主要なポイント

  • ISAは全6グループ(200系、300系、400系、500系、600系、700系)に編成されており、計34の基本的な監査基準と18の応用指針から構成される
  • 各国が採用する際、国内法または規制に基づいて一部の基準が修正される場合がある
  • 監査人は所属国の採用基準に準拠し、ISAを完全採用しない場合はその旨を依頼人に開示する必要がある
  • 定期的な改訂により、例えばISA 240(改訂2024)やISA 570(改訂2024)など、新しい要件が導入される

ISA基準体系の全体像

ISA 100系:前提条件と全般的責任


この系列は、監査業務全般に適用される基本的な枠組みを定める。
ISA 100:前提条件
監査人が監査業務を実施するための基本的な前提。公正に実施された財務報告、経営者の誠実性、十分な内部統制の存在を求める。
ISA 110:監査業務の総合的な責任
監査人の独立性、職業的懐疑心、および正当な注意義務を規定。監査人は意見を形成するプロセス全体において、職業家として相応の判断と慎重さで対応する責任を負う。
ISA 120:監査業務の総合的な責任: その他の考慮事項
特定の状況下における監査人の追加的責任。例えば、監査基準に準拠していない場合、または期首残高の入手可能性に制限がある場合の対応を定める。

ISA 200系:監査の基本的原則


ISA 200:監査の基本的原則と目的(並びにこれに付随する監査人の責任)
監査意見の目的を定義。監査人は財務報告の重要性に関する虚偽表示の検出に合理的保証を得ることを求められる。重要性は監査戦略全体に影響する基本的な判断。
ISA 210:監査業務の契約条件の合意
監査契約書に記載すべき事項を規定。監査の目的、範囲、経営者の責任、監査人の責任、独立性の確認、および監査報告書の利用者の範囲を明記する。
ISA 220:品質管理(ISQM 1への関連性)
個別業務レベルでの品質管理。パートナーレビュー、助言取得のタイミング、意見の形成前の総括的レビューを求める。2025年以降、ISA 220は部分的にISQM 1と統合される予定。
ISA 230:監査業務文書
監査調書の必要性、内容、保管期間。監査調書は後日の査閲に耐え、監査人がどのような判断に基づいて意見を形成したかを示すことが必須。
ISA 240:財務報告に係る不正リスク(改訂2024)
経営者不正と従業員不正の両者への対応。2024年改訂では、詐欺リスク要因の評価をより詳細に、また経営者による統制の無効化の可能性をより厳格に検討することを求める。
ISA 250:法令等への準拠
監査人が違法行為に遭遇した場合の対応。法令違反は監査調書に記録され、その重要性に応じて経営者および監査委員会に報告される。

ISA 300系:監査の計画と実施


ISA 300:監査戦略と監査計画
全体的な監査戦略を文書化し、特に重要性の基準値の設定、監査リスク、主要な監査項目の特定を行う。監査計画の策定は現地調査の前に完了する。
ISA 305:計画段階でのリスク評価手続
実地調査前に実施するリスク評価。経営者、監査委員会、外部専門家との協議、かつ前年度の監査調書の検討を通じて予備的なリスクプロフィールを構築する。
ISA 310:監査リスク評価と重要性の設定
監査リスク(固有リスク、統制リスク、検出リスク)の定義と設定。重要性の基準値は計画段階で決定され、期末に再評価される。基準値の下方修正は追加手続の必要性を生じさせることが多い。
ISA 315:重要な虚偽表示のリスクの識別と評価(改訂2019)
リスク評価手続の詳細。ISA 315 改訂2019では「スペクトラム・アプローチ」を導入し、リスクを全体的虚偽表示リスク、クラスレベルのリスク、個別アイテムレベルのリスクに階層化。
ISA 320:監査における重要性
重要性の定義と適用。総体的重要性、業務遂行上の重要性、明らかに些細でない虚偽表示額の三層構造。多くの検査指摘は業務遂行上の重要性が高すぎる(つまり、許容虚偽表示額が過大)ことに関連している。
ISA 330:識別された虚偽表示のリスクへの監査人の対応
リスク評価に基づく応答手続の実施。全体的虚偽表示リスクが高い場合は、経営者による推定項目の変更や非標準的な仕訳の入念な検討を求める。

ISA 400系:監査証拠


ISA 500:監査証拠
監査証拠の十分性と適切性の定義。証拠の信頼性階層(原始文書 > 企業外部発行 > 企業内部発行 > 分析的手続)に基づいて入手。
ISA 501:個別領域における監査証拠
在庫、請求債権、特殊なトランザクション(外貨、関連当事者取引、引当金)の監査証拠特有の考慮事項。例えば在庫テストでは、実地棚卸への立会が通常必須。
ISA 505:外部確認
正の確認(相手方からの返信を求める)と負の確認(返信がない場合は監査人の監査証拠として扱う)の区別。売上債権の監査では、金融庁の検査指摘が多い領域。
ISA 510:初年度監査における期首残高
初年度監査の特殊性。前年度監査済残高の検証手続、前年度基準で不適切と判定された項目の追跡。
ISA 520:分析的手続
計画段階、実証的手続、完了段階での分析的手続の活用。完了段階の分析的手続は全業務で実施が必須(ISA 520.6)。
ISA 530:監査サンプリング
母集団からのサンプル選択に基づく結論の一般化。統計的サンプリングと非統計的サンプリングの両方が許容されるが、結論の根拠を文書化する必要がある。
ISA 540:会計上の見積もりの監査
経営者による見積もり(減価償却率、貸倒引当金、退職給付債務)の評価。監査人は見積もりの方法の適切性、インプットの妥当性、および計算の正確性を検証。
ISA 560:期末日後の事象
期末日後に発生した事象で、財務報告に影響を及ぼす可能性のあるもの。監査人は業務完了前に調査を実施し、調整または開示が必要か判定。

