Definition

GRI はグローバルな適用性を前提とし、ESRS は EU 規制の枠組み内で企業の持続可能性報告を標準化するために設計されている

重要なポイント

GRI はグローバルな適用性を前提とし、ESRS は EU 規制の枠組み内で企業の持続可能性報告を標準化するために設計されている
ESRS は CSRD に準拠する大型企業に法的要件であり、GRI は任意の国際スタンダードである
報告対象範囲(スコープ)、ステークホルダーエンゲージメント、開示項目が 2 つのフレームワーク間で異なる

並行比較表

| 側面 | GRI | ESRS |
|-----|-----|------|
| 発行主体 | Global Reporting Initiative(国際 NGO) | European Financial Reporting Advisory Group (EFRAG)(EU 機関) |
| 適用範囲 | グローバル。すべての国、すべてのセクターの企業 | EU 加盟国および EU 上場企業。CSRD に従う企業向け |
| 法的拘束力 | なし。任意の報告スタンダード | EU タクソノミーおよび CSRD に統合。EU 大型企業には法的拘束力 |
| ステークホルダーエンゲージメント | マテリアリティ評価に取り込まれる | 二重的重要性評価の一部として必須。CSRD はマネジメント検討と外部当事者との協議を要求 |
| 業界固有ガイダンス | GRI セクター標準(オプション) | ESRS セクター補足(強制的。小売業、鉱業、農業、食品加工など) |
| 報告言語 | 英語が主流(スタンダード自体は多言語対応) | 英語および EU 公用語 |
| タキソノミーの統合 | なし。EU タクソノミーには未統合 | ESRS E1 は EU タキソノミー(環境目標、適格事業活動)と直接連動 |
| 環境の開示 | GRI スタンダード 300 シリーズ | ESRS E1(気候変動)、E2(汚染)、E3(生物多様性)、E4(資源と循環経済)、E5(エネルギー) |
| 社会の開示 | GRI スタンダード 400 シリーズ | ESRS S1(労働力)、S2(バリューチェーン労働者)、S3(影響を受けるコミュニティ)、S4(消費者・利用者) |
| ガバナンスの開示 | GRI スタンダード 200 シリーズ(経営理念) | ESRS G1(ビジネス行動)、G2(経営陣構成) |

実務における相違点の重要性

GRI と ESRS は、報告対象となる企業層が異なるため、監査人および企業の限定保証(LA)業務に対して異なる影響をもたらします。
GRI の場合: 企業は GRI Universal Standards(GRI 100 シリーズ)から始まり、その後マテリアリティ評価に基づいて GRI セクター標準を選択します。この評価プロセスは、管理者の視点と外部ステークホルダーの意見(コミュニティ、労働者、投資家など)の両方を含みます。監査人は、マテリアリティ評価の根拠が十分であることを確認する必要があります。これは通常、ステークホルダーオンブズマン活動(アンケート、ワークショップ、フォーカスグループ)の文書化を含みます。
ESRS の場合: EU 大型企業は、CSRD に基づいて二重的重要性評価を実施する必要があります。これは GRI マテリアリティ評価とは異なり、(1)企業への影響(財務的重要性)と(2)企業による社会・環境への影響(インパクト重要性)の両方を評価する必要があります。ESRS E1 は EU タキソノミーの 6 つの環境目標(気候変動の緩和、気候変動への適応、水・海洋資源の持続可能な利用、循環経済への移行、汚染の防止と管理、生物多様性と生態系の保護および回復)と統合されています。この統合は GRI には存在せず、ESRS 限定保証の複雑さを大幅に増加させます。
実務的には、GRI を選択する企業(北米、ASEAN、その他の地域)は比較的シンプルなステークホルダー協議プロセスを実施する傾向があります。一方、CSRD 対象企業は、EU タキソノミーとの整合性確認、二重的重要性の両側面の評価、および政府規制との同期を行う必要があります。監査人がこの区別を見誤ると、限定保証手続が不十分になるリスクが高まります。

実例による説明:Müller GmbH(ドイツ製造業)

シナリオ: Müller GmbH はドイツの中堅機械製造業で、売上 2 億 5,000 万ユーロ、従業員 800 名。2024 年、CSRD に基づいて初回のサステナビリティ報告書を作成することになりました。同社は当初 GRI スタンダードを使用するか、ESRS を選択するかについて検討していました。
ステップ 1:CSRD の適用対象確認
EU 大型企業の定義:平均従業員数 250 名以上、または売上 5,000 万ユーロ以上、または総資産 2,500 万ユーロ以上。Müller は全 3 項目を満たすため、CSRD 対象企業。段階的対応では 2025 年 1 月から限定保証の対象。
Müller は ESRS 適用を決定しました。これは GRI との相違点を認識したことを意味します。
ステップ 2:二重的重要性評価の実施(ESRS vs GRI マテリアリティ)
文書化注:ESRS 手続では、二重的重要性評価レポートを作成し、(1)企業への影響(CSRD 関連規制のリスク度)と(2)企業によるインパクト(社会・環境への影響度)の 2 軸で評価マトリクスを構築する必要があります。GRI の場合は、ステークホルダー視点と事業インパクトの融合プロセスで済みます。
ステップ 3:報告項目の選択と開示内容の確定
文書化注:ESRS では、「適格事業活動」(Taxonomy-aligned)および「移行事業活動」(Taxonomy-transition)の分類を実施し、各カテゴリで資本配分と環境パフォーマンスを開示する必要があります。これは GRI 報告では不要な追加的詳細度です。
ステップ 4:限定保証監査(Müller の場合)
CSRD では、初年度は限定保証(LA)を要求し、2次年度以降は合理的保証(RA)へ段階的に移行します。
文書化注:ESRS 限定保証では、「組織的境界」(レポート範囲内の子会社・事業の確認)、「価値鎖スコープ」(ティア 1 サプライヤーの排出量評価)、「報告の完全性」(Scope 3 排出計算の根拠となる活動ベースデータの妥当性)について、GRI よりも深掘りした検証が必要。
結論: Müller が ESRS を選択することで、GRI よりも高度な規制準拠と国際的な報告ガイダンスが必要になりました。CSRD 対象企業の場合、ESRS 選択は事実上の要件であり、GRI のみの報告では不十分です。反対に、CSRD 対象外の企業(小規模企業、米国企業など)は GRI を選択することで、より柔軟な報告プロセスを実現できます。

