キーポイント

  • 特別目的財務諸表は利用者が限定されており、一般向けの報告ではない。
  • ISA 910.6は監査人に対し、当該諸表の適用会計枠組みが適切に適用されていることを確認するよう求めている。
  • 監査報告書には、当該諸表が特別目的であることと、その使用目的が明確に記載される必要がある。
  • 最も一般的な見落としは、特別目的財務諸表の監査報告書に一般的な監査報告書の言語を誤って使用することである。

仕組み

特別目的財務諸表は、通常の一般目的財務諸表とは異なるプロセスで作成される。監査人は、まず契約書、融資契約、または監督当局の指示など、その作成根拠となる枠組みを特定しなければならない。ISA 910.A2は、その枠組みが適切であり、かつ一貫して適用されていることを確認するよう指示している。
計算例として考えてみよう。企業が銀行との融資契約に基づき、特別な会計基準で財務諸表を作成する場合、監査人は以下の手順を経る。
ステップ1:適用会計枠組みの確認
監査調書には、契約条項の参照と、その条項が会計基準として適切に機能しているかの評価を記載する
ステップ2:枠組みの継続的な適用性の検査
前年度との比較により、会計方針が変更されていないか、または変更が適切に開示されているかを検証する
ステップ3:利用者限定の確認
監査報告書のドラフト段階で、当該諸表の利用者が契約当事者に限定されていることを確認する
結論:契約ベースの特別目的財務諸表は、監査の対象となるが、そのための監査報告書の言語と構成は一般的な監査報告書と大きく異なる。ISA 910のパラグラフ6から12までが、報告書の要件を詳細に定めている。

実務で見落とされやすい点

  • 監査報告書の様式の誤用:特別目的財務諸表の監査を実施しながら、一般的な監査報告書の様式を使用することがある。ISA 910.12では、報告書に「本財務諸表は特別目的財務諸表であり、一般目的には適切でない」との警告を含める必要があると定めている。
  • 利用者の範囲の不明確性:契約で「利用者」が明確に定義されていない場合、監査人が誰のために監査を実施しているのかが曖昧になり、報告書のコンテキストが失われる可能性がある。ISA 910.8で求められる利用者の特定は、単なる形式ではなく、監査の方針・手続の範囲を実質的に左右する判断である。
  • 継続企業の前提の過度な仮定:特別目的財務諸表が融資契約に基づいているため、その企業の継続性が自動的に確保されていると仮定する傾向がある。ISA 570(当該契約期間中に事象が発生した場合)との関連で、継続企業リスクの評価は別途必要である。

関連する概念

  • 一般目的財務諸表: 特別目的財務諸表と対比して理解される標準的な財務報告の形式
  • 適用会計枠組み: 特別目的財務諸表の基礎となる会計基準の選択と適用
  • 監査報告書: ISA 910に基づく特別目的財務諸表の監査報告書の構成と言語
  • 利用者の範囲: 特別目的財務諸表が対象とする利用者の定義と確認プロセス
  • 継続企業の前提: 特別目的財務諸表の作成において求められる継続企業評価
  • ISAE 3402型監査: 特別目的財務諸表と類似の限定された利用者を対象とする報告

実務例:融資契約ベースの特別目的財務諸表

架空企業「田中機械製造株式会社」(福岡市、年間売上3,500万円、従業員87名)が、地域銀行との融資契約に基づき特別目的財務諸表を作成する場面を想定する。
契約では、会計基準として「日本GAAP(中小企業会計基準)」を適用し、かつ「貸借対照表の流動比率を1.2以上に維持する」ことが融資条件とされている。
ステップ1:適用会計枠組みの特定と評価
監査人は、融資契約書のコピーを入手し、会計基準として指定されている「中小企業会計基準」が当該企業に適用可能であるかを確認する。契約では追加的に「売上計上基準は製品納入時点とする」と明記されているため、その方針が期中一貫して適用されていることを検証する。監査調書には、契約第3条の第2項による会計方針と、会計帳簿における適用状況の照合が記載される
ステップ2:利用者の限定性の確認
監査人は、当該財務諸表が融資銀行とその内部決定者のみに配布されることを契約から確認する。法人税申告書用、または公開市場向けには使用されないことを確認することで、利用者が実質的に限定されていることを立証する。監査報告書のドラフトでは、「本諸表は融資契約の履行確認を目的とし、他目的への使用は想定されていない」と明記される
ステップ3:流動比率条項の検証
融資契約で定められた流動比率1.2以上の条件が、期末時点で充足されているかを検証する。流動資産3,800万円、流動負債2,900万円の場合、比率は1.31となり、契約条件を充足している。ただし、この評価結果は監査報告書の本文ではなく、当該財務諸表を利用する際の前提条件として、報告書付属の説明文に記載される
ステップ4:継続企業評価
融資契約期間中に契約違反の事象が発生していないか、また期間終了後の契約更新の見通しが不確実でないかを評価する。融資契約が2025年度末まで継続することが確認されたため、期末現在の継続企業の前提に疑義はない。ただし、契約満期後の運転資金計画が不透明な場合は、当該不確実性が監査報告書に記載される可能性がある
結論
当該財務諸表の監査報告書は、ISA 910に基づき、利用者が融資銀行に限定されていることと、会計基準が契約に明記された中小企業会計基準であることを明確に述べている。一般的な監査報告書とは異なり、「本諸表は特別目的財務諸表である」との警告文が付記される。

関連ツール

ISA 910特別目的財務諸表監査チェックリストを使用することで、適用会計枠組みの評価、利用者の確認、報告書の検証を体系的に実施できます。ISA 910チェックリストをご参照ください。
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