主要なポイント

比較数値は前期全体の数値であり、抜粋ではない。前年度末の残高試算表から直接導き出す。
監基報540では、比較数値が「対応数値」か「純粋な比較情報」かで監査アプローチを分ける。
比較数値が前期の監査報告書で修正提案を受けていれば、当期の発見と矛盾していないか確認が必須。
多くの監査法人は比較数値の再テストを省略するが、期中変動の正当性が説明できなければ不十分。

仕組み

被監査会社が財務諸表を作成する際、前期の残高が自動的に当期の開始残高になり、比較数値として表示される。監基報540.7は、この比較数値が新規の虚偽表示リスクをもたらすかどうかを判断するよう求めている。
比較数値には2つのタイプがある。第1は「対応数値」である。これは前期の監査報告書がカバーした完全な財務諸表の一部であり、その期間の監査ファイルに証拠が存在する。第2は「純粋な比較情報」である。摘要や業種別セグメント情報など、前期の監査対象ではない追加情報を指す。対応数値と純粋な比較情報では、監査人の責任が異なる。
対応数値については、監基報540.A2により、前期に実施した手続を新たに実施する必要はない。ただし、当期の残高と調整内容を検証すれば、比較数値の正確性が確認できるはずである。仕訳帳から開始残高への転記、期中の変動、期末残高への到達: この一連のフローを追える証拠があれば、対応数値は支持される。
純粋な比較情報については、監基報540.A3により、それが前期の監査の対象外であったとしても、当期の監査で新規の虚偽表示リスクがないかを判断しなければならない。たとえば、前期は売上高の業種別内訳を開示していなかったが、当期は開示する場合、その内訳が前年度の実績と一致しているか検証する責任が生じる。

実例:コンサルティング・ソリューションズ・ジャパン

クライアント:東京を本拠地とする経営コンサルティング会社。2024年3月期決算、売上高8,500万円、IFRS採用企業。
段階1:前期の残高を特定する
前年度(2023年3月)の監査ファイルから、売掛金の期末残高を確認した。2023年3月31日時点で2,400万円。当期の財務諸表でも、比較数値として2,400万円が表示されている。
文書化ノート:監査ファイルの「売掛金リスト」シートに2023年3月31日時点の2,400万円と記載。当期の開始残高試算表と金額が一致するか、総勘定元帳の実行日を確認。
段階2:期中の変動を確認する
2024年3月期間中、売掛金は2,400万円から3,100万円に増加した。振替伝票から、売上計上3,800万円、回収2,100万円であることが分かった。計算:2,400万円 + 3,800万円 - 2,100万円 = 4,100万円。試算表の3,100万円と乖離している。
文書化ノート:振替伝票レジスタのフィルタで売掛金関連仕訳を抽出。回収額の計上漏れまたは架空売上が疑われるため、売上帳と領収書のマッチングをESAレベルで実施することに決定。
段階3:乖離の原因を特定する
帳簿をたどると、返品400万円が期末に振り戻されていなかった。修正後の売掛金は3,100万円となり、試算表と一致した。この返品は前期中に顧客から指摘されていたが、担当者の誤りにより記帳されていなかった。
文書化ノート:返品伝票のコピーを監査ファイルに貼付。当期の調整で返品を計上し、前期の対応数値を「前期の実績に基づく」と記録。このような前期の漏れは当期の虚偽表示ではなく、前期の修正を必要としない。
結論
比較数値である売掛金2,400万円は、当期の開始残高として正確に表示されていた。期中の変動の根拠も、追認可能な証拠によって支持されている。ただし前期の返品漏れが当期で明らかになった以上、期末の売掛金3,100万円は「前期比較による歴史的重要性が低い」変動ではなく、「当期の修正に反映した正確な数値」として記録される。

レビューイと実務家がやりやすい誤り

  • 前期の残高が当期の開始残高と自動的に一致していると仮定する: 監基報540.7.aにより、監査人は比較数値が正確に転記されたかを自分で確認する責任がある。システム連携では誤りがないと思い込まない。特に返品、調整、振替がある場合、総勘定元帳と試算表が一致していても、当期の開始残高が前期の期末残高と正確に合致しているか、手作業で突き合わせることが必須。
  • 対応数値と純粋な比較情報の区別なく、すべての比較数値に同じテストを適用する: 監基報540.A2とA3は、この区別を根拠に監査範囲を変えるよう指示している。売上高・営業費用などの対応数値については、前期の監査証拠(控除対象仕訳、実行テスト等)で支持されているため、新たに全額テストする必要はない。しかし業種別セグメント情報など、前期は開示していなかった項目は、当期で新規に追加された場合、その前年度の計数が現在の帳簿記録と一致しているかを確認する責任が生じる。
  • 期中の変動の根拠を追認しない: 比較数値は「過去の事実」だが、その数値が正確であることを示す証拠は「当期の帳簿」にしかない場合が多い。前期の監査ファイルに売掛金の期末残高明細表があっても、当期の開始残高試算表、総勘定元帳、残高リストと一連でつながっているか確認しなければ、転記誤りやシステム移行時の落ち込みを見逃す。

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