Definition
監査の繁忙期に調書を見返すと、仕訳の検証で一番多い指摘は何か。勘定科目の分類ミスでも金額の誤りでもない。承認証拠の不備。JICPAのモニタリングレポートでも、仕訳の立証が不十分な調書が繰り返し指摘されている。
ポイント
- 仕訳の分類が不正確だと、開示内容や勘定科目残高の信頼性が損なわれる - 月次決算時と期末調整時の仕訳は、証拠と承認状況の両面で検証対象になる - JICPA品管レビューでは仕訳関連の指摘が常に上位にある - 期末調整仕訳は通常の月次仕訳と比べて追跡可能性が低く、品管からも目を付けられやすい
仕訳の仕組み
仕訳は、取引の金銭的側面を2つ以上の勘定科目に振り分ける方法。複式簿記では、各取引について借方と貸方の合計が一致する。監基報320号の規定により、監査人は仕訳を検証する際、経営者による承認と基礎となる証拠(請求書、契約書など)の両方を確認する。
期末調整仕訳は監査上の問題になりやすい。監基報320号は、経営者が行った調整について根拠と承認状況を記録するよう求めている。正直、在庫評価減額や税効果会計関連の仕訳は、裏付け資料なしに計上されているケースが少なくない。調整仕訳ごとに事前承認の証拠を調書に残す。ここを飛ばすと品管で引っかかる。
仕訳の完全性も検証対象になる。すべての取引が仕訳として記録されたか、記録漏れがないか。監基報330号の実証手続で確認すべき要素の一つ。
具体例:田中工業株式会社
日本の製造業(金型製造)、2024年度、売上高9,800万円、IFRS適用。
田中工業は複数の顧客向けに月単位で請求を行っている。2024年10月、顧客からの返品があった。経営者は返品額の仕訳を11月に計上すると述べたが、月次財務諸表の締切は10月31日。
仕訳の期間性を確認する 返品は10月に発生しているため、IFRS 15号に基づいて10月の売上から控除しなければならない。経営者の提案(11月計上)は不正確。 調書メモ:返品通知の日付を確認。顧客からのメール:2024年10月24日。返品理由:寸法不一致。返品額:650万円。
仕訳内容と勘定科目を検証する 正しい仕訳は、借方「売上戻り」650万円、貸方「売掛金」650万円。 調書メモ:経営者が提示した仕訳案を確認。売上高から直接控除する方法を提案。IFRS 15号第18項に基づき、返品控除は変動対価として売上から控除される。勘定科目の分類は妥当。
承認権者の署名を確認する 経営者(山本取締役)の承認サインを仕訳承認簿で確認。日付は2024年10月28日。 調書メモ:経営者権限規程第3条により、50万円超1,000万円以下の返品は取締役の事前承認が必須。この仕訳は基準を満たしている。
根拠資料を調書に綴じる 返品通知メール、運送会社の引き取り記録、返品受け入れ確認書、経理部門の処理記録を添付。 調書メモ:4つの資料すべてが10月内の日付。完全性を確認した。
この仕訳は、取引が発生した時期に正しい勘定科目で、経営者による事前承認を得て計上されている。監査上、異議なし。
監査人が誤解しやすいポイント
仕訳が「実在する」ことと「正確に分類されている」ことは別の論点になる。経営者の承認は確認したが、勘定科目の分類までは検証していない。こういう調書は意外と多い。監基報330号第A32項は、実証手続において「項目の正当性」と「勘定科目の適切性」の両方を検証するよう求めている。
期末調整仕訳は追跡可能性が低い傾向にある。JICPAのモニタリングレポートでは、月次仕訳と異なり期末調整仕訳については承認経路が単純化されていると指摘されている。調整理由の記載なしに仕訳が計上されるケースが散見される。前年度のSALYをそのまま使い回しているケースもある。
多通貨取引における仕訳の不正確さも指摘対象。売上高が複数通貨の場合、為替換算仕訳がしばしば内容不明で計上される。換算レート、適用日、根拠となる契約。この3点を調書に明記しなければ、検証可能な仕訳とは言えない。
関連用語
- 勘定科目 は、経営者が仕訳の借方と貸方に割り当てる分類。仕訳が正しい勘定科目に振り分けられているかは、監基報320号で検証対象となる。
- 期末調整仕訳 は、通常の営業取引ではなく、会計基準に基づいて経営者が期末に計上する仕訳。監査人の検証対象として優先度が高い。
- 複式簿記 は、すべての取引が2つ以上の勘定科目に記録される会計方法。仕訳はこの原則に基づいている。
- 勘定科目残高 は、期末時点での勘定科目の合計金額。仕訳の正確性が勘定科目残高の信頼性に直結する。
- 監査証拠 は、仕訳が正当であることを立証する資料(請求書、契約書、銀行確認など)。監基報330号は監査人がこの証拠を入手する責任を定めている。
- 重要性 は、仕訳の誤りがどの程度の規模であれば財務諸表利用者の判断に影響するかを判定するための基準。個別仕訳の監査はこの重要性に基づいて実施される。
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