設例:デュポン製造業S.A.S. パリに本社を置く金属加工メーカー。従業員320人、2024年12月期の売上高6,800万ユーロ、総資産3,200万ユーロ。グループ全体では15の関連会社を欧州各国に展開。 ステップ1:適用時期の判定 デュポン製造業は従業員250人超、売上5,000万ユーロ超、総資産2,500万ユーロ超で大企業の定義に該当。第2波適用のため、2026年1月1日開始事業年度(2026年12月期)から報告義務が発生する。 文書化ノート:適用時期判定の根拠をワークペーパーのスクリーニング表に記載 ステップ2:二重重要性評価の実施 2025年中に、環境・社会・ガバナンスの各領域で二重重要性評価を実施。金属加工業という事業特性から、気候変動(ESRS E1)、汚染(ESRS E2)、労働条件(ESRS S1)が重要項目として特定された。 文書化ノート:重要性マトリックスと判断根拠を保証調書に添付 ステップ3:データ収集体制の構築 2025年第4四半期から、ESRSデータポイントの収集体制を構築。Scope1、2、3のGHG排出量計算、労働災害統計、取締役会の多様性指標など、定量データの算定手順を文書化。 文書化ノート:データ収集プロセスのフローチャートを内部統制調書に含める ステップ4:保証契約の締結 2026年第3四半期に、法定監査人であるマゼール・コンセイユ会計事務所と持続可能性保証契約を締結。保証範囲をESRS E1、E2、S1、G1に限定し、保証報酬を年次監査報酬の25%相当に設定。 文書化ノート:業務契約書の保証範囲条項を品質管理ファイルに保管 結論 デュポン製造業は2027年4月に2026年12月期の持続可能性報告書を公表し、同時に限定的保証報告書を添付。初年度の保証業務コストは約15,000ユーロ(年次監査報酬60,000ユーロの25%)となった。AMFによる事後検査では、二重重要性評価の手順が適切として評価された。

目次

CSRDフランス国内法の基本構造

フランスは2024年7月にCSRD実施令(Ordonnance n° 2024-631)を公布し、EU指令を国内法化した。この実施令により、フランス商法典の第L.225-102-1条から第L.225-102-4条が改正され、持続可能性報告義務が明確化された。

規制の枠組み


フランス商法典L.225-102-1条は、以下の企業に持続可能性報告書の作成を義務付ける:
AMF(Autorité des marchés financiers)は報告企業の監督機関として位置づけられ、保証提供者の適格性についても監視する権限を持つ。

適用される基準


フランス国内法では、持続可能性報告書はESRS(欧州持続可能性報告基準)全12基準に基づく二重重要性評価の結果に従って作成される。二重重要性とは、企業が環境・社会に与える影響(インパクト重要性)と、持続可能性事項が企業の財務業績に与える影響(財務重要性)の両方を評価することを指す。
ESRS E1からE5までの環境基準、ESRS S1からS4までの社会基準、ESRS G1のガバナンス基準のうち、二重重要性評価で重要と判断された項目について開示が必要となる。ただし、ESRS 2(一般開示)は全企業で必須開示となる。

  • 第1波(2025年1月1日開始事業年度から):既にNFRD(非財務報告指令)の適用対象である大企業
  • 第2波(2026年1月1日開始事業年度から):大企業(上場・非上場問わず)
  • 第3波(2027年1月1日開始事業年度から):上場中小企業(一定の条件下で免除規定あり)

段階的適用と企業の分類

第1波:2025年1月1日開始事業年度


すでにNFRDの適用対象である企業が該当する。具体的には以下の3つの条件をすべて満たす企業:
これらの企業は2026年に初回の持続可能性報告書を公表し、2027年に保証報告書を添付する。

第2波:2026年1月1日開始事業年度


大企業の定義(EU指令第2条)に該当する全ての企業が対象となる。以下の3つの条件のうち2つ以上を満たす企業:
第2波企業は2027年に初回報告書を公表し、2028年に保証報告書を添付する。

第3波:2027年1月1日開始事業年度


規制市場に上場している中小企業が対象。ただし、零細企業(従業員10人未満かつ売上200万ユーロ以下かつ総資産200万ユーロ以下)は除外される。
上場中小企業は2031年まで適用の延期を選択でき、この場合は2030年に初回報告書を公表し、2031年に保証報告書を添付する。

  • 従業員数500人超
  • 総資産2,000万ユーロ超
  • 純売上高4,000万ユーロ超
  • 従業員数250人超
  • 総資産2,500万ユーロ超
  • 純売上高5,000万ユーロ超

