への影響を定量的に試算し、顧客との事前協議を実施。契約書の改訂も同時に検討。

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