Definition

「IFACがISA 320を改定した」。品管の研修資料やクライアント説明で、この言い回しを見かけることがあるだろう。正直、これは不正確。ISAの条文を決定するのはIAASBであり、IFACはその予算・人事を支える上位の傘組織にすぎない。この区別を正しく理解しないまま監基報を運用している事務所は少なくない。

重要ポイント

- IFACは基準設定機関ではない。ISAを策定するのはIAASB、倫理基準を策定するのはIESBA。IFACはこれらへの資金提供・監督・公表の役割を担う - ISAは各国の職業団体を通じて採択・翻訳される。日本ではJICPAが監基報として国内版化し、IFAC基準と並行運用している - IFAC倫理基準(Code of Ethics)は「推奨事項」ではなく最低要件。各国が上回ることは許容されるが下回ることは認められない - Big4のグローバルメソドロジーもIFACハンドブックを基盤としており、国際基準と国内基準の関係を把握しておくことはローカルファームにとっても実務上避けられない

仕組み

IFACの構造は二層制。第一層が各国の職業団体(日本ではJICPA)、第二層がIFAC傘下の国際基準設定委員会(IAASB、IESBA)である。

IAASBとIESBAはIFACの完全子機関ではなく、IFAC監督下にある独立した設定機関。ここが実務者にとって混乱しやすいポイントだろう。IAASBが発行したISA 320を各国の標準化機関(日本ではJICPA)が国内基準として採択する。採択時には翻訳、用語の国内対応、国内法との整合性確認を行うが、内容の修正は原則として認められない。ISA 320が定めた概念は、監基報でも同じ概念として適用される。

IFACのもう一つの機能は基準間の一貫性監視。ISA 240(不正)とISA 570(継続企業の前提)が矛盾するような改定提案があればIAASBが却下する仕組みになっている。各国の職業団体(日本の場合JICPA)はISA改定案にコメントを提出する権利を持ち、IFAC事務局がこれを取りまとめてIAASB投票前のコンセンサス形成を行う。

実例:日本のISA採択プロセス

JICPA監査基準委員会によるISA 315改訂版(2019年発行)の国内化対応を例に、IFACから各国への基準伝達がどう機能するかを示す。

ステップ1:差異の特定

IFAC/IAASBがISA 315改訂版を2019年12月に発行。JICPA監査基準委員会が「ISA 315改訂版と監基報300番台の対比一覧表」を作成し、相違箇所を洗い出した。

ステップ2:翻訳と用語対応

IFACハンドブック(英文)を日本語に翻訳。「リスク評価」はISAでも監基報でも同一だが、「internal audit function」の訳語を「内部監査部門」とするか「内部監査機能」とするかで協議が発生。用語委員会が国内対応表を作成し、監基報での訳語を統一した。

ステップ3:国内法との整合確認

改訂内容が金融商品取引法・会社法と矛盾しないか確認。ISA 315の「リスク対応手続」が金融庁監査基準との関係で追加要件を生じさせるか検討した結果、矛盾なし。

ステップ4:監基報として公表

「ISA 315と並行採択」の方針で監基報300番台も同時改訂。IAASBの基準設定から各国での採択まで、通常2〜3年を要する。日本の場合はJICPA監査基準委員会による国内化プロセスを経るが、内容修正なし。翻訳と用語対応のみ。

査察機関と実務者が誤解しやすいこと

- IFACは基準設定機関ではない。IFAC事務局の役割は人事・財務・広報管理であり、ISAの内容を決定するのはIAASB。「IFACがISA 320をこう改定した」ではなく「IAASBがISA 320改訂版を発行しIFACハンドブックで公表した」が正確な表現。経験上、CPAAOBの検査でこの区別を問われることは少ないが、調書の記載が不正確だと品管レビューで余計な指摘を受ける。

- 各国の「採択」は翻訳と用語対応であり、内容修正ではない。金融庁やJICPAがISAを「採択」と言うとき、国内言語への翻訳・国内法との整合確認・既存基準との調整を意味する。修正を加える場合は「overlay」(上乗せ要件)として別途記載される。日本の監基報は修正なし採択、イギリスのISA(UK)は修正あり(overlay)採択。

- IFAC倫理基準は「ベストプラクティス」ではなく最低要件。各国が倫理規定を厳しくすることは許容されるが、IFAC基準より緩くすることは認められない。JICPAの倫理規則はIFAC基準を上回る要件を含んでいるため合致する。本音を言うと、この「最低要件」の位置づけを正しく認識していない事務所は多い。

関連用語

- IAASB(国際監査・保証基準委員会): ISA、ISAE、ISRS等の発行機関。IFAC傘下だが基準内容の決定権は独立して保持。 - IESBA(国際倫理基準委員会): 会計士の倫理基準を発行。監査業務だけでなく非監査業務の倫理もカバーする。 - ISA(国際監査基準): IAASBが発行しIFACハンドブックで公表。日本では監基報として採択。 - ISQM 1(品質管理基準第1号): 監査事務所全体のQMS(品管体制)を定める。ISA 220の上位基準に位置づけられる。 - IFACハンドブック: 年1回更新される、ISA・ISAE・ISRS・倫理基準の完全版。審査や品管レビューで「原文」を参照する際の一次資料。

関連する標準

ISA 220は個別の監査業務での品管手続を定め、ISQM 1は事務所全体レベルでの品管枠組みを定める。両者は上下の関係にあり、どちらか一方だけでは品管体制は成立しない。

ISA 240(不正)とISA 570(継続企業の前提)はIFACハンドブック内で統合的に扱われる。IAASBは改定時にもこの統合性維持を重視しており、ISA 240が「経営者の不正リスク」を強調する改定を行えば、ISA 570の「経営者と監査人の関係性」セクションも連動して改定される。繁忙期に改定対応が重なると負担は大きいが、基準間の整合が保たれているのはこの仕組みのおかげだろう。

IFACツール

ciferiのISA基準マッピング計算機は、各国の標準(監基報、NIA-ES、NV COS等)がIFAC/ISAとどの段落で対応するかを自動検索する。「監基報320はISA 320の第何項と合致するか」を素早く確認できる。

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