Definition

CSRD対応のサステナビリティ報告書を初めて受け取った監査人が、1,100超のデータポイント一覧を見て「どこから手をつけるんだ」と固まる。経験上、この反応は珍しくない。財務諸表監査なら勘定科目の構造を熟知しているのに、ESRSデータポイントとなると途端に見通しが立たなくなる。

仕組み

CSRDとESRSにより、各データポイントは企業が測定・報告すべき具体的な情報単位として詳細に規定されている。GHG排出量(スコープ1・2・3)や水資源消費量などが該当し、それぞれ測定方法と集計ルールが定められている。

監査人は、企業が報告したデータポイントがESRS基準の定義に従い、所定の測定・集計方法で計算されているかを検証する。限定的保証では合理的保証(財務諸表監査)ほど深度のある手続は実施しない。分析的手続と例示的テストを中心に経営者への質問も組み合わせ、データポイントに虚偽表示がないか確認する流れとなる。

ESRS基準は段階的に導入されており、第1段階(2024年報告、2025年監査開始)では12のESRS基準が対象である。第2段階では追加基準が導入される予定だ。繁忙期に入る前に、クライアント企業がどの段階に該当し、どのデータポイントが監査対象かを特定しておかないと、監査計画が根本から崩れる。

計算例:Bergmann Maschinenbau GmbH

ドイツの機械製造企業、2024年度会計年度、年間売上€28.5百万、CSRD第1段階対象。

同社は2024年度のサステナビリティ報告書を初めて発行し、ESRSに準拠した12のデータポイントを報告した。GHG排出量(スコープ1・2・3)が最大の監査リスク項目と特定され、報告されたスコープ1排出量は年間480トンCO2相当であった。

データポイントの定義確認

ESRS E1-6「直接排出(スコープ1)」の定義に従い、どのエネルギー源と活動がスコープ1に含まれるかを企業の報告ガイダンスで確認した。

調書記載事項:報告基準との対応表とスコープ分類の根拠。

測定方法の検証

企業はスコープ1排出量をエネルギー請求書と燃料消費記録から計算していた。監査人は使用した排出係数(天然ガス1㎥あたり1.96kg CO2)がIPCC公開データベースと一致しているか確認した。

調書記載事項:使用した排出係数の出典と妥当性の評価結果。

計算プロセスの例示テスト

12か月のうち3か月(1月・6月・11月)を選定し、以下を検証した。

1. 報告されたエネルギー消費量が請求書と一致する 2. 排出係数が正しく適用されている 3. 合計が正確に計算されている 4. 月次データファイルとの遡及的照合に矛盾がない

調書記載事項:サンプル月の計算式、使用データ、検証結果の一覧表。

報告値の評価

3か月のサンプルテストの結果、すべての計算が正確であり、報告値480トンは虚偽表示に該当しないと判断した。ただしスコープ3(サプライチェーン排出)に関しては企業の定義に曖昧な箇所があり、調書の改善を指摘している。

調書記載事項:限定的保証の結論とクライアントへの指摘事項。

スコープ1・2は請求書ベースで検証しやすいが、正直、スコープ3の範囲画定は監査人泣かせだ。サプライチェーン上流の排出データをどこまで追うかは企業によって解釈がばらつくため、品管レビューでも必ず論点になる。

監査人と経営者が誤解すること

誤解1:データポイント監査は完全性監査ではない

限定的保証レベルでは、監査人がすべてのデータ点検を実施することは期待されていない。リスク基盤で監査対象のデータポイントを絞り、二重マテリアリティに基づいて優先度を判断する。企業経営者が「すべてのデータを確認してくれた」と思い込んでいても、監査人の責任範囲はそれより狭い。

誤解2:財務監査の基準値をそのまま転用する

企業の財務コントローラーが「ISA 320の重要性基準値をサステナビリティデータにも使おう」と言い出すことがある。これは誤りである。ESRSデータポイントのマテリアリティは二重マテリアリティの枠組みに基づき、財務的インパクトと企業外への影響(環境・社会)の両面から判断される。財務監査のマテリアリティとは別の基準だ。

誤解3:報告体系の階層化を見落とす

ESRSデータポイントは「基本的な」「業種別の」「企業固有の」データポイントに階層化されている。監査人が企業に割り当てられたデータポイントを正しく特定していなければ、監査範囲そのものが誤る。初期段階でESRSナビゲーターを用い、対象となる全データポイントをクライアントと一緒に洗い出す必要がある。

関連用語

- 二重マテリアリティ - ESRSデータポイントの重要性判断の基礎。企業自身への財務的影響と社会・環境への影響の両側面を考慮する - CSRD - ESRSデータポイントを規定する欧州指令。企業のサステナビリティ報告を義務付ける - 限定的保証 - ESRSデータポイント監査で一般的に付与される保証レベル。財務監査よりも低い水準の保証である - ESRS - データポイント定義の出典となる欧州基準。12のセクター横断的基準と業種別基準から構成される - サステナビリティデータ監査 - ESRSデータポイント監査を含む、企業の非財務情報に対する保証業務全般 - スコープ 1、2、3 排出 - GHG排出量のカテゴリー分類。ESRSで監査上のリスクが集中しやすいデータポイントである

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