自己資本利益率(ROE)

CPAAOBの2024年度モニタリングレポートでは、ROEを計画段階で算出しただけで完了段階の再計算を省略した調書が、複数の監査法人で指摘対象となった。本音を言うと、ROE分解を本当に理解したのは入所3年目になってから。当期純利益÷自己資本×100という式は新人でも書けるが、変動の意味を読み取れるかは別の話。ISA 520(監基報520)の分析的手続として使う以上、被監査会社のROEがどう動いたかではなく、なぜ動いたかを答える必要がある。

被統制項目: ISA 520 分析的手続 第520.5項

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重要なポイント

- ROEの低下は営業利益の悪化か資本構成の変化か、その根拠を区別せずに調書に書くと審査で必ず差し戻される - 同一業界内での比較は使えるが、会計方針(特に減価償却方法と引当金の計上基準)の相違を事前に確認しなければ誤った結論に至る - 期末時点で自己資本がマイナス(債務超過)の場合、ROEは計算不可能か無意味となり、別の指標を用いる

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仕組み

ROEは経営効率性と資本構成の両方を反映する指標。分子は当期純利益、分母は自己資本。被監査会社の過去3期分のROEを並べると、利益成長率と自己資本の消費速度の関係が見える。

ISA 520.A1は、計画段階の分析的手続で業界ベンチマークと被監査会社のROEを比較することを例示している。業界平均が12%で被監査会社が8%なら、その差の原因を調査する。営業外費用の増加か、在庫評価の問題か。原因が特定されなければ、その期間の利益計上に追加的なテストが必要になる可能性がある。

完了段階でも同じ分析を繰り返す。ISA 520.A2は、年間を通じて得た監査証拠とROEの変動を照合し、説明不可能な乖離がないか最終的に判定するよう求めている。営業利益が予想通りに増加したのにROEが上昇しなかった場合、自己資本の異常な増加(資本金の増加や利益剰余金への振替不備の可能性)を示唆している。経験上、この完了段階の再計算が抜けている調書は、品管レビューで真っ先に指摘される。

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実例:樋口機械工業株式会社

クライアント: 東京に本社を置く精密機械製造企業。2024年度売上高8,500万円、自己資本2,100万円、当期純利益240万円。

ステップ1:過去3期のROEを計算

2022年度ROE = 180万円 ÷ 1,950万円 × 100 = 9.2%

2023年度ROE = 210万円 ÷ 2,020万円 × 100 = 10.4%

2024年度ROE = 240万円 ÷ 2,100万円 × 100 = 11.4%

文書化ノート:調書に3期分のROE推移表を作成。増加傾向を確認。

ステップ2:増加の根拠を分解

利益が180万円から240万円へ33%増加した一方、自己資本は1,950万円から2,100万円へ7.7%増加。利益成長がより急速であることから、ROEの上昇は営業効率の改善によるところが大きい。

営業利益の変動を詳しく見ると、材料費の効率化(購買量の増加による単価低下)が20万円、人件費の効率化が12万円。販売費の削減が8万円、減価償却方法の変更による影響はゼロ。これらの要因を月次の営業損益報告書や内部管理資料から確認した。

文書化ノート:営業損益分析表にて、原価低下の要因が恒久的か一時的か判定。来期も同じ効率化が続く見通しについて経営者に質問。

ステップ3:業界ベンチマークとの比較

同一業界の中堅企業3社の過去2年平均ROEは11.8%。樋口機械工業の11.4%は業界平均を0.4ポイント下回るが、同程度の業績と判定。業界全体の不況期に逆成長した企業が多い中で、微増を達成したことは相応に評価できる結果。

文書化ノート:業界統計(機械工業会資料)をファイルに添付。比較対象企業3社の選定根拠を記述。

ステップ4:来期予想との照合

経営者が提示した来期の予想ROEは13.2%。その前提は売上高9,800万円、当期純利益290万円、自己資本2,200万円。これは過去の増加率を仮定したもので、新規受注の確保が前提となっている。受注パイプラインが進行中であることを営業部長から聞取り、その信頼性を検証した。

文書化ノート:新規案件の受注予定日と納入予定日をプロジェクト管理表から確認。契約額が予想値と整合するか顧客確認書から検証。

結論: ROEの11.4%は、利益成長と資本効率が両立している状態。説明のつかない異常値はない。営業効率の改善が継続可能であるかは来期の実績で判定する必要があり、監査報告書には「継続企業の前提」に関する追加的な懸念はない旨を記述した。

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監査人と実務家が見落としやすい点

第1層:検査指摘のパターン

JICPAの品質管理レビュー事例では、ROEの分析を計画段階で実施したが、完了段階で繰り返さなかった調書が報告されている。ISA 520.A2の要件を満たさないと判定される。正直、これは大手でも非常勤でも同じ落とし穴。期末監査の終盤で時間に追われ、計画段階の分析をコピーして済ませる誘惑が強いんですよ。

第2層:自己資本の異常値への無関心

ROEが前年度比で急上昇したにもかかわらず、その原因を営業利益の改善ではなく自己資本の減少に求めるべき場合がある。配当金の支払いが過度であるか、含み損のある有価証券を売却して損失を計上したのか。自己資本の減少が利益を圧迫する構造になっていないかの検証が抜ける。

第3層:業界ベンチマークの選定根拠

同一業界といっても、企業規模、製品ポートフォリオ、地理的展開が異なれば、ROEの水準は大きく異なる。比較対象企業の選定基準(売上規模、従業員数、製品カテゴリ、上場区分)を調書に明記していない場合、分析の信頼性が低下する。

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関連する用語

- 分析的手続(ISA 520): ROEの変動分析は分析的手続の代表的な手法。ISA 520全体の枠組みで位置づけられる - 自己資本変動の監査(IAS 1): 自己資本の増減要因(利益計上、配当、資本金増加等)の妥当性を検証する前提となる - 継続企業の前提(ISA 570): ROEが極度に低下した場合、継続企業の評価に影響を与える可能性がある - 経営者見積り(ISA 540): 来期のROE予想が経営者見積りに含まれる場合、その合理性を検証する必要がある - ベンチマーキング: 業界平均や競争企業のROEとの比較による分析手法 - 資本効率性分析: ROEを含む資本関連指標群による経営効率の総合評価

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関連するツール

ciferi ROE計算シート(ISA 520対応版)では、複数期間のROEの推移を自動計算でき、業界ベンチマークとの差異分析機能も備わっている。調書への組み込みに対応。

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