仕組み

監基報530.11はサンプルサイズ決定に影響する4つの要因を示している。第1に、監査リスク全体の受容レベルが低いほど、より大きなサンプルを必要とする。第2に、許容虚偽表示額が小さいほど(つまり、母集団に対して許容性が低いほど)、より大きなサンプル。第3に、予想虚偽表示額が大きいほど、より大きなサンプル。第4に、母集団の大きさは、一般的には小さな影響にとどまる。
これらの要因は数式的な正確さを求めない。むしろ、監査人の判断が核になる。統計的サンプリングを選択した場合でも、AICPA SOP 47(またはISAA 3530)で示される公式は出発点に過ぎず、監査人は最終的なサンプルサイズについて有責任的に決定する。非統計的サンプリングを選択した場合、監査人はこれらの4つの要因を定性的に評価し、その評価を根拠として文書化する。
監基報530.A14からA16までは、サンプルサイズ決定の各段階で監査判断の役割を説明している。

実務例:田中電機工業株式会社

クライアント概要: 中部地方の電機部品製造業者、2024年度売上12億2,000万円、従業員180名、IFRS適用。監査対象:売上債権残高の適正性。母集団:売上債権帳簿記載額3億8,500万円(件数:2,847件)。
第1段階: リスク評価の確認
監査チームは本業務の監査リスク全体を「低」と評価した。売上と回収に関する内部統制は機能しており、過年度の監査では重大な虚偽表示なし。ただし、顧客数が多いこと、および一部顧客の信用状況に変動があることから、虚偽表示リスク(ただし重大性に達しないレベル)は「中」と評価。
根拠文書化:「リスク評価シートA1:売上債権残高。内部統制評価:機能している。過年度虚偽表示:なし。虚偽表示リスク:中。」
第2段階: 許容虚偽表示額と予想虚偽表示額の設定
全体的重要性:4,500万円(売上の3.7%)。パフォーマンス重要性:3,000万円(66.7%)。個別的虚偽表示額の許容性:850万円(パフォーマンス重要性の28%)。
監査チームは過去3年度の虚偽表示額の平均を確認した。2023年度:0円。2022年度:35万円(訂正)。2021年度:0円。予想虚偽表示額:30万円(保守的に前年実績の86%に引き上げ)。
根拠文書化:「許容虚偽表示額:850万円。予想虚偽表示額:30万円(理由:過去3年度の平均0円だが、本年度は景気変動リスク考慮)。」
第3段階: サンプルサイズの決定
監基報530.A15の考え方を参考に、以下の要因を組み合わせた。
これらを定性的に評価し、母集団の2.5%~3.5%をサンプルサイズの目安とした。母集団2,847件の3%は85件。チームは80件をサンプルサイズとして決定。
根拠文書化:「サンプルサイズ決定根拠。許容虚偽表示額850万円、予想虚偽表示額30万円。虚偽表示リスク「中」。内部統制「機能」。母集団の3%目安で80件に決定。」
第4段階: サンプル抽出と検証
無作為抽出によりランダムに80件を選定。各件について、請求書、納期と納入日の照合、顧客の信用調査資料を確認。重大な例外は検出されず。計算誤りと1件の回収遅延(金額的には不重大)のみ。
根拠文書化:「サンプル検証結果。80件中79件は正常。例外1件は回収遅延(金額:12万円、個別的虚偽表示額の許容値850万円以下)。定量的・定性的に合理的。監基報530.27の結論:虚偽表示の兆候なし。」
結論
サンプルサイズ80件は、許容虚偽表示額、予想虚偽表示額、リスク評価、および内部統制の有効性評価に基づいて合理的に決定された。監査人はこの決定を事前に文書化し、サンプル検証結果に基づいて母集団全体についての結論を形成した。

  • 許容虚偽表示額(850万円)/予想虚偽表示額(30万円)の比率:28倍
  • 虚偽表示リスク評価:「中」(サンプルサイズに向かうプレッシャー)
  • 内部統制の有効性:「機能」(サンプルサイズを緩和する要因)
  • 母集団の大きさ:2,847件(統計的には中程度)

監査人が誤りやすい点

第1段階:確認されたリスク: 金融庁の監査実務指標では、サンプルサイズが虚偽表示リスク評価と乖離している事例が最も多く指摘される。たとえば、リスク評価を「高」としながらサンプルサイズが母集団の1%以下、あるいは計算根拠のない「50件」「100件」といった固定値が使われている。監基報530.11は「リスク評価に基づいてサンプルサイズを決定する」と明言している。リスク評価が「高」なら、サンプルサイズはそれに応じて拡大すべき。根拠なき固定値は防守的ではなく、単なる不合理。
第2段階:予想虚偽表示額の根拠不足: チームが「予想される誤謬はほぼゼロ」と言いながら、その根拠が過去3年度のデータではなく「経験則」や「この市場では通常」という曖昧な根拠であることが多い。監基報530.A16はこれを許容していない。予想虚偽表示額は、過去の虚偽表示実績、または統計的予測に基づく必要がある。曖昧さはその旨を明記する。
第3段階:パフォーマンス重要性との混同: 許容虚偽表示額をパフォーマンス重要性そのものと混同し、その100%をサンプルサイズ決定に使う事例がある。監基報530.11では許容虚偽表示額を「パフォーマンス重要性以下」に設定するよう求めている。その比率(通常25~50%)を明記しないと、サンプルサイズの決定基盤が不透明になる。

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