Definition

完了段階の分析的手続で、被監査会社のROAが前年6.8%から2.0%に落ちている。担当のシニアは「業界全体が悪い年でしたから」とコメントを書いて閉じた。CPAAOBの検査でこれが戻ってくる。継続企業の指標悪化を前にして、原因の追跡をせずに業界平均でならしただけの調書は、監基報570の枠組みでは持たない。

重要ポイント

> - ROAが低下した場合、資産活用の悪化か利益圧縮を示しており、監査人は原因を特定する。指標の数値だけ並べて終わらせると審査で戻る。 > - 業界平均との比較で異常値を識別し、追加監査手続のトリガーとする。比較の出所(データベース名、統計期間、企業規模の定義)を調書に書き残すこと。 > - 継続企業の前提を評価する際、ROAの悪化トレンドを見落とすとCPAAOBで指摘を受ける。監基報570の指標として位置づけられる。

仕組み

ROAは資産効率性の最も基本的な指標。計算は単純だが、解釈は専門的判断の領域。

純利益を総資産で除算する際、分子にはどの利益数値を使うか(税引後利益か営業利益か)、分母にはいつ時点の総資産を使うか(期末か期首期末平均か)の選択肢がある。監査実務では、期首期末平均総資産を分母として用いるのが標準。計画段階でROAを予測値として計算し、完了段階で実績値と比較すれば、経営効率の予期しない変動を検出できる。

流動資産の変動が大きい業種(小売業、製造業)では、期末のみの数値を使うと季節性の影響を強く受ける。この場合、四半期平均または月間平均を計算することで、より安定した分析基準が得られる。経験上、期末監査では前者で済ませる連結決算が多いが、季節性の高い業種ではこれだけだと監査調書の説明力が弱い。

計算例:田中電器工業株式会社

被監査会社: 日本の中堅製造企業、2024年度、売上高48百万円、IFRS適用企業

情報: - 2024年度純利益:4,800万円 - 2024年3月31日総資産:250百万円 - 2023年3月31日総資産:220百万円 - 業界平均ROA:6.5%

ステップ1:平均総資産の計算

(250百万円 + 220百万円)÷ 2 = 235百万円

文書化: 完了段階の分析的手続調書に、期首期末の総資産および計算過程を記載する。監基報520は完了段階で主要指標の分析的手続を実施するよう求めており、本計算がその根拠となる。

ステップ2:ROAの計算

4,800万円 ÷ 235百万円 = 2.04%

文書化: 分析結果を調書に記載し、計算根拠となった数値の出所(試算表、連結財務諸表)を示す。

ステップ3:業界平均との比較

田中電器工業のROAは2.04%であり、業界平均6.5%を大幅に下回る。

文書化: 下回る理由を追跡する。原因が一時的な製品ラインの在庫調整か、構造的な利益率低下かの判定が要る。経営者への質問および現地調査により、原因を特定する。

ステップ4:原因の絞り込み

ROAの業界平均との乖離が大きい場面では、原因として営業効率の悪化または資産構成の異常のいずれかが考えられる(一次的な会計処理の誤りも論点に入るが、これは決算チェックの段階で潰す)。2.04%という数値が合理的か、または継続企業の前提に影響を与える懸念がないかを検証する手続が要る。本音を言うと、新人時代にこの追跡を怠って審査で戻された記憶がある。指標の悪化を「業界全体が悪い」で片付けると、その一行が品管の指摘になって返ってくる。

実務者がよく誤解する点

検査指摘の傾向

公認会計士・監査審査会の検査事例では、ROA低下企業の監査において、継続企業評価の検討が形式的に留まる例が指摘される。監基報570はISA 570に対応し、継続企業の懸念を示唆する指標を識別するよう監査人に求めている。ROA悪化はその指標の一つ。簡潔な指標数値の羅列だけでなく、経営者への質問および今後の対応策の検証が要る。

計算方法の統一性欠如

期末総資産を用いるチームと期首期末平均を用いるチームが混在する。選択した計算方法を一度記載したら、複数期間で統一し、変更があれば説明可能にしておく。特に監基報530のサンプリング手続や監基報570の継続企業評価では、一貫した分析手法が前提。入所2年目くらいまでは前期の調書をコピーして方法だけ揃えがちだが、計算方法の根拠まで踏み込まないと審査で詰められる。

業界比較の根拠不明記載

「業界平均は5%程度」と記載しながら、その出所を示さない調書が多い。根拠となったデータベース、統計期間、企業規模の定義を明記し、被監査会社との比較可能性を検証する。出所のない比較は、検査で「根拠なし」と一行コメントが付く。

関連用語

- 営業利益率(Operating Profit Margin) - ROAは総資産効率を示すのに対し、営業利益率は売上高からの利益生成効率を示す - 流動比率(Current Ratio) - ROA分析と並行して、短期的な支払能力を確認する指標 - 継続企業の前提(Going Concern) - ROA悪化は継続企業リスク評価のトリガー指標 - 経営効率指標分析(Operational Efficiency Analysis) - ROAを他の効率指標と組み合わせて総合的に評価する手法 - 分析的手続(Analytical Procedures) - ROAの計算と業界比較は監基報520で求められる完了段階の手続 - 監査証拠(Audit Evidence) - ROA計算の出発数値となる財務情報の真正性、完全性の検証

メタ情報

管轄基準: 監基報520(ISA 520対応)、監基報570(ISA 570対応)

適用場面: 計画段階および完了段階の分析的手続、継続企業の前提評価、経営効率監視

関連ツール: ciferi分析的手続ワークシート(監基報520対応版)で、ROAを含む主要指標の自動計算と業界比較が可能

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