目次

1. 監基報260の基本要件とガバナンス担当者の特定 2. 監査上の事項の判定と伝達 3. 独立性とその他の倫理的要求事項の報告 4. 伝達方法と時期の決定 5. 実務適用例:製造業子会社の場合 6. 文書化とレビュー対応

監基報260の基本要件とガバナンス担当者の特定

ガバナンス担当者とは誰か

監基報260.10(a)の定義は「企業の戦略的方向性の監督、義務履行と説明責任に関連する監督責任を負う者」。日本の会社法にそのまま当てはめられる定義ではない。機関設計ごとの読み替えが必要になる。

取締役会設置会社なら取締役会が該当する。ただし監査役会設置会社の場合、会計監査の監督責任は監査役会にある。報告先は監査役会。委員会設置会社なら監査委員会。正直、ここまではシンプル。問題は次の段落。

会社の規模で判定が分かれる

監基報260.A2は、中小企業ではガバナンス担当者が経営者と同一になりうると認めている。オーナー社長が取締役会も兼ねているケース。この場合、所有者が別に存在するかを確認する。株主総会での報告が必要になることもある。

上場企業と大規模会社では、監査役会か監査委員会への報告が原則となる。ただし監基報260.A7は、監査戦略の全体像については経営者への伝達も求めている。伝達義務は二重に発生する。

持株会社の子会社はどうするか

現場で迷うのがこのパターン。子会社の監査役に報告するのか、親会社のガバナンス担当者に報告するのか。監基報260.13は「監査業務を実施する企業のガバナンス担当者」と定めている。子会社の監査役が第一義的な報告先。親会社への直接報告は原則として不要。

監査上の事項の判定と伝達

260.16が求める伝達事項

監基報260.16は2種類の伝達を求めている。

1つ目は監査人の責任に関する事項(260.16(a))。独立性の確認、財務諸表監査の目的と範囲、虚偽表示の発見・修正に関する責任の所在、そして内部統制の限界についての説明。

2つ目は計画された監査の範囲と時期(260.16(b))。重要性の基準値(計算過程の詳細は不要)、リスクが高い領域、内部統制の評価手法を含む。

任意だが品管で問われる事項

監基報260.A18-A22は、いくつかの追加事項の伝達を検討するよう示している。

監基報265に基づき識別された内部統制の不備がある。軽微な不備の個別報告は不要だが、集積的な影響は考慮する。監査証拠の入手における制限、経営者との見解の相違、その他監査の実施を困難にした事象も伝達の検討対象。品管レビューでは「なぜ伝達しなかったのか」の説明を求められることがある。伝達するかどうかの判断根拠を調書に残すのが安全。

いつ伝達するか

監基報260.21は「適時の伝達」を求めている。具体的な時期は監査の性質と緊急性による。

監査開始時に範囲と手法の概要を説明する。監査の途中で内部統制の不備を発見したら、発見次第伝達する。完了段階では監査上の発見事項と修正されない虚偽表示を報告。繁忙期に入ってから慌てて連絡するのではなく、年間を通じた計画が前提。

独立性とその他の倫理的要求事項の報告

260.17の独立性報告

監基報260.17は独立性に関する伝達を求めている。上場会社の場合、職業倫理規則に従った独立性要求事項への準拠を書面で確認し、独立性に影響しうる全ての関係性を報告し、識別された脅威へのセーフガードを説明し、独立性維持の結論を述べる。

非上場会社では、監基報260.A27により、公共の利益に関連する会社は上場会社と同様の報告が必要。それ以外の会社では報告対象を限定できる。

独立性で見落としやすい論点

金銭的利害関係は比較的わかりやすい。監査チームメンバーと事務所の直接的・間接的な金銭的利害を確認する。株式保有と債券投資に加え、銀行監査の場合は預金口座も対象となる。

見落としが多いのは非監査業務の報告。業務内容と報酬の概算額だけでなく、独立性への影響評価まで含める。監基報260.A31は報酬額の詳細よりも影響評価を重視している。

主要な監査パートナーの関与期間と交代予定も伝達の対象。上場企業では5年での交代義務がある。

伝達方法と時期の決定

書面か口頭か

監基報260.18は口頭と書面の両方を認めている。ただし書面が求められる場面がある。独立性の確認書(上場企業)、修正されない虚偽表示の概要、そして内部統制の不備報告。

