仕組み

監基報701.7では、監査人が次の3つの状況で適格意見を表明すると定めている。第1は、適正な財務報告枠組みに基づく適切な表示が達成されなかった場合。第2は、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手できなかった結果、監査範囲に制限が生じた場合。どちらの場合でも、その影響が財務諸表全体に対して有意ではない(合理的な判断者が当該事項に基づき意思決定を変更するほどではない)ことが条件となる。

実務では、適格意見は「不適正な表示」を理由とする場合と「監査範囲の制限」を理由とする場合の2種類に分類される。前者は被監査会社が意図的または非意図的に財務諸表を誤って記帳した場合。後者は、証拠の入手不可能、記録の欠落、または監査人のアクセス制限などにより監査手続が実行できなかった場合。いずれにせよ、その欠陥が限定的であることが鍵。もし欠陥が広範囲(複数の科目にまたがる)または重大(資産の2割以上)であれば、適格意見ではなく不適格意見になる。

監基報701では「除外」という言葉を厳密に使い分けている。被監査会社のある取引を財務諸表から完全に除外した場合(記帳しなかった、削除した)、または監査人が特定の科目に対してテストを実行しなかった場合(範囲の制限により不可能だった場合)、それは適格意見の「但し書き」ではなく「除外」に該当する可能性がある。除外の規模が大きければ不適格意見に該当する。

実例:Atterberg社の在庫不一致

被監査会社:オランダの食品製造会社Atterberg B.V.、売上高 €18M、IFRS適用

状況:期末在庫の物理的棚卸しが、監査人の予定外の事由により実施されなかった。会社側は前年度と同じ在庫簿記帳に基づいて期末在庫を計上した(€2.8M)。監査人は売上原価と在庫の推移を分析的手続で検討したが、統計的に有意な乖離は認められなかった。

ステップ1:影響の評価 在庫€2.8Mは売上高€18Mの15.6%を占める。監基報320に基づく重要性の基準値は売上高の5%(€0.9M)と設定されていた。在庫は単独では重要な科目。

文書化注記:「被監査会社の説明により、在庫簿記帳は月次で更新されており、期末在庫計上時点での最終更新日は20月25日。物理棚卸しは通常月末に実施されるが、当期は工場改修のため月2日に延期された。監査人は月2日の立会いを計画していたが、予定外の機器故障により月1日~月2日の生産が停止した。同日の在庫は前年度比で推移が正常範囲内。」

ステップ2:代替的監査証拠の検討 監査人は以下の手続を実施した。(1) 12か月の月次売上原価と在庫残高の推移を分析。(2) 売上原価率の年間平均と期末月のそれを比較。(3) 主要な販売先への確認手続で売掛金と売上高の妥当性を確認。

文書化注記:「分析的手続の結果、売上原価率は58.2%(12か月平均)〜59.1%(期末月)の範囲内。月別在庫回転率の推移も正常。統計的に有意な異常値なし。」

ステップ3:適格意見の判断 監査人は、物理棚卸しの非実施は監査範囲の制限に該当すると判断した。代替的監査証拠により在庫の適正性について合理的な保証が得られたため、その影響は限定的と判断。適格意見を表明することを決定。

文書化注記:「監基報701.24に基づき、監査範囲の制限が認められるが、代替手続の結果と分析的手続により、在庫が当該期末現在で著しく誤りを含んでいる可能性は低いと評価。財務諸表への影響は限定的と判断し、適格意見の対象とした。」

結論: Atterberg社の監査報告書には次のように記載される。「…被監査会社の期末在庫について物理棚卸しの立会いが実施されなかったことを除き、全ての重要な側面において…適正に表示されていると認める。」この但し書きは、監査範囲の制限を開示するものであり、財務諸表自体が不適正だと判定するものではない。

監査人および実務家が陥りやすい誤り

第1層:監督官庁の指摘事例 JICPAが公表する検査事例では、適格意見の判断基準が曖昧なために、本来は除外意見または不適格意見を表明すべき案件で適格意見が表明される例が報告されている。特に「監査範囲の制限が限定的である」という評価が、根拠なく行われる場合が指摘されている。JICPAの品質管理に関する実務指針では、監査範囲の制限の「限定性」を判断する際に、当該科目が財務諸表全体に対してどの程度の影響を持つかを定量的に評価することを求めている。本音を言うと、この定量評価の根拠が調書に書かれていないケースが圧倒的に多い。

第2層:基準と実務のずれ 監基報701.24では、監査範囲の制限が「財務諸表全体の適正性」を損なわない場合に限り適格意見を表明すると定めている。多くの監査法人は「当該科目が重要性の基準値を超えない場合は適格意見」と簡素化して運用している。しかし重要性は定量的基準にすぎず、定性的な重要性(規制当局への報告が必要な科目、前年度で指摘を受けた科目)も勘案する必要がある。定量的には限定的でも、定性的に重要な科目であれば、適格意見ではなく除外意見の対象となる場合がある。

第3層:文書化上の欠落 適格意見を表明する際、「適格意見とすることが妥当である」という結論が記載されている一方で、「なぜ除外意見ではないのか」「なぜ不適格意見ではないのか」という相互比較の記載が欠落していることが多い。監基報701.24は3種類の意見の選択肢を提示している。適格意見に至った監査人の判断プロセスは、他の2つの意見が不妥当である理由を明記することで初めて防御可能になる。現場では、この相互比較を審査(エンゲージメント品質レビュー)の段階で書き加える事務所もあるが、本来は意見決定時点の調書に残すべき。

適格意見対除外意見

除外意見は、監査範囲の制限が非常に大きい場合に表明される。「…の金額および内容を除き」という表現を使い、除外の対象が特定される。一方、適格意見は「…を除き、全ての重要な側面において」という表現を使い、除外の対象が一般的・広範に記述される傾向がある。

実務上の分岐点は、「除外の対象が単一の科目または単一の取引か、複数科目にまたがるか」。単一の科目(在庫のみ等)であれば適格意見。複数の関連科目(売掛金、売上高、売上原価の全てを監査できなかった場合等)であれば除外意見に進むべき。前者は「例外的な欠陥」、後者は「構造的な監査範囲制限」を示唆している。

関連用語

不適格意見: 財務諸表全体が誤りを含み、信頼できない場合に表明される意見。金銭的影響が著しい場合またはその可能性が高い場合。

除外意見: 監査範囲の制限が極めて大きく、全体的な財務諸表の適正性について判断することができない場合に表明される意見。

無限定意見: 財務諸表が全体として適正に表示されていると認める場合に表明される意見。但し書きなし。

強調事項段落: 財務諸表の特定事項に対する注意喚起。意見の修正ではなく、情報提供的な追加記載。

監査人による追記事項段落: 監査人が必要と判断した事項の追加記載。強調事項段落と異なり、対象は監査調書などの監査人自身の領域。

監基報701(監査報告): 監査報告書の形式と内容を規定する基準。全ての監査意見の選択肢と判断基準を定める。

重要性(監査の): 財務諸表全体が「適正である」と判定するための定量的・定性的な閾値。適格意見の判断に直結する基準値。

監査範囲の制限: 監査人が本来実施すべき監査手続を実施できなかった状況。適格意見の原因の一つ。

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