  • ESRS:気候変動(E1)、人権(S2)、循環経済(E4)、労働力(S1)をリスク評価の一部として特定
  • GRI:同じテーマを事業リスクおよびステークホルダーニーズの観点から特定
  • ESRS:E1(気候変動)は EU タキソノミーの気候変動緩和目標と連動。Müller は Scope 1、2、3 排出量の開示、TCFD フレームワーク互換の気候シナリオ分析を実施
  • GRI 305(排出):Scope 1、2、3 のみ。EU タキソノミーとの連動は不要
  • ESRS 限定保証:ISAE 3000 準拠(国際非財務情報保証基準)。ただし、EFRAG は ESRS スタンダード準拠性の追加的検証ガイダンスを発行。環境データ(排出量)の第三者検証と経営者評価の合理性確認
  • GRI 限定保証:ISAE 3000 準拠だが、ESRS ほどの技術的詳細度は不要。マテリアリティ評価プロセスおよびステークホルダー協議の適切性が焦点

監査人および限定保証実務者が誤解しやすい点

第 1 階層:規制当局の検査指摘(国際的なデータ)
EFRAG は 2024 年 9 月、加盟国に対して ESRS 準拠性に関する初期的な監視レポートを発表しました。同レポートでは、二重的重要性評価における「影響重要性」(インパクト・マテリアリティ)の開示不足が最頻の指摘でした。企業が財務的重要性(企業への影響)のみに焦点を当て、インパクト重要性(企業による社会・環境への影響)を過度に簡潔に報告しているケースが多数指摘されています。GRI 報告では、この区別が存在しないため、同じタイプの指摘は通常発生しません。
第 2 階層:標準参照による実務的エラー
GRI スタンダードでは「マテリアリティ」(GRI 3.1)は単一の概念として扱われ、ステークホルダーおよび事業の両方の視点を統合した評価を指します。一方、ESRS では「二重的重要性」が明示的に定義され、E1-1(気候変動のリスク評価)、S1-1(労働力リスク評価)など各テーマ別に「財務的重要性」と「インパクト重要性」を分離して報告することが要求されています。監査人が「GRI のマテリアリティと ESRS の二重的重要性は同じもの」と扱うと、限定保証手続が不十分になります。特に、ESRS では「定性的インパクト評価」(qualitative impact assessment)が要求される項目が多く、数値化されない社会・環境インパクトの根拠性を検証する必要があります。
第 3 階層:実務的なギャップ
GRI 報告書と ESRS 報告書を同時に作成する企業が増えています(例:グローバル企業で本社は CSRD 準拠、子会社は GRI のみ)。この場合、同じデータセット(排出量、労働災害件数など)が GRI 305 と ESRS E1 に報告されることがありますが、開示項目、計算方法、報告範囲が異なる場合があります。監査人は、各フレームワークの個別要件を確認する必要があり、統合的な検証アプローチでは不十分です。特に、ESRS のセクター補足(農業、採掘、小売など)は GRI セクター標準とは異なる詳細度を要求する場合があり、追加的な検証手続が必要になります。

GRI と ESRS の共通点

  • 二重的重要性に基づく:両フレームワークとも、企業への影響と企業による社会・環境への影響の両側面を考慮するマテリアリティ・アプローチを採用しています。
  • ステークホルダー協議を含む:マテリアリティ評価プロセスにおいて、管理者以外のステークホルダー(従業員、コミュニティ、投資家など)の意見聴取が要求されます。
  • 定量データおよび定性情報を統合:両フレームワークとも、数値指標(排出量、給与格差など)と説明的開示(政策、目標、インパクト評価)を組み合わせた報告を要求します。
  • 国際的なサステナビリティテーマに対応:気候変動、人権、ダイバーシティ、循環経済などのグローバルなサステナビリティ課題を共通のテーマとして扱っています。

関連する用語

  • 限定保証(Limited Assurance): サステナビリティ報告書の信頼性を検証する監査タイプ。ISAE 3000 準拠。合理的保証よりも低い確実性レベルを提供する
  • CSRD(企業持続可能性報告指令): EU 法。大型企業に年間サステナビリティ報告書の作成と限定保証監査を義務付ける
  • 二重的重要性(Double Materiality): 企業への影響と企業による社会・環境への影響を評価する概念。ESRS の中核
  • EU タキソノミー(EU Taxonomy): EU タキソノミー規則に基づく環境持続可能事業活動の分類。ESRS E1 と連動

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