仕組み

監基報570.13は、監査人に継続企業の前提に関する監査証拠を入手するよう求めている。企業が少なくとも報告期末から12ヶ月間にわたり事業を継続できるかどうかの評価であり、将来キャッシュフロー(以下「CF」)の分析、融資契約書の確認、経営者への質問、外部の信用情報照会を通じて行う。

評価の結果、重大な不確実性が存在する場合、監査人は次のいずれかの対応を取る。(1) 企業が不確実性を財務諸表に開示している場合、無限定適正意見を表明する。(2) 開示が不十分な場合、限定的な適正意見を表明する。(3) 継続企業として機能しないと判断する場合、不適正意見。(4) 経営者が評価自体を拒否した場合は意見不表明とする。

監基報570.20では、重大な不確実性が存在しない場合であっても、企業が経営困難に直面しているときは追加的な検討が必要になる。経営者の対応策が実現される可能性を、監査人は評価しなければならない。前提として、経営者が「計画を立てた」と述べただけで安心する審査が多すぎる。融資の借り換え予定があるのか、事業売却の話が進んでいるのか。計画の存在と実現の見込みは別の問題であり、この区別を調書に落とし込めていないチームが目立つ。

実例:田中産業株式会社

被監査会社は日本の中堅機械製造企業、FY2024年、売上€28M(約42億円換算)、IFRS報告。

第1段階 リスク要因の識別

田中産業は過去2年間、粗利率が35%から28%に低下。顧客1社が全売上の42%を占めており、当該顧客は経営難状態にある。有利子負債は€12M、銀行融資の更新期限は2025年6月。

文書化ノート:リスク評価メモに「継続企業リスク:顧客集中、負債返済期限、粗利率低下」と記載。

第2段階 経営者への質問と書類確認

監査人は経営者に以下を質問した。顧客1社の経営状況をどう把握しているか。融資の更新見通しはあるか。新規顧客獲得の具体的な進捗はどうか。代替的な資金調達手段は検討しているか。

経営者は「新規顧客を3社獲得する計画がある。顧客1社の経営難は一時的と見ている」と述べた。

監査人は融資契約書を確認し、銀行との定期協議の議事録を入手。銀行は「売上が維持され、利益率が改善するなら更新を検討する」との意向であった。

文書化ノート:経営者質問記録、銀行との協議議事録、融資契約書の写しを監査調書に添付。

第3段階 対応策の実現可能性評価

新規顧客獲得計画の詳細を確認した。営業担当者との面談を実施し、顧客候補への提案資料を閲覧。3社のうち1社からは基本合意を得ていたが、残る2社は提案段階であり、6ヶ月内の受注は不確実であった。

粗利率改善について、経営者は「コスト削減で3ポイント改善」と述べたが、詳細な改善計画は存在しなかった。経験上、「コスト削減で利益率を改善する」という回答は経営者の常套句であり、具体的な施策と金額の裏付けがなければ監査証拠としての価値はない。

文書化ノート:営業提案資料、顧客候補企業との基本合意書(確認取得)、コスト削減案を監査調書に添付。1社の受注は見込める一方、2社は不確実。コスト削減計画は具体性が不足している、というのが結論である。

第4段階 重大な不確実性の判定

12ヶ月間のCF予測を自ら計算した。顧客1社の経営難が改善しない場合、売上は10%低下するシナリオを想定。新規顧客1社の受注を加えても、粗利率28%が維持される場合、営業CF生成は€4M(負債返済必要額€2M)で十分に賄える。しかし粗利率が27%まで低下し、かつ顧客1社との取引が50%減少する場合、CF生成は€2Mとなり、負債返済と運転資金の両立は困難になるだろう。

融資の更新確実性は中程度。銀行は利益率改善を条件としており、実現見込みは不確実。

文書化ノート:CF予測(複数シナリオ)、銀行との協議メール、経営者の対応策リストを調書に統合。判定は「重大な不確実性が存在する可能性が高い」。

判定結果

重大な不確実性が実在する。田中産業は財務諸表で継続企業に関する重大な不確実性を開示する必要があった。開示がなされており、内容も経営者の対応策を説明していたため、監査人は無限定適正意見を表明したが、継続企業に関する重大な不確実性にKAMを監査報告書に含めた。

監査人と経営者が誤るパターン

CPAAOBモニタリングの指摘傾向

CPAAOBの2023年度モニタリング結果では、継続企業の評価が不十分な事務所が依然として指摘されている。「経営者が対応策を述べた場合、その実現可能性を十分に吟味せずに継続企業と判定した事例」が複数報告された。経営者の言葉だけでは不十分であり、客観的な証拠(銀行との協議記録、顧客との基本合意、実行済みのコスト削減実績、融資条件の書面確認)が必要になる。

監基報に基づく実務上の誤り

監基報570.15は、経営者の対応策が「実行される可能性」を監査人が評価するよう求めている。しかし多くの監査チームは、対応策が「実行される計画である」という事実だけで評価を終わらせてしまう。正直、過去に自分も同じ誤りを犯したことがある。融資の借り換え予定は、銀行の正式な承認を得るまでは「可能性」にすぎない。顧客獲得計画は、顧客が契約を署名するまでは「計画」にとどまる。計画の存在と実現の見込み、この区別を調書に残さないチームがあまりに多い。

文書化の実務的な不足

監基報570.A2に基づく4つの財務指標(流動比率、負債比率、営業CF、借入金返済スケジュール)の評価が、形式的に行われている事務所が多い。チェックリストで「流動比率1.0以上ならOK」といった機械的な評価に陥りやすいが、実際には流動比率1.0であっても、その内訳(売掛金の回収可能性や商品有価証券の流動性)によって評価は変わる。各指標の背後にある経営現実を吟味する文書化が求められるところだが、正直ここまで掘り下げている調書にはめったに出会わない。

関連する用語

継続企業の前提 財務諸表が企業の継続を前提に作成されることの意味と、その前提がいつ脅かされるか

監基報570改訂版 2024年改訂で継続企業の評価段階が分離された変更点

重大な不確実性 継続企業の評価におけるリスク判定の閾値と文書化基準

経営者の対応策 継続企業リスク発見時に経営者が講じる融資借り換えや事業売却等の方法と、監査人がその実現可能性をどう評価するか

キャッシュフロー予測 継続企業評価の基盤となる経営者予測書の監査上の扱い

融資契約条項 銀行融資の更新条件となる利益率やレバレッジ比率が、継続企業評価にどう影響するか

関連ツール

ciferi.comの継続企業チェックリストは、監基報570.A2の4つの指標を自動計算し、12ヶ月CF予測のテンプレートを提供する。設定パネルで業界別のベンチマーク比率を選択すると、流動比率や負債比率の異常値を検出できる。

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