重要なポイント
- は各業務においてTCWGの識別と文書化を求めている
- オーナー経営企業ではTCWGと経営者が同一人物でもよいが兼任の記録が必要である
- 重要な監査事項は書面でTCWGに伝達する( )
仕組み
ISA 260.10は、監査人がTCWGとして適切な者を識別するよう求めている。識別の判断は企業のガバナンス構造に依存する。上場企業では監査委員会がTCWGに該当することが一般的だが、非上場企業では取締役会全体、監査役会、又はオーナー経営者がTCWGとなる場合がある。
ISA 260.A8は、オーナー経営企業においてTCWGと経営者が同一人物である場合を認めている。ただし、監査人はこの兼任を調書に記録しなければならない。ISA 260に基づく伝達はガバナンスの立場の者に、ISA 580に基づく経営者確認書は経営の立場の者に宛てる。同一人物であっても両方の書面がファイルに存在する必要がある。
ISA 260.14~17は、TCWGに伝達すべき事項を列挙している。監査人の独立性、監査の計画と範囲、監査で発見された重要な事項(内部統制の重要な不備を含む)、未修正虚偽表示の一覧表がその主要な内容である。伝達の時期と形式(書面か口頭か)もISA 260.19~20で規定されており、重要な事項は書面での伝達が求められる。
実務例:Carlsen Shipping ApS
被監査会社:デンマークの中堅海運企業、2025年度、売上高6,200万EUR、IFRS適用。家族経営でオーナーが取締役も務めている。
ステップ1 — TCWGの識別
Carlsen Shippingのガバナンス構造は、取締役会(3名、うちオーナー家族2名と独立取締役1名)とCEO(オーナーの長男)から成る。監査委員会は設置されていない。ISA 260.10に基づき、取締役会全体をTCWGとして識別した。CEOは経営者であるが、取締役としてはTCWGの一員でもある。
監査調書への記載:ガバナンス構造、TCWG識別の結論、及びCEOの兼任状況を記録する。監査委員会が未設置である旨を明記する。
ステップ2 — 伝達事項の準備
ISA 260.14に基づき以下の事項を伝達用に準備した。(1) 監査チームの独立性の確認、(2) 監査の計画と範囲(重要性の基準値を含む)、(3) 監査中に識別された内部統制の不備(船舶燃料の購買承認プロセスにおける職務分離の欠如)、(4) 未修正虚偽表示2件(合計4万8,000EUR)。
監査調書への記載:各伝達事項の内容、根拠となるISA段落番号、及び伝達予定日を記録する。
ステップ3 — 伝達の実施と文書化
監査チームは取締役会に対し書面で伝達した(ISA 260.19)。取締役会は燃料購買の職務分離については改善措置を約束し、未修正虚偽表示については修正しない旨の回答を示した。経営者からISA 450.14に基づく修正拒否理由を記載した書面を入手した。
監査調書への記載:伝達書面の写し、取締役会の回答日及び回答内容、経営者確認書を保管する。ISA 260.A8に基づきCEOの兼任に関する注記を付す。
結論:監査委員会が未設置の企業では取締役会全体をTCWGとして識別し、ISA 260の伝達要件を満たした。オーナー経営の兼任構造でも、ガバナンスの立場と経営の立場を区分して文書化する必要がある。
よくある誤解
- TCWG識別の省略 ISA 260は各業務においてTCWGの識別を求めている。識別が文書化されていなければ、監査で発見された事項が適切な者に伝達されたかどうかを立証できない。査察ではTCWG識別の不備が頻繁に指摘される。
- 経営者への伝達でTCWG伝達を代替する ISA 260はTCWGへの伝達をCFOやCEOへの伝達とは区別している。経営者にのみ報告し取締役会や監査委員会に報告しなければ、ISA 260の要件は充足されない。
- 口頭のみの伝達で完了とする ISA 260.19は重要な事項について書面での伝達を求めている。口頭のみの場合、伝達の事実と内容を立証する証拠が不十分となる。
- 兼任構造の未記録 ISA 260.A8はオーナー経営企業でTCWGと経営者が同一人物である場合を認めているが、この兼任の記録がファイルに存在しないケースが散見される。兼任を記録しないと、ISA 260の伝達とISA 580の確認書の宛先の整合性を説明できない。