Definition

継続企業の前提は会計報告の根本的な前提である。ISA 570. 1は監査人に対し、この前提が成立しているか、かつ経営者がこれを合理的に評価しているかを判断するよう求めている。 現行のISA 570では、疑義事象と経営者の対応策を一体で評価するアプローチが多い。ただし改訂基準(2026年12月施行予定)では手順が明確に2つのステップに分離される。ISA 570(改訂2024).

重要なポイント

  • 継続企業の前提が成り立つかどうかは、経営者が決定する。監査人は評価と文書化を行う。
  • 信号となるリスク要因(財務指標の悪化、借入金返済の遅延等)がない場合でも、積極的な確認作業が必須。
  • ISA 570(改訂2024)は評価の順序を変えた。期末時点での疑義事象を全てグロスベースで洗い出してから、経営者の対応策を評価する方法に統一される。
  • ISA 570(改訂2024).A5は、経営者の評価期間が貸借対照表日から少なくとも12ヶ月間をカバーすることを求めている。例えば、3月決算の企業で経営者が翌年9月までの6ヶ月間のみを評価対象としていた場合、監査人はその評価期間の不足を指摘し、最低12ヶ月間のキャッシュフロー予測と事業計画の提出を求めなければならない。

継続企業の前提の役割

継続企業の前提は会計報告の根本的な前提である。ISA 570.1は監査人に対し、この前提が成立しているか、かつ経営者がこれを合理的に評価しているかを判断するよう求めている。
現行のISA 570では、疑義事象と経営者の対応策を一体で評価するアプローチが多い。ただし改訂基準(2026年12月施行予定)では手順が明確に2つのステップに分離される。ISA 570(改訂2024).A2はまず全ての潜在的なリスク要因をグロスベースで特定することを求め、その後、経営者が講じた対応策がそのリスクを軽減するかどうかを評価する。この順序の厳格化は、監査人が予め対応策を知っていることで重要な兆候を見落とすことを防ぐためである。
評価対象となるリスク要因はISA 570(改訂2024).A2に列挙されている。流動比率、営業キャッシュフロー、借入金返済スケジュール、赤字の累積状況、市場シェアの喪失、経営陣の入れ替わり。数値的な悪化だけでなく、定性的な兆候(訴訟中の案件、許認可の失効等)も含まれる。監査人がこれらを「評価」するとは、単に数字を眺めることではなく、各リスク要因について経営者がどのように判断し、その判断根拠が何か(内部文書、外部見積もり、財務計画等)を確認することである。

実践例: Müller Maschinenbau GmbH

ドイツの中堅機械部品製造業。2024年度末決算。売上€28M、営業利益率2.3%、流動比率1.1倍。
ステップ1. リスク要因の洗い出し
ISA 570(改訂2024).A2に基づき、以下のリスク要因を特定した。
文書化上の注記: 監査調書には以下を記載する。(1)各リスク要因を特定した時期と根拠(何月の経営会議記録を確認したか、どの外部データを使用したか)。(2)経営者による判断書または経営陣の会議記録で、当該リスク要因が議題に上がったか否か。上がっていない場合は、経営者がこのリスク要因に気付いていないことが記録される。
ステップ2. 経営者の対応策の評価
経営者は以下の対応策を提示した。
文書化上の注記: 監査調書には以下を記載する。(1)対応策が講じられたのか、あるいは計画段階なのか。既存実績は何か。新規顧客に関しては、確定受注か見込みか。受注契約書の写しを添付。(2)対応策により、当初特定したリスク要因がどの程度軽減されるか。例えば、製品Cシリーズへのシフトで粗利益率が0.8%上昇すれば、営業利益率は2.3%から3.1%になる。それでも業界平均の4.5%には届かない。では経営者は何をさらに講じるのか。(3)銀行の借り換え承認書は日付、署名、具体的な条件を含んでいるか。
結論: 経営者の対応策は部分的に信頼性がある(借り換え承認書は確定、製品シフトは開始済み)が、新規顧客の€3M見込みは2025年度の実績待ちである。そのため、継続企業の前提に対する重大な不確実性が存在する。ISA 570(改訂2024).16では、この不確実性を財務諸表の注記で開示するよう求めている。経営者の注記案をレビューし、以下を確認した: (1)不確実性の性質、(2)経営者の対応策、(3)これらが解決しない場合の帰結、(4)監査人は事業の存続を保証しないという免責事項。監査意見は「継続企業に関する重要な不確実性の存在」について追加パラグラフを含める。