ISA 600系:特定の領域


ISA 600:グループ監査
連結財務報告の監査における親社監査人とコンポーネント監査人の役割。親社監査人は全体的責任を保持し、コンポーネント監査人の作業の十分性を評価。
ISA 610:内部監査の利用
内部監査部門の作業を監査人が利用できる場合の条件。内部監査の独立性、客観性、専門性を評価した上で、その検証手続の結果を参考にできる。
ISA 620:専門家の利用
公認会計士以外の専門家(評価専門家、精算人、IT専門家)の利用。監査人は専門家の独立性、適格性を評価し、その結論を採用するか批判的に検討するか判定。

ISA 700系:監査意見と報告


ISA 700:監査報告書の形成と発行
無適正意見、限定付き適正意見、不適正意見、除外意見の四つの意見形式。意見の選択は検出された虚偽表示の重要性と広がりに基づく。
ISA 701:主要な監査事項の報告
上場企業の監査報告書に記載する主要な監査事項(Key Audit Matters, KAM)の選定と記述。KAMは監査人の職業的判断に基づくもので、利用者が財務報告を理解する上で最も関連性の高い事項。
ISA 705:適正意見以外の意見の報告
限定付き適正意見、不適正意見、除外意見の形成と報告。修正意見または除外意見への判断は、検出された虚偽表示が経営者によって修正されなかった場合に該当。
ISA 706:強調事項および他の事項に関する記載
強調事項パラグラフ(監査意見自体は修正されないが利用者に特に注意を促したい事項)と他の事項パラグラフ(監査の範囲に関する事項)の使い分け。
ISA 710:監査契約年度の初年度監査
前任監査人との引継ぎプロセス、前年度監査調書の閲覧、期首残高の検証。
ISA 720:監査基準に準拠しない財務報告に関する監査人の責任
IFRS以外の会計基準(GAAP)での報告の監査における特別な考慮事項。監査報告書に使用された会計基準を明記。

ISA 800系:その他の保証業務


ISA 800:特定目的の財務報告の監査基準の適用
IFRS全体を適用していない特別目的財務諸表(税務申告書、特定条件下でのみ適用される基準による報告)の監査。
ISA 805:個別財務報告要素、勘定科目またはラインアイテムの監査基準の適用
連結財務報告では監査対象外だが、個別に監査対象となる要素(例:親社の在庫のみ)の監査。
ISA 810:約定監査報告書の発行
監査意見以外に、特定の会計基準または契約条件に基づく報告を求められた場合の対応。

ISAの採用と修正

完全採用国(修正なし)


デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、オーストリア、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、ギリシャ、マルタ、パキスタン、メキシコ、ナイジェリア、ペルー、ケニアなど140以上の国がISAを採用している。
これらの国では、監査人はISAを字義通り適用し、国内法による追加要件がない限り、修正または補足は不要。

修正採用国


オーストラリア(ASA)、シンガポール(SSA)、インド(SA)、香港(HKSA)、ニュージーランド(ISA NZ)、スペイン(NIA-ES)、イタリア(ISA Italia)、イギリス(ISA(UK))、アイルランド(ISA(Ireland))、ベルギー(ISA(Belgium))、オランダ(NV COS)、南アフリカ(ISA + SAAPS)などは、ISAを基盤としながら国内規制に基づく追加要件または修正を含める。
例えば、スペインのNIA-ESはISAの条件部分を引用しつつ、スペイン税法への準拠要件を追加している。イギリスのISA(UK)はISAをベースにFRC(金融行動監視機構)の強化要件を含めている。

ISA改訂スケジュール


2024年改訂: ISA 240(詐欺リスク)、ISA 570(継続企業)が改訂。適用は2026年12月から。これまでの実務慣行では受け入れられていた手続が、改訂後は不十分と判定される可能性がある。
例:ISA 570(改訂2024)における段階的評価
改訂前の実務では、段階1と段階2を一体で評価することが多かった。改訂基準では分離を求めている。この変化は、2026年12月以降の業務で必ず対応すべき点。

  • 段階1:疑義を生じさせる事象・状況を識別(経営者の見方に依存しない客観的事実)
  • 段階2:経営者の対応策の評価(段階1の事象に対して、経営者がどう対応するか)
  • 段階3:監査人の総合判断(段階1と段階2を統合して、継続企業の前提が成り立つか判定)

