仕組み

IAASBは国際監査実務委員会(現在の構成は各国の監査職業団体の代表26名と、ユーザー・学識者各5名)が主体となって基準を策定する。監基報の他、国際保証基準(ISAE)、国際品質管理基準(ISQM)も所管している。
重要な点は、IAASBが公表した基準は「国際基準」にすぎず、直ちに拘束力を持たないということだ。各国の公認会計士協会が採択すれば初めて自国の標準となる。採択方法は3通りある。(1)無修正で採択する場合(オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール等)、(2)基本的には採択しつつ、自国固有の要件を追加する場合(オランダ、スペイン、イタリア等)、(3)完全に独自の基準を開発する場合(米国、カナダ、日本)である。日本の監基報は、IAASBの監基報を参考に日本公認会計士協会が独自に開発したもので、ISA番号と監基報番号は異なる。
基準改定は通常3年ごとに実施されるが、緊急性が高い場合は予定外に改定されることもある。直近では2024年にISA 240(不正)とISA 570(継続企業の前提)が改定された。改定プロセスは公開性と参与性を重視し、各国の監査実務者から意見を募る。

実践例:基準改定が自国基準に反映される過程

架空事例:Teufel Maschinenbau GmbH(ドイツの機械製造企業、売上€28M、IFRS報告者)の監査において、ISA 570 改定(2024)の適用を考える。
ステップ1:IAASBが新しい基準を公表する。2024年3月、ISA 570 改定版が公表され、継続企業の前提の評価方法が大幅に変更された。監査調書の「改定追跡」シートに、改定実施日と適用開始日を記載
ステップ2:自国の監査職業団体が採択を検討する。ドイツ監査実務委員会(Prüfungsausschuss der WPK)は、ISA 570を修正なしで採択することを決定した(2024年中)。適用開始は2026年1月の事業年度から
ステップ3:監査人は自国基準(あるいは参照基準としてのISA)に基づいて手続を更新する。従来のISA 570では、疑義事象と経営者の対応策を一体で評価していた。改定後は、まず全疑義事象をグロスベースで抽出し、その後で対応策の有効性を評価する。評価順序の変更を調書に明記し、旧ISA 570との差異を脚注で説明
結論:基準改定の反映には、通常6〜18カ月のタイムラグがある。採択を待たず、改定草案の段階で監査実務を先行させる法人も多いが、正式な採択後に改定基準を適用方針として文書化することが実務上の定着の条件となる。

監査人・検査官が誤解しやすい点

  • 勘違い1:IAASBの基準は世界共通である: 実際には、IAASBが公表した基準はあくまで「国際的な参考基準」であり、各国が採択して初めて法的効力を得る。日本の監基報がISA番号と異なるのはこのため。法的拘束力を持つのは自国の監査職業団体が公表した基準のみ。
  • 勘違い2:ISAの改定は年1回である: IAASBの改定プロセスは3年単位が標準であり、年1回の改定はない。2024年のISA 240/570改定は例外的な改定である。改定スケジュールはIAASBのWebサイトで公開されている。
  • 勘違い3:IAASBは監査法人の監督権を持つ: IAASBは基準策定機関であり、監査人や監査法人を直接監督する権限は持たない。監督権は各国の監督当局(日本の場合は金融庁、オランダの場合はAFM)が保有する。
  • 勘違い4:IAASBの基準改定はすべて同時に発効する: 基準は個別に改定され、発効日はそれぞれ異なる。ISA 600改訂版(2022年発効)とISA 315改訂版(2020年発効)のように時差がある。複数の改定を同一年度に適用する場合、改定間の相互影響を文書化する必要がある。

関連用語

  • IFAC: IAASB の親機関。国際監査人連盟で、140カ国以上の監査職業団体がメンバー
  • 監基報: 日本公認会計士協会が公表する監査基準。ISAを参考にしつつ、日本固有の要件を含む
  • 国際保証基準(ISAE): IAASB が公表する限定的保証及び合意された手続に関する基準
  • 国際品質管理基準(ISQM): 監査法人の品質管理に関する基準。ISQM 1(最高位の品質管理方針)とISQM 2(実施段階での品質確保)で構成
  • ISA の国別採択状況: 各国によって採択方法が異なる。完全採択、修正採択、参考採択の3類型がある

監査計算機ツール

IAASBの基準改定スケジュール及び各国の採択予定を追跡するツールはciferiで提供していない。ただし、自国の監査職業団体のWebサイト(日本の場合は日本公認会計士協会、スペインの場合はICAC等)で採択・改定予定を確認できる。
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