口頭でよいのは監査計画の概要説明、軽微な発見事項の共有、進捗の中間報告。口頭であっても記録は残す。この点は次のセクションで扱う。

一方通行の報告で終わらせない

監基報260.A4は双方向のコミュニケーションの意義を強調している。ガバナンス担当者からの情報が監査に役立つ場面は多い。会社環境に対する認識、内部統制の設計・運用に関する見解、不正リスクへの懸念、取締役間の議論の内容。こうした情報はリスク評価の質を変える。報告義務を果たすだけの場にしてしまうのはもったいない。

実務適用例:製造業子会社の場合

会社概要:田中精密工業株式会社

資本金50百万円、従業員120名、売上高2,800百万円(前期2,600百万円)。親会社は東京都の上場企業で持株比率70%。機関設計は監査役設置会社(監査役3名、うち社外監査役2名)。

ガバナンス担当者の特定

まず機関設計を確認する。監査役設置会社のため、会計監査の監督責任は監査役会にある。取締役会ではなく監査役会が報告先。調書には「監査役設置会社、監査役3名。会計監査の監督責任は監査役会」と記載する。

次に親子関係の考慮。親会社は上場企業だが、監査契約は子会社と締結している。監基報260.13により報告先は子会社の監査役会。「親会社への報告は子会社監査役会経由。直接報告は不要」と記録する。

何を伝達するか

親会社が上場企業のため、非上場の子会社であっても監基報260.A27に基づき上場企業準拠の独立性報告を実施する。ここを見落とす事務所が少なくない。

監査上の事項としては、売上高の期末カットオフテスト(3月売上の一部が4月計上されていた可能性)、在庫評価(滞留在庫の評価損計上の妥当性)、関連当事者取引(親会社からの業務受託料の移転価格)、固定資産の減損兆候の4点を伝達対象とした。

伝達の実施

11月の監査開始時に、監査役会へ監査計画の概要を口頭で説明する。重要性の基準値を28百万円(税引前利益の5%)に設定した根拠を示す。監査役会議事録の写しを入手し、監査ファイルに保存。

2月には在庫実査で発見した滞留品について、評価損の要否を経営者と協議中である旨を監査役会へ報告する。

5月の完了段階で、修正されない虚偽表示1件(固定資産除却損の計上時期、金額2.5百万円)を書面で報告。基準値を下回る金額だが、質的な影響を考慮して報告対象とした。

文書化とレビュー対応

260.23が求める文書化

監基報260.23は伝達の記録を求めている。伝達日と方法(口頭か書面か)、伝達先の個人名または役職、伝達内容の要約。口頭伝達の場合は参加者名、主な論点、ガバナンス担当者からの質問とその回答まで記録する。

実務上の記録方法

定型的な伝達は、監査計画書のガバナンス担当者向け要約版を作成し、説明に使い、記録としてファイルする。非定型の伝達はメモまたはレターに残す。審査でも確認される事項なので、事後的な再現が可能な水準で書く。

品管レビューで見られる観点

レビュアーは4つの点を確認する。

会社のガバナンス構造に応じた報告先が選択されているか。監基報260.16の必須事項がすべて伝達されているか。監査の進行に応じて適時に伝達されているか。何を、いつ、誰に、どう伝達したかが調書上で追跡できるか。経験上、4番目の追跡可能性が最もよく指摘される。伝達はしたが記録がない、という状態。

実務チェックリスト

1. 会社の機関設計を確認し、監基報260.13に従ってガバナンス担当者を特定する 2. 監基報260.16の必須伝達事項(独立性、監査責任、監査範囲、内部統制の限界)を網羅する 3. 上場企業または公共の利益に関連する会社では、独立性の書面確認を行う 4. 修正されない虚偽表示がある場合は書面で報告する 5. 口頭での伝達についても参加者・論点・回答を記録する 6. ガバナンス担当者からの質問や懸念への対応内容を記録する

よくある間違い

監査役設置会社で取締役会に報告してしまうケースが典型。監査役会への報告が必要になる。

非上場企業で親会社が上場している場合の独立性確認漏れも頻発する。監基報260.A27の要件を見落とすパターン。

口頭で伝達した事項の文書化が不十分なケースは、品管レビューの定番指摘。

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