Definition
確認状を送ったのに返ってこない。繁忙期の売掛金テストで、統計サンプル28件中2件が未回答。「確認不可」と調書に書いて先に進みたい気持ちは分かるが、それでは金融庁の検査で指摘される。
主な要点
- 統計サンプル内の選定項目について通常の手続が実施できない場合、代替手続は必須。実施しなければサンプル全体に対する監査上の結論を形成できない。 - 代替手続の結果がなければ、金融庁のモニタリング対象になる。固定資産と売掛金のテストで指摘が多い。 - 代替手続の有効性は入手可能な証拠の質に完全に依存する。入手不可能な証拠の代替となるものは監基報では認められていない。
仕組み
監基報第501号.12は、統計サンプルのうち確認を取得できなかった項目について、監査人が「入手可能な他の証拠」に基づいて妥当な結論を得るよう求めている。
ここでの「入手可能な他の証拠」は、本来の手続と同等の信頼度をもつものに限定される。売掛金の積極的確認が得られなかった場合、その後の入金記録、請求書、配送証拠を組み合わせることで債権の実在性を検証できる。しかし残高確認書を再送付するだけでは代替手続の要件を満たさない。単なる再送付は本来の手続の繰り返しにすぎないからだ。代替手続は複数の情報源から構成される能動的な検証プロセスでなければならない。
監基報第501号.13は、固定資産についても同様の要件を定めている。購入価格の確認が不可能な場合、購入時の請求書、銀行振込記録、資産の現物確認により取得原価を立証できる。各情報源の矛盾をチェックし記録との一致を確認することが代替手続の中核となる。
代替手続の実施が不可能であれば、その項目に対する監査上の結論は形成されない。統計サンプルでは結論未形成の項目が母集団全体の評価に直接影響を与える。サンプルサイズ、選定方法、評価方式のいずれも変更が必要になるだろう。代替手続なしにサンプル結論を形成することは監査基準の違反である。
実例:株式会社メディアコンサルティングの売掛金テスト
クライアントは日本の通信コンサルティング会社、2024年度決算、売上40億円、IFRS適用。売掛金残高は8,500万円、月平均売上は3.3億円。統計サンプリングで225件中28件を選定した。
確認送付
28件中26件から肯定的確認を得た。2件は確認が返戻されず、発送先住所も不明であった。
文書化メモとして確認送付リスト(ファイル:確認状況リスト_2024年3月)に回答可否を記録。住所確認は通信会社のシステムから2024年2月の最終確認アドレスを使用。
返戻2件の後続追跡
返戻2件はいずれも関連する国の顧客。確認請求書の送付形式に問題がある可能性を確認したが、原因は住所変更未報告だった。
代替手続の実施
確認が得られなかった2件について以下の手続を実施。
第1件(未確認取引額:220万円) - 請求書の再確認として2024年1月15日付請求書(コンサルティング費用)を帳簿と照合。 - 入金確認として2024年2月28日の銀行振込で220万円を確認。振込人名義が顧客名と一致。 - 履行確認としてコンサルティング契約書(2023年12月締結)と月次業務報告書により当月のサービス提供を確認。
文書化メモとして銀行取引明細ファイル(2024年2月)、請求書ファイル(2024年1月)、契約書ファイル(2023年)を参照。
第2件(未確認取引額:185万円) - 請求書の再確認として2024年1月22日付請求書(システム導入支援費用)を帳簿と照合。 - 入金予定確認として顧客との通信記録(メール2024年1月30日付)で2月10日までに入金予定であることを確認。 - 実入金確認として2024年2月9日の銀行振込で185万円を確認。
文書化メモとして顧客とのメール通信(ファイル:顧客通信_2024年1月)、銀行振込記録(2024年2月9日)を参照。
結論
代替手続により、確認が得られなかった2件についても実在性・妥当性が確認された。複数の情報源(請求書、銀行記録、契約書、通信記録)から構成される代替手続の結果は、原則的な確認手続と同等の信頼度を有する。サンプル全体28件に対する監査上の結論を形成することが可能である。
監査人および検査当局が誤解する点
- 金融庁は2024年度モニタリングレポートで、固定資産のテストにおける代替手続の未記録を指摘した。確認が不可能な場合に「確認不可」と記載するだけでは不十分であり、代替手続を実施してその結果を文書化する必要がある。経験上、入所して最初の繁忙期にこの文書化漏れをやりがちなんですよ。先輩の調書をSALYで引き継ぐと「確認不可→除外」となっていることがあり、それをそのまま踏襲してしまう。
- 監基報第501号.12の「入手可能な他の証拠」は、複数の情報源から構成される能動的なプロセスを要求している。「代替手続として残高確認書の再送付を試みた」と記載する場合、これは代替手続ではなく本来の手続の繰り返しにすぎない。別の情報源からの証拠を組み合わせることが必須である。
- 代替手続を実施しても、各ステップの論理的つながりが不明確なケースがある。入金記録は確認したが請求書との照合や契約書による履行確認がないまま「代替手続を実施した」と結論付けるのは文書化上の不備だ。各ステップの根拠と情報源を明示することが品管レビューでも審査でも重視される。
関連用語
- 監査証拠: 監査人が形成した結論の支持に必要な情報。代替手続で入手される証拠も監査証拠として評価される。 - 統計サンプリング: サンプル内の項目に対して本来の手続が実施できない場合、代替手続の検討が必須。 - 売掛金の確認: 本来の手続として実施されるが、確認が得られない場合に代替手続が必要となる。 - 固定資産監査: 購入価格や取得日時の確認が不可能な場合、複数の証拠源から代替手続を構成する。 - リスク評価手続: 計画段階でのサンプル対象項目の事前評価により、代替手続が必要な項目を特定できる。 - 監査手続の設計: 代替手続は事前に計画段階で想定されるべき手続であり、事後的な追加ではなく監査計画に組み込まれるべきである。
ツール
ciferiの「ISA 501 監査証拠チェックリスト」を使用すれば、代替手続が必要な項目を特定し、実施結果を体系的に記録できる。売掛金、固定資産、在庫の各区分ごとに代替手続の要件を確認することが可能だ。
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