Definition

正直、特別目的財務諸表(SPFS)の監査で最初に詰まるのは「報告書のひな形が一般目的監査と全然違う」ことなんですよ。監基報800(≒ISA 800/805/810)に基づく、警告文付きの報告書を出さないといけない。にもかかわらず、現場では一般目的の文言をそのまま流用した報告書がよく出てくる。入所2〜3年目の調書だと、ほぼ確実に品管レビューで引っかかるパターン。

キーポイント

- SPFSは利用者が限定されており、一般向けの報告ではない - 監基報800.6は監査人に対し、当該諸表の適用会計枠組みが状況に照らして受入可能であるかを確認するよう求める - 報告書には、当該諸表が特別目的であることと、その使用目的が明確に記載される - 最も多い見落としは、特別目的監査の報告書に一般目的の文言を誤って流用すること

仕組み

SPFSは、通常の一般目的財務諸表とは異なるプロセスで作成される。監査人は、契約書、融資契約、または監督当局の指示など、その作成根拠となる枠組みを特定する。監基報800.A2は、その枠組みが状況に照らして受入可能であり、かつ一貫して適用されていることを確認するよう指示している。

例えば、企業が銀行との融資契約に基づき、特定の会計基準で財務諸表を作成する場合、監査人は次の手順をたどる。

ステップ1:適用会計枠組みの確認 調書には、契約条項の参照と、その条項が会計基準として機能しているかの評価を記載する

ステップ2:枠組みの継続的な適用性の検査 前年度との比較により、会計方針が変更されていないか、変更されていれば開示が伴っているかを検証する

ステップ3:利用者限定の確認 監査報告書のドラフト段階で、当該諸表の利用者が契約当事者に限定されていることを確認する

契約ベースのSPFSは監査の対象となるが、報告書の言語と構成は一般目的の監査報告書と大きく異なる。監基報800のパラグラフ6から12までが、報告書の要件を細かく定めている。

実務で見落とされやすい点

- 監査報告書の様式の誤用:特別目的監査を実施しながら、一般目的の報告書様式を使う事例がある。経験上、これは最も多い指摘事項。監基報800.12は、報告書に「本財務諸表は特別目的であり、別の目的に対しては適切でない場合がある」旨の制限事項を含めるよう定めている。 - 利用者の範囲の不明確性:契約で「利用者」が明確に定義されていない場合、監査人が誰のために監査を実施しているのかが曖昧になり、報告書のコンテキストが失われる可能性がある。監基報800.8で求められる利用者の特定は、形式ではなく、監査の方針と手続の範囲を実質的に左右する判断。 - 継続企業の前提の過度な仮定:SPFSが融資契約に基づくため、企業の継続性が自動的に確保されているかのように扱う傾向がある。監基報570(当該契約期間中に事象が発生した場合)との関連で、継続企業リスクの評価は別途必要。

関連する概念

- 一般目的財務諸表: SPFSと対比して理解される標準的な財務報告の形式 - 適用会計枠組み: SPFSの基礎となる会計基準の選択と適用 - 監査報告書: 監基報800に基づくSPFSの監査報告書の構成と言語 - 利用者の範囲: SPFSが対象とする利用者の定義と確認プロセス - 継続企業の前提: SPFSの作成において求められる継続企業評価 - ISAE 3402型監査: SPFSと類似の限定された利用者を対象とする報告

実務例:融資契約ベースのSPFS

架空企業「田中機械製造株式会社」(福岡市、年間売上3,500万円、従業員87名)が、地域銀行との融資契約に基づきSPFSを作成する場面を想定する。

契約では、会計基準として「日本GAAP(中小企業会計基準)」を適用し、かつ「貸借対照表の流動比率を1.2以上に維持する」ことが融資条件とされている。

ステップ1:適用会計枠組みの特定と評価 監査人は、融資契約書のコピーを入手し、会計基準として指定されている「中小企業会計基準」が当該企業に適用可能かを確認する。契約では追加的に「売上計上基準は製品納入時点とする」と明記されているため、その方針が期中一貫して適用されていることを検証する。調書には、契約第3条第2項による会計方針と、会計帳簿における適用状況の照合を記載

ステップ2:利用者の限定性の確認 当該財務諸表が融資銀行とその内部決定者のみに配布されることを契約から確認する。法人税申告書用、または公開市場向けには使用されないことを確認することで、利用者が実質的に限定されていることを立証する。監査報告書のドラフトでは、「本諸表は融資契約の履行確認を目的とし、他目的への使用は想定されていない」と明記する

ステップ3:流動比率条項の検証 融資契約で定められた流動比率1.2以上の条件が、期末時点で充足されているかを検証する。流動資産3,800万円、流動負債2,900万円の場合、比率は1.31となり、契約条件を充足。この評価結果は監査報告書の本文ではなく、当該財務諸表を利用する際の前提条件として、報告書付属の説明文に記載

ステップ4:継続企業評価 融資契約期間中に契約違反の事象が発生していないか、期間終了後の契約更新の見通しが不確実でないかを評価する。融資契約が2025年度末まで継続することが確認されたため、期末現在の継続企業の前提に疑義はない。契約満期後の運転資金計画が不透明な場合は、当該不確実性が監査報告書に記載される可能性がある

当該財務諸表の監査報告書は、監基報800に基づき、利用者が融資銀行に限定されていることと、会計基準が契約に明記された中小企業会計基準であることを明確に述べる。一般目的の監査報告書とは異なり、「本諸表はSPFSである」との制限事項が付記される。審査担当者からも、この制限事項の文言が報告書に入っているかを真っ先にチェックされる。

関連ツール

監基報800に基づくSPFS監査チェックリストを使うと、適用会計枠組みの評価、利用者の確認、報告書の検証を体系的に実施できる。監基報800チェックリストを参照。

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