ISAと国内基準の関係

日本:監査基準(監基報)


日本公認会計士協会(JICPA)はISAに準拠する形で「監査基準」(監基報)を公表している。監基報はISAを基盤としながら、日本の法制度(会社法、金融商品取引法)に基づいて一部を修正、追加している。
監基報320(重要性)
ISA 320とほぼ同一の要件。日本での適用は、日本基準版の「重要性」で、数値基準は日本の会計法人慣行に基づいて設定される。
監基報570(継続企業)
ISA 570(改訂2024)の適用時期は日本では未決定だが、監基報の改訂により同様の要件が適用される予定。

スペイン:NIA-ES(監査基準スペイン版)


スペイン監査規制委員会(ICAC)はISAに基づくNIA-ESを公表。NIA-ESはISAの要件を引用しつつ、スペイン商法、スペイン税法、およびICAC指令を追加。
例えば、NIA-ES 320では、ISA 320.12の再評価要件に加えて、スペイン商法に基づく「監査報告書に記載すべき重要性」の開示基準が追加される。

イギリス:ISA(UK)


FRC(金融行動監視機構)は、ISAの要件に加えて「ISA(UK)」として強化要件を公表。例えば、ISA(UK) 700では、上場企業の監査報告書にISA 701の「主要な監査事項」に加えて、「経営者報告書との整合性」に関する陳述を追加。

ISAの実務上の位置付け

ISAは監査法人の品質管理(ISQM 1)と統合されて適用される。つまり、個別業務でISAを満たしていても、業務全体の品質管理体制がISQM 1に適合していなければ、監査人は基準適合とは言えない。
品質管理レビューはISQM 1で規定され、業務完了前の審査対象となる。多くの検査指摘は、ISA個別項目の不合致というより、ISQM 1の品質管理プロセスの不十分さに原因がある。

ISA採用国別対応基準

| 国 | 基準体系 | 発行機関 | 状況 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 監査基準(監基報) | 日本公認会計士協会 | ISAに準拠、国内法への適合性を確保 |
| オーストラリア | ASA | AUASB | ISAベースの修正版、完全整備 |
| シンガポール | SSA | ISCA | ISAベースの修正版、完全整備 |
| インド | SA | ICAI | ISAベースの修正版、部分的整備 |
| スペイン | NIA-ES | ICAC | ISAベースの修正版、スペイン法への適合性を追加 |
| イタリア | ISA Italia | MEF / CNDCEC | ISAベースの修正版、イタリア法への適合性を追加 |
| イギリス | ISA(UK) | FRC | ISAベースの強化版、PCAOB基準との調和 |
| アイルランド | ISA(Ireland) | IAASA | ISAベースの修正版、アイルランド法への適合性を追加 |
| オランダ | NV COS | NBA | ISAベースの修正版、オランダ法への適合性を追加 |
| ニュージーランド | ISA(NZ) | NZAuASB | ISAベースの修正版、NZ法への適合性を追加 |
| 香港 | HKSA | HKICPA | ISAベースの修正版、完全整備 |
| ベルギー | ISA(Belgium) | IBR-IRE | ISAベースの追加要件、フランス語・オランダ語・英語対応 |
| 南アフリカ | ISA + SAAPS | IRBA | ISAベース、SAAPSの追加基準を適用 |

ISA導入時の実務上の留意点

ISA採用基準の確認


監査人は依頼人の所在地に基づいて、採用基準を確認することが必須。例えば、スペインの子会社の監査であれば、NIA-ESを適用し、親会社の所在国の基準ではなく、現地基準を優先。
親社監査人がコンポーネント監査人の作業を受け取る場合(ISA 600 グループ監査)、コンポーネント監査人が採用している基準がISAと実質的に同等であることを確認する必要がある。

改訂基準への移行期


ISA 240改訂2024、ISA 570改訂2024の適用は2026年12月から。これまで現行基準に準拠していた業務について、改訂基準では追加の手続が必要になる事例が多い。特に以下の点について事前準備が重要。

修正版基準の二重適合性確認


修正版基準(NIA-ES、ISA(UK)等)を採用している国での監査では、ISAベースの部分と国内追加要件の両方に準拠していることを確認。特に、報告書の形式(ISA 700)に国内特有の記載欄が追加されている場合が多い。

  • 詐欺リスク評価(ISA 240):改訂では、「経営者の誠実性」と「不正の三角形」の関係をより詳細に文書化
  • 継続企業評価(ISA 570改訂):段階1(事象)、段階2(対応策)、段階3(総合判断)の分離による調書の再構成が必須

関連用語

  • IFAC: ISAを発行する国際的機関。各国の監査人団体が加盟し、基準設定に参画
  • ISA 320: 重要性に関する基準。全ての監査業務で適用が必須
  • ISA 240: 詐欺リスクに関する基準。改訂2024で大幅な要件変更
  • ISA 570: 継続企業の前提に関する基準。改訂2024で評価段階の整理
  • ISQM 1: 監査法人全体の品質管理基準。個別業務のISA適合性を支える枠組み

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