Definition

2024年、ISA 240(不正リスク)とISA 570(継続企業)が同時に改訂された。適用開始は2026年12月。改訂前の調書テンプレートでは新要件を満たせない箇所が複数ある。経験上、ISA体系の全体像を把握していないと、改訂がどの業務にどう波及するかが見えてこない。

主要なポイント

- ISAは全6グループ(200系、300系、400系、500系、600系、700系)に編成されており、34の基本的な監査基準と18の応用指針から構成される - 各国が採用する際、国内法または規制に基づいて一部の基準を修正する場合がある - 監査人は所属国の採用基準に準拠し、ISAを完全採用していない場合はその旨をクライアントに開示する - 定期的な改訂により、ISA 240(改訂2024)やISA 570(改訂2024)のように新要件が導入される

---

ISA基準体系の全体像

ISA 100系:前提条件と全般的責任

この系列は監査業務全般に適用される枠組みを定める。

ISA 100は監査業務の基本的な前提を規定する。公正な財務報告、経営者の誠実性、十分な内部統制の存在がその前提。

ISA 110は監査人の独立性、職業的懐疑心、正当な注意義務を定めている。意見形成プロセス全体を通じて、職業家としての判断と慎重さで対応する責任。

ISA 120は特定状況下での追加的責任を扱う。監査基準に準拠していない場合や、期首残高の入手可能性に制限がある場合の対応を定める。

---

ISA 200系:監査の基本的原則

ISA 200は監査意見の目的を定義している。監査人は財務報告における虚偽表示の検出に合理的保証を得る。重要性は監査戦略全体に影響する基本的な判断。

ISA 210は監査契約書に記載すべき事項を規定する。監査の目的、範囲、経営者の責任、監査人の責任、独立性の確認、監査報告書の利用者の範囲を明記。

ISA 220は個別業務レベルでの品質管理を扱う。パートナーレビュー、助言取得のタイミング、独立性の確認手続、意見形成前の総括的レビューを定めている。2025年以降、ISQM 1との統合が予定されている。品管部門との調整が今後の焦点。

ISA 230は調書の要件を規定する。後日の査閲に耐える内容で、監査人がどのような判断に基づいて意見を形成したかを示すこと。

ISA 240は経営者不正と従業員不正の両者への対応を定めている。2024年改訂では、不正リスク要因の評価がより詳細になり、経営者による統制無効化の検討も厳格化された。

ISA 250は違法行為への対応を定める。法令違反は調書に記録し、その重要性に応じて経営者および監査委員会に報告する。

---

ISA 300系:監査の計画と実施

ISA 300は全体的な監査戦略の文書化を扱う。重要性の基準値の設定、監査リスク、主要な監査項目の特定を行い、現地調査前に計画を完了させる。

ISA 305は実地調査前のリスク評価手続を規定する。経営者、監査委員会、外部専門家との協議に加え、前年度の調書の検討を通じて予備的なリスクプロフィールを構築。

ISA 310は監査リスク(固有リスク、統制リスク、検出リスク)の定義と設定を扱う。重要性の基準値は計画段階で決定し、期末に再評価する。基準値の下方修正は追加手続の必要性を生じさせることが多い。

ISA 315(改訂2019)はリスク評価手続の詳細を定める。改訂2019で「スペクトラム・アプローチ」を導入し、リスクを全体的虚偽表示リスク、クラスレベル、個別アイテムレベルに階層化した。

ISA 320は重要性の定義と適用を規定する。総体的重要性、業務遂行上の重要性、明らかに些細でない虚偽表示額の三層構造。CPAAOBの検査指摘では、業務遂行上の重要性が高すぎる(許容虚偽表示額が過大な)ケースが繰り返し出てくる。

ISA 330はリスク評価に基づく応答手続の実施を定める。全体的虚偽表示リスクが高い場合は、経営者による推定項目の変更や非標準的な仕訳の入念な検討が必要。

---

ISA 400系:監査証拠

ISA 500は監査証拠の十分性と適切性の定義を扱う。証拠の信頼性階層(原始文書、企業外部発行、企業内部発行、分析的手続)に基づいて入手する。

ISA 501は在庫、請求債権、特殊なトランザクション(外貨、関連当事者取引、引当金)の監査証拠特有の考慮事項を扱う。在庫テストでは実地棚卸への立会が通常必須。

ISA 505は外部確認を規定する。正の確認(相手方からの返信を求める)と負の確認(返信がない場合は監査証拠として扱う)の区別がある。売上債権の確認は、CPAAOBの検査でも指摘が多い領域。