  • 営業利益率が低い(業界平均4.5%)
  • 流動比率が低めである(業界平均1.5倍)
  • 主要顧客(売上の35%)が来期の発注を15%削減する予定
  • 既存の長期借入金€12Mの返済期限が2026年
  • 製品Cシリーズ(利益率8%)への生産シフト。2025年上期に粗利益率を0.8%向上させる見込み
  • 新規顧客(自動車部品メーカー)の獲得。2025年度から€3M相当の受注を見込む
  • 既存借入金の借り換え。銀行から2026年の返済を2028年に繰り延べる承認を取得

監査人と検査官がよく見落とすこと

Tier 1 – 規制機関の指摘事例:
金融庁の2024年度モニタリング対象業務では、継続企業の評価に関連する指摘が約22%の案件で記載されている。最も頻繁な指摘は、評価の順序が不明確な調書である。すなわち、経営者が提示した対応策をまず確認してから、その対応策により何が改善されるかを後付けで判断するパターン。ISA 570(改訂2024)では、この順序を逆にしなければならない。リスク要因をまず客観的に洗い出し、その後に対応策を評価する。
Tier 2 – 標準が求める実施項目と実務の乖離:
ISA 570(改訂2024).A2の「リスク要因リスト」を形式的に実施する傾向が見られる。例えば、流動比率の計算をしたが、それが業界平均や当該企業の歴史的水準と比較されていない。また、赤字決算が続く企業でも「経営者が継続企業を前提として財務諸表を作成している」という事実だけで評価を完了させる調書が散見される。ISA 570(改訂2024).13は、経営者の判断が「合理的」(reasonable)であるかを監査人が評価するよう求めている。合理性とは、その判断が客観的な証拠に支えられているか、他の合理的な判断はないか、経営者の見立てと一般的な業界見通しに乖離がないか、を検討することである。
Tier 3 – 文書化における一般的な実務の課題:
監査人の「継続企業について懸念がない」という結論が記載されていても、その根拠が明示されない調書がある。例えば、「現金流入の見通しは良好」と記載されているが、何に基づく見通しか(経営者の見積もりか、銀行融資の内定か、外部の市場調査か)が不明である。ISA 570(改訂2024).15は、監査人の評価根拠を完全に文書化するよう求めている。

同等概念との違い

ISA 570とISA 570(改訂2024)の主な相違点は、評価手順の厳格化である。改訂基準はリスク要因の特定と対応策の評価を明確に分離し、経営者が講じた対応策の信頼性をより詳細に検証することを求めている。

関連用語

  • ISA 570(改訂2024) – 継続企業の前提に関する改訂版監査基準。2026年12月施行予定。
  • 後発事象 – 期末日後に生じ、継続企業の前提に影響を与える可能性のある事象。ISA 560で規定。
  • 経営者の見積もり – 継続企業の評価において、経営者が用いた将来の現金流入見積もり等。ISA 540で規定。
  • 不確実性の開示 – 継続企業の前提に関する重要な不確実性を財務諸表で開示することの要件。ISA 570.16で規定。
  • キャッシュフロー分析 – 継続企業の評価で用いられる重要な手続。ISA 570.A2で言及。

関連ツール

継続企業チェックリスト(ISA 570改訂版対応)を使用することで、評価手順の漏れを防ぐことができる。リスク要因の洗い出しから経営者の対応策の評価、不確実性の開示確認までを段階的に実行する。

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