Definition
決算期末に税金計算書を見て、「当期税金と繰延税金の境目はどこか」と迷った経験がある監査人は多いだろう。日本公認会計士協会(JICPA)の研修でも毎年取り上げられるテーマだが、実務で間違いが減らないのが現実である。
押さえるべきポイント
- 当期税金は決算日時点で法的に確定した税額。翌年の修正には含まれない - 繰延税金と異なり、将来の税務上の影響は考慮しない。「現在」のみ - 監査での最大の確認ポイントは、税務申告書との一致確認と期末時点での支払額確定 - 予定納税と確定納税の混同が現場で繰り返されている。支払キャッシュと負債計上額は別物
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仕組み
IAS 12は企業の税務負債を当期税金と繰延税金に区分する。当期税金(current tax)は、決算日までに発生した事象に対する既に確定した税額。企業会計上の利益から税務利益へ変換する過程で、会計方針と税法ルールの乖離が生じた場合、その一部は繰延税金資産(DTA)または繰延税金負債(DTL)として計上される。IAS 12第49項による定義は「当期の課税利益に対する法定税率による税額から、過去年度の脱漏租税調整および所定の税額控除を控除した額」。
法定税率は決算日時点で成立している税法に基づく。ただし、税務当局が申告書の受領から実査までの間に法改正を行い遡及適用する場合がある。当期税金の計算に遡及適用後の税率を使用するかどうかは、その遡及適用が「ほぼ確実」であるかどうかで判断する。IAS 12第34項の要求事項である。
計上額の検証は、税務申告書の下書きと最終版の比較、税務当局からの事前照会への回答確認、過去年度の更正請求結果の確認、予定納税額との差額分析の4点で行う。
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実例:ゴットヘルプ機械工業(オーストリア)
オーストリアの中堅製造業、2024年度決算、売上5,200万ユーロ、IFRS対応企業。
税務利益の確定
決算日までに経理記録から当期税務利益を計算。2024年の売上5,200万ユーロ、製造原価3,100万ユーロ、販管費860万ユーロ。税務利益は1,240万ユーロとなる。
文書化ノート:税務申告書の作成ドラフトをExcel試算表と突合し、科目別に差異を記録。減価償却や給与控除が会計と相違していないか確認。
適用税率の確定
オーストリアの2024年法定税率は23.88%。前年度以降に税率変更が公表されていないか確認する。
文書化ノート:オーストリア税務当局(Finanzamt)ウェブサイトで2024年適用税率を確認。変更なし。決算書脚注に「当期税金は税務利益1,240万ユーロに23.88%を乗じて計算」と記載。
調整項目の識別
前年度までの未確定な税務調整(過去年度の更正請求が未済の場合)の影響がないか確認。2023年度の税務実査結果から追加納税請求がないことを確認した。
文書化ノート:前年度実査指摘事項の一覧表から、当期に影響するものはないこと確認。契約書上の条件変更に伴う過去年度遡及調整は、税務当局の通知がないため計上せず。
当期税金として負債計上する額は1,240万ユーロ × 23.88% = 約296万ユーロ。翌年度の税務申告時にこの額で確定するため、期末時点での不確実性はない。
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監査人と実務者がよく誤るポイント
繰延税金との混同が最も多い。IAS 12第49項は繰延税金を将来の税率変更が見込まれる場合の調整として定義している。決算日時点で確定していない税額は当期税金ではない。過去年度の税務実査で追加納税が生じた場合、これは過年度税金(prior period tax)であり、当期税金の修正ではなく比較期間の再表示対象になる場合がある。CPAAOB(公認会計士・監査審査会)の2024年度検査結果でも、税務科目の区分誤りが指摘された。
予定納税と確定納税の混同も繰り返される。当期に支払った予定納税額は、当期税金負債を計算するための支払キャッシュにすぎず、当期税金の額そのものとは別物。負債として計上する額は法的に確定した総額で、支払い進捗は別途管理する。正直、この区別を意識せずに調書を書いているケースが現場では少なくない。
過去年度の申告漏れについて企業が自発的に更正申告した場合も落とし穴がある。その更正は通常、当期損益に影響しない(多くの国で過年度税金調整の枠内で処理)。ただし金額が極めて大きい場合は当期の開示要件に該当する。IAS 12第88項が修正税法の影響を「異常項目」として開示対象に指定しており、調書でこの判断を省略すると審査で差し戻しになりやすい。
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繰延税金との比較
| 観点 | 当期税金 | 繰延税金 |
|---|---|---|
| いつ確定するか | 決算日までに確定済み | 将来の税率変更・時間差に基づく見積もり |
| 根拠 | 決算日時点の税法および実績 | 将来の利益流出予想および税率 |
| IAS 12の条項 | 第5項、第49項 | 第34項、第58項 |
| 監査手続 | 税務申告書の最終版との突合 | 税率変更の政治動向確認、DTA/DTLの回収可能性判定 |
| 期末評価 | 修正の余地はほぼゼロ | 税率変更により大幅に変動する可能性 |
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監査人が見るべき実施手続
1. 税務申告書の最終版取得。決算日から2~3ヶ月以内に企業が作成する下書き申告書を入手し、公式提出版との差分を記録する。
2. 法定税率の確認。決算日時点で成立している税法と照合し、過去12ヶ月間に税率改正がないか調べる。改正がある場合、遡及適用の有無も論点になる。
3. 過去年度の更正結果レビュー。直近3年間の税務実査指摘が当期に影響する調整を含んでいないことを文書化。
4. DTA(繰延税金資産)の影響チェック。DTAを計上している企業では、当期税金の計算過程で未使用の損失控除が残っていないか確認する。IAS 12第34項の要求事項。
5. 開示要件の確認。当期税金を構成する要素(法定税率と実効税率の差、過年度調整、税額控除)がIAS 12第88項に基づき脚注に反映されているか突合する。
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関連用語
- 繰延税金資産: 当期税金を支払った後に、将来の利益で回収される見込み額の先払い認識 - 税務対象利益: 企業会計上の利益から税務上の調整項目を加減して得た、税務申告の基礎となる額 - 実効税率: 法人税、地方税、その他の税金を合わせた総額を利益で除した比率。IAS 12第88項で開示義務あり - 過年度税金調整: 前期以前に帰属する所得に対する当期の税務追加納付または還付 - 法定税率: 決算日時点で成立している法律に基づく公式な税率 - 税務リスク評価: 税務当局による実査リスクをもとに、当期税金の過少計上リスクを評価する手続
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