ISA 510は初年度監査の特殊性を扱う。前年度監査済残高の検証手続、前年度基準で不適切と判定された項目の追跡。

ISA 520は計画段階、実証的手続、完了段階での分析的手続を規定する。完了段階の分析的手続は全業務で実施が必須(520.6)。

ISA 530は母集団からのサンプル選択に基づく結論の一般化を扱う。統計的サンプリングと非統計的サンプリングの両方が許容されるが、結論の根拠を文書化する。

ISA 540は経営者による見積もり(減価償却率、貸倒引当金、退職給付債務、公正価値評価など)の評価を規定する。見積もりの方法の妥当性、インプットの妥当性、計算の正確性を検証。

ISA 560は期末日後の事象を扱う。財務報告に影響を及ぼす可能性のある事象について、業務完了前に調査を実施し、調整または開示が必要か判定する。

---

ISA 600系:特定の領域

ISA 600はグループ監査を規定する。連結財務報告の監査における親会社監査人とコンポーネント監査人の役割を定め、親会社監査人は全体的責任を保持し、コンポーネント監査人の作業の十分性を評価する。

ISA 610は内部監査部門の作業の利用条件を定める。内部監査の独立性と客観性を評価した上で、その検証手続の結果を参考にできる。

ISA 620は公認会計士以外の専門家(評価専門家、精算人、IT専門家など)の利用を規定する。専門家の独立性と適格性を評価し、その結論を採用するか批判的に検討するか判定。

---

ISA 700系:監査意見と報告

ISA 700は監査報告書の形成と発行を規定する。無限定適正意見、限定付き適正意見、不適正意見、意見不表明の四つの意見形式があり、検出された虚偽表示の重要性と広がりに基づいて選択する。

ISA 701は上場企業の監査報告書に記載するKAM(監査上の主要な検討事項)の選定と記述を定めている。KAMは監査人の職業的判断に基づくもので、利用者が財務報告を理解する上で最も関連性の高い事項。正直、KAMの記述は監査報告書の中で最も苦労する箇所の一つ。

ISA 705は限定付き適正意見、不適正意見、意見不表明の形成と報告を定める。修正意見への判断は、検出された虚偽表示が経営者によって修正されなかった場合に生じる。

ISA 706は強調事項パラグラフ(監査意見自体は修正されないが利用者に注意を促す事項)と他の事項パラグラフ(監査の範囲に関する事項)の使い分けを規定する。

ISA 710は前任監査人との引継ぎプロセス、前年度の調書の閲覧、期首残高の検証を扱う。

ISA 720はIFRS以外の会計基準(GAAP)での報告の監査における特別な考慮事項を定める。監査報告書に使用した会計基準を明記。

---

ISA 800系:その他の保証業務

ISA 800はIFRS全体を適用していない特別目的財務諸表(税務申告書、特定条件下での限定的な基準による報告)の監査を扱う。

ISA 805は連結財務報告では監査対象外だが個別に監査対象となる要素(例:親会社の在庫のみ)の監査を規定する。

ISA 810は監査意見以外に、特定の会計基準または契約条件に基づく報告を求められた場合の対応を定める。

---

ISAの採用と修正

完全採用国(修正なし)

デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、オーストリア、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、ギリシャ、マルタ、パキスタン、メキシコ、ナイジェリア、ペルー、ケニアなど140以上の国がISAを採用している。

これらの国では監査人はISAを字義通り適用し、国内法による追加要件がない限り、修正・補足は不要。

修正採用国

オーストラリア(ASA)、シンガポール(SSA)、インド(SA)、香港(HKSA)、ニュージーランド(ISA NZ)、スペイン(NIA-ES)、イタリア(ISA Italia)、イギリス(ISA(UK))、アイルランド(ISA(Ireland))、ベルギー(ISA(Belgium))、オランダ(NV COS)、南アフリカ(ISA + SAAPS)などは、ISAを基盤としながら国内規制に基づく追加要件または修正を含めている。

スペインのNIA-ESはISAの条件部分を引用しつつ、スペイン税法への準拠要件を追加している。イギリスのISA(UK)はISAをベースにFRC(Financial Reporting Council)の強化要件を含める。

ISA改訂スケジュール

2024年改訂ではISA 240(不正リスク)とISA 570(継続企業)が対象となった。適用は2026年12月から。これまで現場で受け入れられていた手続が、改訂後は不十分と判定される可能性がある。繁忙期に入ってから気づくのでは遅い。

ISA 570(改訂2024)の段階的評価は以下の構造をとる。

- 段階1:疑義を生じさせる事象・状況を識別(経営者の見方に依存しない客観的事実) - 段階2:経営者の対応策を評価(段階1の事象に対してどう対応するか) - 段階3:監査人の総合判断(段階1と段階2を統合して継続企業の前提が成り立つか判定) - 改訂前との違い:従来は段階1と段階2を一体で評価することが多かったが、改訂基準では分離を明確に求めている

