仕組み
監査人は、被監査会社から入手した被監査事項情報をもとに、その対象となる事項(残高、取引、開示など)を理解します。ISA 200.A27は「監査人は、監査の各段階で、被監査事項情報の信頼性を評価する責任がある」と述べています。
この評価は複数の形態をとります。第一に、被監査事項情報が経営者から正式に提示されているか、それとも暗黙の前提として存在しているか。第二に、その情報の出所は何か。経営者の見積プロセスからの結果なのか、システムから自動抽出された数値なのか、または経営者の専門的判断なのか。第三に、監査人が独立した情報源を通じて検証できるか。
実務では、被監査事項情報は監査人が設計する手続の出発点となります。在庫の公正価値評価に関する監査では、経営者が「この在庫はシーズン終了により廃棄を検討している」という被監査事項情報を提示します。監査人はこの前提が適切であるか、その後の販売実績や廃棄記録と照合して検証します。
実例: ノルドバルト・テキスタイル A/S
被監査会社:デンマーク製造業、2024年度、売上€28.5M、IFRS準拠。
第1段階:計画段階での被監査事項情報の収集
経営者は監査の計画段階で「繰越商品の評価に際し、3月末時点での販売価格データを参考にして、低価法を適用した」と述べています。
文書化ノート:監査計画ファイルに、経営者の見積方針を記載。出所:経営者との打ち合わせ記録、CFOのメール確認。
第2段階:被監査事項情報の妥当性検証
監査人は、その後の4月から6月の販売実績を追跡し、経営者が参照した3月の販売価格がその後の市場実績と乖離していないか確認しました。2024年4月から6月の販売量は3月比で8%増加、平均販売価格は3月比で2%低下。経営者の前提はおおむね妥当。
文書化ノート:販売データファイルに、検証した期間、サンプル対象品目数、乖離幅の許容範囲を記載。
第3段階:開示の適切性確認
経営者の開示(「在庫は低価法により評価されている」)が、実際に適用した方法と一致しているか確認。一致が確認された。
結論:被監査事項情報(経営者が参照した販売価格データ)が信頼できると判断され、その後の在庫監査手続の範囲が適切に設定された。
監査人と実務担当者がよく誤るポイント
- 開示のテストにおける情報の範囲の過小評価: 経営者が「この事項について開示しました」と述べた場合、監査人が検証するのはその開示文言の正確性だけと考える傾向がある。しかし、ISA 200.A27が求める被監査事項情報の評価は、開示が完全であるか、背後にある事実が適切に反映されているかまで拡張される。金融庁のモニタリングレポートでは、開示監査における情報範囲の限定的な把握が指摘対象となった。
- 見積値の「経営者前提」との二重確認不足: 経営者が見積値を提示した際に、その前提となる被監査事項情報(「この前提で計算しました」という情報)がどこから来たのかが曖昧なままテストを進めることがある。ISA 330.10は、被監査事項情報を独立した情報源から検証することを要求している(直接)。経営者の口頭説明だけでは不十分。
- 被監査事項情報と経営者の主張の混同: 被監査事項情報は「事実」だが、経営者の主張は「評価」である。減価償却資産の耐用年数について、経営者が「これまでの経験から15年と判断した」という被監査事項情報を提示した場合、監査人がその判断が適切かどうかをテストするのではなく、その背後にある事実(実際の資産の使用パターン、業界の標準耐用年数、経営者がどのような情報を参考にしたか)を検証する必要がある。
- 被監査事項情報の完全性テストの欠如: 監査人は経営者から提示された情報をテストするが、ISA 500.9は情報の完全性(提示されていない情報がないか)の検証も求めている。経営者が都合の悪い情報を選択的に除外していないか、独立した情報源との照合により確認する手続が必要である。
関連用語
- 経営者の主張 - 経営者が財務諸表に対して暗黙のうちに示す表現。被監査事項情報はこの主張の根拠となる事実である。
- 見積値 - 被監査事項情報に基づいて経営者が算出した金額。見積値の信頼性は、その背後にある被監査事項情報の質に依存する。
- 監査証拠 - 監査人が被監査事項情報の信頼性を評価するために収集する情報。被監査事項情報とは異なり、監査人が独立して取得する。
- 経営者の表明書 - 経営者が被監査事項情報の完全性と正確性について監査人に対して提供する正式な確認書。
- システムからの出力 - 被監査事項情報が自動的に生成される場合、監査人はそのシステムの設計と運用の効果性をテストする必要がある。
- 分析的手続 - 被監査事項情報の合理性を評価するための手法。比率分析や傾向分析を通じて、情報が予想される水準と乖離していないか確認する。