ベルギーのCSRD国内法制化

管轄当局の役割分担

ベルギーは2023年12月にCSRD実施法(Loi d'implémentation CSRD / CSRD-implementatiewet)を制定し、会社法典(Code des sociétés et des associations)第3:6条にCSRDを組み込んだ。

監督権限はFSMA(金融サービス市場庁)が持つ。持続可能性報告書の内容審査、保証業務の品質チェックもFSMAの管轄。IBR-IREは保証業務の技術基準を定め、その運用を監督する。

段階的導入のタイムライン

ベルギーでの報告義務は以下の段階で拡大する:

第1段階(2025年1月1日開始事業年度) - 対象:大規模上場企業(従業員500名超、売上高4,000万ユーロ超、総資産2,000万ユーロ超のうち2つを満たす企業) - 適用基準:全適用ESRS基準 - 保証レベル:限定保証(limited assurance)

第2段階(2026年1月1日開始事業年度) - 対象:非上場の大企業(上記規模要件を満たすが上場していない企業) - 適用基準:全適用ESRS基準 - 保証レベル:限定保証

第3段階(2027年1月1日開始事業年度) - 対象:中小上場企業 - 適用基準:簡素化されたESRS基準 - 保証レベル:任意(2030年まで) - 適用猶予の選択肢あり

保証基準とスコープ

ISA (Belgium) 3000改訂版(2024年発行予定)がベルギーにおける保証業務の基準となる。ISAE 3000にベルギー固有の要件を加えた構成。

保証の範囲は持続可能性報告書の全体に及ぶ。定量的指標だけでなく、定性的な開示、戦略の記載、ガバナンス情報も対象。将来予測情報(forward-looking statements)は対象外となる。

IBR-IREが2024年11月に出した指針は見落としやすいポイントを含んでいる。既存クライアントの持続可能性保証を引き受ける場合、独立性評価をやり直す必要がある。財務諸表監査との利害関係を洗い出し、脅威と防御措置を調書に残す。ここを飛ばすと品管レビューで確実に引っかかる。

ESRS基準の適用と二重重要性評価

12のESRS個別基準

報告企業は12のESRS基準から、自社の事業活動とバリューチェーンに関連するものを選んで適用する。

環境基準(E1-E5)はE1が気候変動、E2が汚染、E3が水・海洋資源、E4が生物多様性・生態系、E5が資源利用・循環経済。社会基準(S1-S4)はS1が自社労働力、S2がバリューチェーン労働者、S3が影響を受けるコミュニティ、S4が消費者・エンドユーザー。ガバナンス基準はG1(事業行動)のみ。

ESRS 1(一般要求事項)とESRS 2(一般開示)は全企業に適用される。それ以外の基準は二重重要性評価の結果次第。

二重重要性評価の実務

二重重要性評価は持続可能性報告の土台となる。企業は各テーマについて影響の重要性(impact materiality)と財務の重要性(financial materiality)を別々に評価しなければならない。

影響の重要性では、企業活動が環境・社会に与える負の影響と正の貢献を見る。評価の軸は規模(scale)、範囲(scope)、是正不可能性(irremediable character)の4つ。

財務の重要性では、持続可能性に関するリスクと機会が企業の財政状態、業績、キャッシュフローに与える影響を短期から長期の時間軸で分析する。

保証業務の中で、この評価プロセスと結論の妥当性を検証することになる。ISA (Belgium) 3000.A67は、判断根拠と使用した手法の文書化を求めている。

ベルギー製造業での適用例

ファン・デン・ベルク製造株式会社(Van den Berg Manufacturing S.A.)を例にとる。金属製品製造業で従業員850名、売上高1億2,000万ユーロ、総資産8,500万ユーロ。非上場のため第2段階適用で2026年開始。

適用範囲の確定

規模要件の4指標のうち3つ(従業員500名超、売上4,000万ユーロ超、総資産2,000万ユーロ超)を満たしている。CSRD適用対象であることに疑問の余地はない。2026年1月1日開始事業年度から報告を開始する。

文書化ノート:規模要件の計算書をファイル冒頭に添付し、適用根拠として保存。

二重重要性評価の実施

金属製品製造業として以下が重要と判定された。影響の重要性はESRS E1(CO₂排出)、E2(水質汚染)、S1(労働安全)。財務の重要性はE1(炭素価格リスク)とS1(人材確保コスト)。

文書化ノート:重要性マトリクスを作成し、各評価項目のスコアリング根拠を別途文書化。

適用基準の確定

全企業に適用されるESRS 1、ESRS 2に加え、二重重要性評価の結果からE1、E2、S1を適用する。E3、E4、E5、S2、S3、S4、G1は非適用とし、判断理由を調書に記載。

データ収集と開示の準備

E1はスコープ1・2・3のGHG排出量算定で、第三者検証データを使用。E2は排水データの月次モニタリング結果と環境許可証の遵守状況を集約する。S1は労働災害統計、研修時間、従業員満足度調査の結果が対象。

文書化ノート:各データの出典と信頼性のレベルを記録し、第三者検証の有無も記載。

保証業務の計画策定

限定保証をISAE 3000 Revised準拠で実施する。リスク評価の焦点はデータの完全性と計算の正確性。保証手続は分析的手続、証憑突合、経営陣への質問を中心に組み立て、環境データについては専門家の起用も検討する。

文書化ノート:保証計画書を作成し、持続可能性データの内部統制評価も含める。

ファン・デン・ベルク製造の場合、5つのESRS基準が適用され、保証業務の工数は財務諸表監査の約30%と見積もられた。繁忙期と重なる事務所は、この追加工数を早めに人員計画に織り込んでおかないと回らなくなる。

実務チェックリスト

1. クライアントの適用範囲を確認する。従業員数、売上高、総資産の規模要件を連結ベースで判定し、該当する導入段階を特定する。 2. 導入スケジュールに合わせて、上場・非上場・中小の区分と適用開始年度を整理する。ESRS基準の適用範囲も同時に確認しておく。 3. 二重重要性評価を実施し、影響と財務の両面で評価する。重要性マトリクスの作成と判断根拠の文書化は品管レビューで必ず確認される。 4. 評価結果に基づき適用するESRS基準を決定する。非適用とした基準の理由も文書化しておく。 5. 保証業務の独立性を再評価する。既存の財務諸表監査との利害関係を洗い出し、追加の防御措置が必要かどうか判断する。 6. 持続可能性保証は新しい専門領域であり、IBR-IREのガイダンスを確認し、必要に応じて外部専門家を起用する。

よくある間違い

持続可能性データは財務データとは異なる内部統制の下で作成されている。データ源泉の信頼性を個別に検証しないまま保証手続に進むケースが、IBR-IREの2024年指針書でも指摘されている。

二重重要性評価で影響の重要性と財務の重要性を混同し、一方だけで判断を下す事例も目立つ。どちらか一方でも重要と判定されれば開示対象になる。この二つは独立して評価しなければならない。

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