この変化は2026年12月以降の業務で対応が必須となる。

---

ISAと国内基準の関係

日本:監基報

JICPAはISAに準拠する形で監基報を公表している。監基報はISAを基盤としつつ、日本の法制度(会社法、金融商品取引法)に基づいて一部を修正、追加している。

監基報320(重要性)はISA 320とほぼ同一の要件。数値基準は日本の監査法人の慣行に基づいて設定される。

監基報570(継続企業)はISA 570(改訂2024)の適用時期が日本では未決定だが、監基報の改訂により同様の要件が適用される見込み。

スペイン:NIA-ES

スペイン監査規制委員会(ICAC)はISAに基づくNIA-ESを公表している。NIA-ESはISAの要件を引用しつつ、スペイン商法、スペイン税法、ICAC指令を追加。NIA-ES 320では、ISA 320.12の再評価要件に加えて、スペイン商法に基づく「監査報告書に記載すべき重要性」の開示基準がある。

イギリス:ISA(UK)

FRCはISAの要件に加えてISA(UK)として強化要件を公表している。ISA(UK) 700では、上場企業の監査報告書にKAMに加えて「経営者報告書との整合性」に関する陳述を追加。

---

ISAの実務上の位置付け

ISAは監査法人の品質管理(ISQM 1)と統合して適用される。個別業務でISAを満たしていても、業務全体の品質管理体制がISQM 1に適合していなければ、基準適合とは言えない。

品質管理レビューはISQM 1で規定され、業務完了前の審査対象となる。CPAAOBの検査指摘の多くは、ISA個別項目の不合致というより、ISQM 1の品質管理プロセスの不十分さに原因がある。現場の感覚で言えば、個別の調書を直しても品管体制が弱ければ根本的な改善にはならない。

---

ISA採用国別対応基準

基準体系発行機関状況
日本監基報JICPAISAに準拠、国内法への適合性を確保
オーストラリアASAAUASBISAベースの修正版、完全整備
シンガポールSSAISCAISAベースの修正版、完全整備
インドSAICAIISAベースの修正版、部分的整備
スペインNIA-ESICACISAベースの修正版、スペイン法への適合
イタリアISA ItaliaMEF / CNDCECISAベースの修正版、イタリア法への適合
イギリスISA(UK)FRCISAベースの強化版、PCAOB基準との調和
アイルランドISA(Ireland)IAASAISAベースの修正版、アイルランド法への適合
オランダNV COSNBAISAベースの修正版、オランダ法への適合
ニュージーランドISA(NZ)NZAuASBISAベースの修正版、NZ法への適合
香港HKSAHKICPAISAベースの修正版、完全整備
ベルギーISA(Belgium)IBR-IREISAベースの追加要件、3言語対応
南アフリカISA + SAAPSIRBAISAベース、SAAPSの追加基準を適用

---

ISA導入の実務上の留意点

採用基準の確認

監査人はクライアントの所在地に基づいて採用基準を確認する。スペインの子会社の監査であればNIA-ESを適用し、親会社の所在国の基準ではなく現地基準を優先。

親会社監査人がコンポーネント監査人の作業を受け取る場合(ISA 600)、コンポーネント監査人が採用している基準がISAと実質的に同等であることを確認する。

改訂基準への移行

ISA 240改訂2024とISA 570改訂2024の適用は2026年12月から。現行基準に準拠していた業務でも、改訂基準では追加の手続が必要になるケースが多い。

不正リスク評価(ISA 240改訂)では、「経営者の誠実性」と「不正の三角形」の関係をより詳細に文書化する。継続企業評価(ISA 570改訂)では、段階1(事象)、段階2(対応策)、段階3(総合判断)の分離による調書の再構成が必須。

修正版基準の二重適合性

修正版基準(NIA-ES、ISA(UK)等)を採用している国での監査では、ISAベースの部分と国内追加要件の両方に準拠していることを確認する。報告書の形式(ISA 700)に国内特有の記載欄が追加されている場合が多い。

---

関連用語

- IFAC:ISAを発行する国際的機関。各国の監査人団体が加盟し、基準設定に参画 - ISA 320:重要性に関する基準。全ての監査業務で適用が必須 - ISA 240:不正リスクに関する基準。改訂2024で大幅な要件変更 - ISA 570:継続企業の前提に関する基準。改訂2024で評価段階の整理 - ISQM 1:監査法人全体の品質管理基準。個別業務のISA適合性を支える枠組み

---

実務に役立つ監査の知見を毎週お届けします。

試験対策ではありません。監査を効率化する実践的な内容です。

290以上のガイドを公開20の無料ツール現役の監査人が構築

スパムはありません。私たちは監査人であり、マーケターではありません。