主な要点

  • 統計サンプル内の選定項目について、通常の手続が実施できない場合、代替手続は必須。実施しない場合は、サンプル全体に対する監査上の結論を形成できない。
  • 代替手続の結果がなければ、金融庁のモニタリング対象になる。特に固定資産および売掛金のテストで指摘が多い。
  • 代替手続の有効性は、入手可能な証拠の質に完全に依存する。入手不可能な証拠の代わりになるものは、監基報では認められない。
  • 代替手続の結果は、本来の手続と同等の信頼度をもつ場合にのみ有効。複数の情報源から構成されない単独の代替証拠では、監基報501号の要件を満たさない。

仕組み

代替手続とは、本来の監査手続が実施できないときに適用される精密な代替手段である。監基報第501号.12は、統計サンプルのうち確認を取得できなかった項目について、監査人が「入手可能な他の証拠」に基づいて妥当な結論を得るよう求めている。
ここでの「入手可能な他の証拠」は、本来の手続と同等の信頼度をもつものに限定される。例えば売掛金の積極的確認が得られなかった場合、その後の入金記録、請求書、配送証拠を組み合わせることで、債権の実在性を検証できる。しかし単に残高確認書を再送付するだけでは、代替手続の要件を満たさない。代替手続は、複数の情報源から構成される能動的で意図的な検証プロセスでなければならない。
監基報第501号.13は、固定資産についても同様の要件を定めている。購入価格の確認が不可能な場合、購入時の請求書、銀行振込記録、資産の現物確認により、当該資産の取得原価を立証できる。各情報源の矛盾をチェックし、記録との一致を確認することが、代替手続の中核である。
代替手続の実施が不可能である場合、その項目に対する監査上の結論は形成されない。統計サンプルでは、そのような結論未形成の項目は、母集団全体に対する評価に直接的な影響を与える。サンプルサイズ、選定方法、評価方式のいずれもが変わってくる。代替手続なしにサンプル結論を形成することは、監査基準の違反である。

実例:株式会社メディアコンサルティングの売掛金テスト

クライアント: 日本の通信コンサルティング会社、2024年度決算、売上40億円、IFRS適用
売掛金残高は8,500万円。売上は月平均3.3億円。統計サンプリングで225件中28件を選定。
ステップ1:確認送付
28件中26件から肯定的確認を得た。2件は確認が返戻されず、また発送先住所が不明であった。
文書化メモ:確認送付リスト(ファイル:確認状況リスト_2024年3月)に、回答可否を記録。住所確認は通信会社のシステムから2024年2月の最終確認アドレスを使用。
ステップ2:返戻2件の後続追跡
返戻された2件は、いずれも関連する国の顧客。確認請求書の送付形式に問題がある可能性を確認したが、原因は住所変更未報告。
ステップ3:代替手続の実施
確認が得られなかった2件について、以下の手続を実施。
第1件(未確認取引額:220万円)
文書化メモ:銀行取引明細ファイル(2024年2月)、請求書ファイル(2024年1月)、契約書ファイル(2023年)を参照。
第2件(未確認取引額:185万円)
文書化メモ:顧客とのメール通信(ファイル:顧客通信_2024年1月)、銀行振込記録(2024年2月9日)。
結論
代替手続により、確認が得られなかった2件の取引についても、実在性および妥当性が確認された。複数の情報源(請求書、銀行記録、契約書、通信記録)から構成される代替手続の結果は、原則的な確認手続と同等の信頼度を有する。したがってサンプル全体28件に対する監査上の結論を形成することが可能である。

  • 請求書の再確認:2024年1月15日付請求書(商品:コンサルティング費用)を帳簿と照合。
  • 入金確認:2024年2月28日に銀行振込で220万円を確認。振込人名义が顧客名と一致。
  • 履行確認:コンサルティング契約書(2023年12月签署)および月次業務報告書により、当月のサービス提供を確認。
  • 請求書の再確認:2024年1月22日付請求書(商品:システム導入支援費用)を帳簿と照合。
  • 入金予定確認:顧客との通信記録(メール2024年1月30日付)において、2月10日までに入金予定であることを確認。
  • 実入金確認:2024年2月9日に銀行振込で185万円を確認。

監査人および検査当局が誤解する点

  • 第1層:検査指摘 金融庁は、2024年度モニタリングレポートにおいて、固定資産のテストで代替手続が記録されていない事例を指摘した。確認が不可能な場合、「確認不可」と記載するだけでは不十分。代替手続を実施し、その結果を文書化することが求められる。
  • 第2層:基準指摘的誤り 監基報第501号.12は「入手可能な他の証拠」という表現を使う。ここでいう「証拠」は、複数の情報源から構成される能動的なプロセスを要求する。監査人が「代替手続として、残高確認書の再送付を試みた」と記載する場合、これは代替手続ではなく、本来の手続の繰り返しにすぎない。別の情報源からの証拠を組み合わせることが必須である。
  • 第3層:実務的な書類化の欠落 代替手続を実施したが、各ステップの論理的つながりが不明確である場合がある。入金記録は確認したが、請求書との照合、契約書による履行確認がないまま、「代替手続を実施した」と結論付けることは、文書化上の不備である。各ステップの根拠と情報源を明示することが、金融庁の検査でも重視される。
  • 第4層:代替手続の事前計画の不在 監基報505号は確認が得られない場合の対応を事前に計画段階で検討するよう求めている。確認が返戻されてから慌てて代替手続を設計するのではなく、サンプリング計画時点で代替手続の手順を予め文書化しておくことで、手続の一貫性と品質が向上する。

関連用語

  • 監査証拠: 監査人が形成した結論の支持に必要な情報。代替手続で入手される証拠も、適切に評価されるべき監査証拠である。
  • 統計サンプリング: サンプル内の項目に対して本来の手続が実施できない場合、代替手続の検討が必須。
  • 売掛金の確認: 本来の手続として実施されるが、確認が得られない場合に代替手続が必要となる。
  • 固定資産監査: 購入価格や取得日時の確認が不可能な場合、複数の証拠源から代替手続を構成する。
  • リスク評価手続: 計画段階でのサンプル対象項目の事前評価により、代替手続が必要な項目を特定できる。
  • 監査手続の設計: 代替手続は、事前に計画段階で想定されるべき手続。事後的な追加ではなく、監査計画に組み込まれるべき。

ツール

ciferiの「ISA 501 監査証拠チェックリスト」を使用すれば、代替手続が必要な項目を特定し、実施結果を体系的に記録できます。売掛金、固定資産、在庫の各区分ごとに、代替手続の要件を確認することが可能です。
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