重要なポイント

  • 基本的EPSと希薄化後EPSは異なる計算方法を使用する。基本的EPSは発行済み普通株式数のみを使用する。
  • 監査人は分子(純利益)の適切性を確認し、分母(平均発行済み株式数)の計算精度を検証する必要がある。
  • 多くの実務チームは自社株買戻しの処理で株式数の加重平均計算を誤っている。
  • IAS 33.64は株式分割や無償増資が期中に行われた場合、遡及的に全期間の株式数を調整することを要求しており、この遡及調整の漏れも頻出する検査指摘事項である。

仕組み

IAS 33は1株当たり利益の計算と開示を規定している。基本的EPSの計算式は、通常、親会社の所有者に帰属する当期利益を、当期中の発行済み普通株式の加重平均数で除算する。
IAS 33第33項により、平均発行済み株式数には以下を考慮する必要がある:新規発行、自社株買戻し、株式分割。新規発行があった場合、発行日から期末までの期間に基づいて按分する。自社株買戻しは、買戻し日から期末までの日数の逆数で重み付けする。つまり、7月に1,000株を買い戻した場合、その1,000株は5か月間分の計算に反映される。
多くの企業は自社株買戻しの処理を簡便化するあまり、実際の買戻し日を無視して、期首から買戻し日までの株式数と買戻し後の株式数を単純に平均化してしまう。この方法は IAS 33.33(b) に不適合である。

具体例:田中紙工業株式会社

クライアント:日本の製紙会社、2024年度決算、IFRS適用企業。
当期利益:1,200百万円
期首発行済み普通株式数:50,000千株
4月1日に5,000千株を新規発行:発行日から期末(3月31日)まで12か月間
10月1日に3,000千株を買い戻し:買戻し日から期末まで6か月間
ステップ1:期首から買戻し前までの株式数を計算する
期首から9月30日までの9か月間:50,000千株 × (9/12) = 37,500千株相当
文書化ノート:期初から買戻し前の月別の株式数を確認し、新規発行の効果を月次で追跡。
ステップ2:新規発行の加重効果を計算する
4月1日から3月31日までの12か月間:5,000千株 × (12/12) = 5,000千株相当
文書化ノート:発行日を確認し、期末までの月数を検証。発行登録簿と現金受取を照合。
ステップ3:買戻し後の株式数を計算する
10月1日から3月31日までの6か月間:(50,000 + 5,000 - 3,000)千株 × (6/12) = 26,000千株相当
文書化ノート:買戻し履行日を確認し、支払金額と株式消却記録を対応させる。
ステップ4:加重平均発行済み株式数を計算する
加重平均 = 37,500 + 5,000 + 26,000 = 68,500千株
文書化ノート:月別の構成要素を一覧表にまとめ、合計が年間加重平均と一致していることを確認。
ステップ5:基本的EPSを計算する
基本的EPS = 1,200百万円 ÷ 68,500千株 = 17.51円/株
この計算が適切に文書化されていれば、監査人はIAS 33.33の要件を満たしていると結論づけることができる。

監査人と実務者が誤解しやすい点

  • 自社株買戻しの日付無視: 買戻し株式の加重計算で実際の買戻し日を使用せず、期首と期末の単純平均を採用するケースが多い。IAS 33.33(b)に明確に矛盾する。
  • 新規発行のタイミング検証不足: 株式発行日の記録がなく、監査人が月次決算書から推測で加重期間を決めている場合がある。発行登録簿の確認が不可欠。
  • 分子と分母の対応関係の欠如: 多くのチームは分子の利益と分母の株式数がIAS 33の同じ母集団(親会社所有者への帰属利益に対応する発行済み普通株式)を指すことを確認していない。子会社の利益が含まれていないか、優先株が混在していないか、確認が必要。
  • 株式分割の遡及調整の失念: IAS 33.64は、報告期間後に株式分割や無償増資が行われた場合でも、EPS計算の分母を遡及的に調整することを求めている。期末後イベントとして処理すべきこの調整を見落とし、比較期間のEPSが不整合になるケースがある。

基本的EPSと希薄化後EPS

基本的EPSは発行済み普通株式数のみを使用する。希薄化後EPSは、転換社債や新株予約権など、将来的に普通株式に転換される可能性のある証券を加算した場合の株式数を使用する。IAS 33.47に基づき、希薄化後EPSが基本的EPSより低い場合のみ開示する。

関連用語

  • 希薄化後1株当たり利益 転換社債や新株予約権の影響を反映したEPS。基本的EPSの下位概念。
  • 加重平均発行済み株式数 当期中の株式数の変動を期間で按分した平均値。IAS 33の要件に基づく。
  • 1株当たり利益の開示 EPS計算の背景にある仮定と変動要因の説明。
  • 純利益 EPSの分子。親会社の所有者に帰属する利益。
  • 株式分割 EPSの分母に遡及的に反映される株式数の調整。

関連するツール

ciferi EPS検証キャリキュレータは、新規発行、買戻し、株式分割を月別に入力し、加重平均株式数を自動計算する。IAS 33.33に基づいた計算ロジックで、月間の変動を追跡記録する。

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