この記事で理解できること

- 監基報700(改訂版)に準拠した監査報告書の構造 - 各段落の記載要件と具体的な表現方法 - KAM該当事項の有無に応じた段落配列の変更点 - CPAAOBの品質管理レビューで指摘されないための文書化のポイント

目次

監査報告書の必須構成要素

基本的な段落構成

監基報700.20は監査報告書に含めるべき要素を定めている。標題、宛名、意見、意見の根拠、経営者責任、監査人責任、監査人の署名、監査人の住所、監査報告書日付。これらの要素は条文で規定された順序で配列しなければならない。

意見段落は監査報告書の冒頭に配置する。監基報700.25では、意見段落で財務諸表の記載内容を特定し、適用された財務報告の枠組みを明記するよう求めている。「株式会社田中製作所の2024年3月31日現在の財政状態計算書並びに同日をもって終了する事業年度の損益計算書、株主資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書について監査を実施した」という形式になる。

意見の根拠段落は意見段落の直後に置く。監基報700.28では、この段落で監基報200に準拠して監査を実施した旨を記載し、監査人の独立性を確認し、監査証拠が意見の根拠として十分かつ適切である旨を記述するよう求めている。KAM該当事項がある場合は、この段落でKAMへの参照も含める。ここの参照が抜けると、審査で差し戻される。

KAM該当事項による構成の変化

監基報701.13では、KAM該当事項がある場合の段落配列を定めている。KAMは経営者責任段落の直前に配置する。意見、意見の根拠、KAM、経営者責任、監査人責任。この順序。

KAM該当事項がない場合はどうか。法令等でKAMの報告が要求されない監査でKAM該当事項がない場合、KAM関連の記載は一切行わない。監基報701.16がこの取扱いを定めている。「該当事項なし」の段落を設けるのは誤り。

実務適用例

佐藤鉄工株式会社(資本金8,000万円、売上高15億円、製造業)の2024年3月期監査でKAM該当事項が1件あった。収益認識における長期請負工事の進捗度測定。監査報告書の構成は以下のとおりである。

1. 標題

「独立監査人の監査報告書」と記載する。

2. 宛名

「佐藤鉄工株式会社 取締役会御中」と記載する。

3. 意見

「当監査法人は、佐藤鉄工株式会社の2024年3月31日現在の貸借対照表、同日をもって終了する事業年度の損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算書...について監査を実施した。」適用会計基準として企業会計原則並びに企業会計基準等を明記する。

調書での確認ポイント:適用基準の記載に誤りがないか決算整理仕訳帳で再確認する。

4. 意見の根拠

「当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施した。」独立性の確保について言及し、KAMへの参照を含める。

調書での確認ポイント:独立性確認書の日付と意見形成日との整合性を確認する。

5. 監査上の主要な検討事項(KAM)

収益認識について記載する。「長期請負工事の進捗度測定には経営者による見積りが含まれるため」という理由と、実施した監査手続を具体的に記述する。

本音を言うと、KAMの記載で一番苦労するのは、監査手続の具体性と守秘義務のバランスである。抽象的すぎると意味がなく、具体的すぎるとクライアントから懸念が出る。調書との対応関係を整理しながら、開示可能な範囲を慎重に判断するしかない。

6. 経営者責任

企業会計基準等に準拠した財務諸表の作成責任について記載する。

7. 監査人責任

監基報200の要求事項に基づく責任について記載する。

この構成により監基報700(改訂版)に準拠した監査報告書が完成する。KAMの配置と意見の根拠段落での参照が正しく行われていれば、品質管理レビューで段落構成を指摘される可能性は低い。

実務チェックリスト

1. 意見段落が監査報告書の冒頭に配置されているか確認する(監基報700.25) 2. KAM該当事項がある場合、意見の根拠段落にKAMへの参照文言を含めているか確認する(監基報701.13) 3. KAMが経営者責任段落の直前に配置されているか確認する(段落の配列順序は条文のとおり厳格に従う) 4. 適用された財務報告の枠組みが正確に記載されているか確認する(会社法、企業会計基準等の該当する基準を明記) 5. 監査人の署名、住所、日付が監基報700.46の要件を満たしているか確認する(形式要件の不備は最も指摘されやすい) 6. 監査報告書の各段落が監基報700(改訂版)の配列順序に従っているか最終確認する(一つでも順序の誤りがあれば全体が不適合)

よくある間違い

段落の配列順序の誤りが目立つ。2016年改訂前の旧形式(監査人責任が経営者責任より前)で作成しているケースがある。テンプレートを更新せずに使い回している事務所に多い。

KAM該当事項がない場合に「該当事項なし」の段落を設けるのも誤り。法令要求がない監査でKAM該当事項がないなら、KAM段落自体を記載しない。

意見の根拠段落でのKAM参照の欠落も散見される。KAM該当事項があるにも関わらず意見の根拠段落で参照していないケース。これは審査で確実に指摘される。

関連情報

- 監査報告書テンプレートでは監基報700(改訂版)対応の標準的なひな型を掲載している - 監査上の主要な検討事項(KAM)ガイドでKAMの識別から文書化までを解説 - 品質管理レビュー対策チェックリストで監査報告書関連の指摘事項防止策を確認できる

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