保証要件と提供者の資格

保証の水準と基準


フランス国内法では、持続可能性情報に対して限定的保証(limited assurance)の取得が義務化されている。将来的に合理的保証(reasonable assurance)への移行が検討されているが、移行時期は未定。
保証は以下の基準に準拠して実施される:

保証提供者の資格


フランス国内法では、以下の者が持続可能性情報の保証を実施できる:
独立した保証提供者を選択する場合、その者は監査法人の品質管理基準(ISQM 1に相当するフランス国内基準)を満たし、持続可能性保証に関する専門的能力を有する必要がある。

保証報告書の記載事項


AMFの実施ガイダンスによれば、保証報告書には以下の記載が必要:

  • ISAE 3000(改訂版)「過去財務情報の監査またはレビュー以外の保証業務」
  • フランス国内保証基準(Commission des normes d'audit et de certification développe)
  • 欧州委員会が今後策定する統一保証基準(検討中)
  • 法定監査人(Commissaires aux comptes):財務諸表監査を実施している監査人が、持続可能性情報の保証も併せて実施
  • 独立した保証提供者:AMFが認める資格要件を満たす独立した監査法人または公認会計士
  • 実施した保証手続の内容と範囲
  • 二重重要性評価の妥当性に関する結論
  • ESRSデータポイントの正確性と完全性
  • 内部統制の整備・運用状況の評価結果
  • 限定的保証の水準に関する利用者への注意喚起

実例:フランス製造業での適用

設例:デュポン製造業S.A.S.
パリに本社を置く金属加工メーカー。従業員320人、2024年12月期の売上高6,800万ユーロ、総資産3,200万ユーロ。グループ全体では15の関連会社を欧州各国に展開。
ステップ1:適用時期の判定
デュポン製造業は従業員250人超、売上5,000万ユーロ超、総資産2,500万ユーロ超で大企業の定義に該当。第2波適用のため、2026年1月1日開始事業年度(2026年12月期)から報告義務が発生する。
文書化ノート:適用時期判定の根拠をワークペーパーのスクリーニング表に記載
ステップ2:二重重要性評価の実施
2025年中に、環境・社会・ガバナンスの各領域で二重重要性評価を実施。金属加工業という事業特性から、気候変動(ESRS E1)、汚染(ESRS E2)、労働条件(ESRS S1)が重要項目として特定された。
文書化ノート:重要性マトリックスと判断根拠を保証調書に添付
ステップ3:データ収集体制の構築
2025年第4四半期から、ESRSデータポイントの収集体制を構築。Scope1、2、3のGHG排出量計算、労働災害統計、取締役会の多様性指標など、定量データの算定手順を文書化。
文書化ノート:データ収集プロセスのフローチャートを内部統制調書に含める
ステップ4:保証契約の締結
2026年第3四半期に、法定監査人であるマゼール・コンセイユ会計事務所と持続可能性保証契約を締結。保証範囲をESRS E1、E2、S1、G1に限定し、保証報酬を年次監査報酬の25%相当に設定。
文書化ノート:業務契約書の保証範囲条項を品質管理ファイルに保管
結論
デュポン製造業は2027年4月に2026年12月期の持続可能性報告書を公表し、同時に限定的保証報告書を添付。初年度の保証業務コストは約15,000ユーロ(年次監査報酬60,000ユーロの25%)となった。AMFによる事後検査では、二重重要性評価の手順が適切として評価された。

監査人向け実務チェックリスト

  • クライアントのスクリーニング実施:2024年12月までに全クライアントの適用時期を判定し、該当企業に対し準備スケジュールを提示する
  • 保証基準の習得:ISAE 3000(改訂版)とフランス国内保証基準の相違点を把握し、手続書を更新する
  • 専門的能力の確保:持続可能性保証チームの編成と研修計画を立案する。ESRSの全12基準について実務レベルの理解を深める
  • 品質管理体制の整備:ISQM 1に準拠した持続可能性保証の品質管理手順を策定し、既存の監査品質管理システムに統合する
  • 報酬体系の見直し:持続可能性保証の工数見積りと報酬算定基準を確立する。初年度は通常の監査報酬の20-30%を目安とする
  • AMF対応の準備:AMFが実施する持続可能性保証業務の検査に備え、調書様式と文書化基準を整備する

よくある理解不足

ESRSの全12基準がすべて適用されると思い込むケース
実際には二重重要性評価の結果に基づいて適用基準が決まる。ESRS 2(一般開示)は全社必須だが、他の基準は重要性に応じて選択的に適用される。
法定監査人のみが保証を実施できると誤解するケース
フランス国内法では独立した保証提供者による保証も認められている。ただし、AMFが定める資格要件を満たすことが前提となる。

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