Definition

監査の入所3年目までは、被監査事項情報と経営者の主張の違いがわかっていなかった、というのが正直なところ。調書のレビューで「これは subject-matter information の評価が抜けている」と指摘されても、何を足せばいいのか本音を言うとピンと来なかった。経験上、ここでつまずく人は多い気がする。

仕組み

被監査事項情報の評価には3つの問いがある。経営者から正式に提示されたのか、暗黙の前提として置かれているのか。出所はどこか(見積プロセス、システム抽出、経営者の判断のいずれか)。独立した情報源で検証可能か。ISA 200.A27項は監査の各段階で信頼性を評価する責任が監査人にあると述べている。

実務での起点はここ。在庫評価の監査では、経営者が「この在庫はシーズン終了で廃棄を検討している」と提示する。これが被監査事項情報。監査人はその後の販売実績や廃棄記録と突き合わせて検証する。

現場では、被監査事項情報の出所が曖昧なまま手続が進む。 経営者の口頭説明を調書に転記して、それを「入手した情報」として扱う。ISA 330.10項は独立した情報源での検証を要求しているのだが、繁忙期の現場では口頭ベースで完結することが多い、というのが本音。

実例: ノルドバルト・テキスタイル A/S

被監査会社:デンマーク製造業、2024年度、売上€28.5M、IFRS準拠。

第1段階:計画段階での被監査事項情報の収集

経営者は「繰越商品の評価で、3月末時点の販売価格データを参照し低価法を適用した」と述べた。

文書化ノート:監査計画ファイルに経営者の見積方針を記載。出所:経営者との打ち合わせ記録、CFOのメール確認。

第2段階:被監査事項情報の妥当性検証

4月から6月の販売実績を追跡。4月の販売量は3月比で8%増、平均販売価格は3月比で2%低下。ここまでは経営者の前提と整合。

ところが5月に大量返品が発生する。返品額は4月販売額の約14%に相当。経営者は「3月時点では予見不可能だった」と主張。ここで判断が分岐する。返品の原因は3月時点で存在していた品質欠陥なのか、それとも5月の市場要因なのか。後発事象(監基報560)の境界判断が発生。

審査担当からは「3月時点で予見不可能と結論付ける根拠調書を厚くせよ」との指摘。返品の原因分析、4月時点の苦情件数の推移、品質保証部門の社内記録の参照を追加した。

文書化ノート:販売データファイルに、検証期間、サンプル品目数、乖離許容範囲、返品の原因分析記録を追加。

第3段階:開示の妥当性確認

ここでパートナー2人の意見が割れた。Aパートナーは経営者の主張する3月時点の販売価格データを被監査事項情報として受け入れ、後発事象として5月返品を別個に評価する立場。理由:ISA 200.A27項の被監査事項情報は監査時点で経営者が依拠した情報を指し、後発の事実で遡及修正することは概念上の混乱を招く。

Bパートナーは販売価格データの「源泉」自体を再検証すべきと主張。理由:ISA 330.10項は独立した情報源からの裏付けを要求しており、3月の販売価格が品質欠陥を織り込まずに形成されていた可能性がある以上、被監査事項情報そのものの信頼性が揺らぐ。両者ともISA・監基報を根拠に立論。

最終的に審査を経てBパートナーの方針を採用。販売価格の形成過程の調書を厚くする。

結論:被監査事項情報の信頼性が確認され、その後の在庫監査手続の範囲が確定。

監査人と実務担当者がよく誤るポイント

- 開示テストでの情報範囲の過小評価: 経営者が「この事項は開示した」と述べた場合、検証対象を開示文言の正確性だけに絞ってしまう。ISA 200.A27項が要求するのは、開示の完全性と背後の事実の反映までを含む評価。CPAAOBのモニタリングレポートでは「審査担当社員が監査チームとの討議や関連する監査調書に基づいた検討を十分に行うことなく」評価を完了させていた事例が指摘された。現場の感覚で言うと、審査の先生が調書をざっと見て押印する流れが、開示の事実関係まで掘り下げない原因。

- 見積値の「経営者前提」の二重確認不足: 経営者が見積値を出したとき、その前提となる被監査事項情報の出所が曖昧なままテストに進むケース。ISA 330.10項は独立した情報源からの検証を要求している。経営者の口頭説明を被監査事項情報として扱うと、繁忙期の時間圧力下では特に「聞いた話を調書化しただけ」になりやすい。本音を言うと、これが最も多い指摘ポイント。

- 被監査事項情報と経営者の主張の混同: 被監査事項情報は事実、経営者の主張は評価。減価償却資産の耐用年数で経営者が「経験から15年と判断した」と言ったとき、検証対象は判断の妥当性ではなく、その背後の事実(実際の使用パターン、業界標準耐用年数、経営者が参照した情報の出所)。ここを混同すると、経営者の判断を再評価する作業に時間を使ってしまい、事実検証が抜ける。

歪んだインセンティブ: 繁忙期の時間圧力下では、経営者の口頭説明を被監査事項情報として受け入れるほうが調書が早く仕上がる。源泉まで遡ると工数が読めない。予算が先に決まっている案件ほど、この圧力は強くなる。

二次的な観察: 被監査事項情報の品質が監査範囲を決定する、というのは監基報的な記述。現実には監査範囲が先に予算で決まり、被監査事項情報の品質は事後合理化される、というのが現場の本音。

関連用語

- 経営者の主張 - 経営者が財務諸表に対して暗黙のうちに示す表現。被監査事項情報はこの主張の根拠となる事実である。

- 見積値 - 被監査事項情報に基づいて経営者が算出した金額。見積値の信頼性は、その背後にある被監査事項情報の質に依存する。

- 監査証拠 - 監査人が被監査事項情報の信頼性を評価するために収集する情報。被監査事項情報とは異なり、監査人が独立して取得する。

- 経営者の表明書 - 経営者が被監査事項情報の完全性と正確性について監査人に対して提供する正式な確認書。

- システムからの出力 - 被監査事項情報が自動的に生成される場合、監査人はそのシステムの設計と運用の効果性をテストする必要がある。

- 分析的手続 - 被監査事項情報の合理性を評価するための手法。比率分析や傾向分析を通じて、情報が予想される水準と乖離していないか確認する。

---

実務に役立つ監査の知見を毎週お届けします。

試験対策ではありません。監査を効率化する実践的な内容です。

290以上のガイドを公開20の無料ツール現役の監査人が構築

スパムはありません。私たちは監査人であり、マーケターではありません。